06 世界を諦めない者 >> CREATER "B" ①
「…………こんな世界、か」
──コスプレメイド、
彼女の半生は、まさしく『破天荒』と呼ぶに相応しいものだった。
陰陽術の名門・
しかし、彼女は小学生になる直前に突如として生家を出奔。
以降、
単なる無鉄砲かと思いきや、修得した陰陽術で民間陰陽師として普通に名を馳せるわ、盆と正月には帰省するものだからいつしか
此処まで来れば、
そうしていつしか『
個人的な恩義のある知り合いに依頼され、依頼主の娘──令嬢風の少女こと
しかし、この名物メイドの半生を語る上では、幾つかの説明不能な謎があった。
何故、これほど早く、そして高度に陰陽術を扱うことができたのか。
何故、幼くして出奔して一人で生き抜こうなどと思ったのか。
何故、そのままたった一人で一〇年近く社会活動を営み、大成できたのか。
「
何故、そんなにも──
「確かアナタ、前世からメイドでしたわよね? 思う存分メイドをやれることに世界はどうとかは関係ないのではなくて?」
「あァ、そうだな。この世界も、思う存分メイドをやれる世界だよ」
──転生。
それらの疑問に答えるならば、ひとまずこの答えが分かりやすかろう。
端的に言えば、
そしてこの世界では、彼女と同じように『シキガミクス・レヴォリューション』を読んだ、もしくは観たことのある人間が生前の人格を保持して生まれてくるケースが多数確認されている。
このウラノツカサで確認されているだけでも、およそ一〇〇人。
転生者であることを他者に隠している者も含めれば二〇〇人はくだらないだろうと言われ、ウラノツカサの全校生徒のおよそ二%弱は転生者が占める計算となる。
先ほどのサメ少女もそうだし、
「……ああ、わたくしできることなら、あと五〇年早く生まれたかったですわ。そうすれば平和な時代のうちに『シキレボ』の世界の楽しいところを思うさま堪能して寿命で死ねましたのに……」
「お嬢様、七〇年弱じゃ人間なかなか死ねないモンだぞ」
「そんなこと言われても、わたくし、前世の享年は三十路前でしかも病死でしてよ! 人生一二〇年時代とかとんだ欺瞞ですわ!!」
うんざりしたように肩を落とす
「それに、五〇年前だとちょうど『陰陽再黎明編』のあたりだから今より治安悪いし」
「どの時代も満遍なく最悪ですわよねぇこの世界!! 救いはないのぉ!?」
「お嬢様。口調、口調が崩れていますわよー」
本気の悲鳴を上げ始めてしまった
「救い……救いねェ」
『シキガミクス・レヴォリューション』の世界は、確かに危険と隣り合わせである。
何しろ怪異との遭遇事件が日本人の死因のトップ10にランクインしているし、政府は怪異対策に追われていて陰陽術犯罪に対する法整備すらろくに整っていない。
「……『草薙剣』があれば、他の皆さんもまだ未来に希望を持てたんでしょうけど……」
──ただし、そんな世界にも救いはあった。
『草薙剣』。
神話に語られる剣と同じ名を持つ、『陰陽革命』初期に作成されたシキガミクスだ。
その刃は
──というか、実際にそういう能力があった。
『原作』においても、この『草薙剣』は何度となく主人公一行ひいては世界を救うキーアイテムとなっていた。
このように、『シキガミクス・レヴォリューション』という物語では
「…………なんか
しかし、それは一つ歯車が狂えば『逃れられないバッドエンドが幾つも転がっている世界』という事態にもなりかねない。
そして直近のリミットは、割合間近に迫っていた。
「多分、転生者の誰かが持って行っちゃったんだと思うんですけれど……客観的に見ればヤバイなんてもんじゃないですわ」
背中を押されるがままに歩いていた
つまるところ。
「『原作』が始まるの、三日後ですわよ。三日後」
──
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