第31話 俺にできる事

「すうすう..」


「はぁ..」


長いまつ毛に雪の様に白い肌

本当に俺なんか釣り合わないレベルの美少女が横でぐっすりとお眠りだ


「めっちゃ疲れた..」


夕陽も落ち辺りはすでに真っ暗

今俺と立花さんは帰りの電車に揺られている所だ


「..」


まだ余韻が抜けてない様でぼーっとする

夢の様な体験だったがまだ手の中に残る立花さんの体温


やっぱりあの時俺たちは互いに抱き合ったのだ


「自分でも信じられねぇよ..」


ついこの間まで憧れだった彼女が今じゃこんな近くだ

今だって男子の前だってのに何も警戒せず無防備だ


「俺じゃ無かったらどうすんだ立花さん..」


勿論寝ている彼女に手なんか出すわけがない

いや出せない 仮にそんなことして彼女に嫌われたら..

考えるだけで意識が遠のいていく様だ..


それにこんなに無防備ってことはそれくらい俺を信用してくれてるって

事でもあるのかもしれない


『私..!ずっと辛かった!ピアノを弾くのが..!』


「っ!」


あの時の立花さんが言っていた言葉が忘れられない

まさか彼女があそこまでピアノに対して辛い思いをしていたなんて

あれだけ一緒にいたのに気づいてあげることが出来なかった


俺には何ができるのだろう

彼女のためにしてあげれることは..


そんな事を考えてみるがどこまで行ってもこれは彼女自身の問題だ

俺が立花さんの代わりになってあげることもできないし

正直ピアノだってこれまで料理一筋でやってきた俺には全くわからない


ピコン!


「ん?」


ぼーっと考えていると電車の中にスマホの通知音が響いた

すぐさま確認してみるとそれは智紀からのLoinだった


智紀「お疲れ様 もうそろそろ着いた?」


「智紀っ..」


そういえば今日立花さんとデートをするに当たって智紀に根掘り葉掘り

服装やアプローチについて聞いたんだった


大地「まだ電車 あと少しで着くみたいだけどね」


智紀「そっか 着いたら教えてなー」


多分あっちは何気なく連絡してくれているんだろうが

正直立花さんの本音を聞いて少し心が乱れている俺にとっては

嬉しかった やっぱりこういうのは経験豊富な智紀に聞くのが良いだろう


今俺たちが乗っているのは千葉から東京に帰る電車だ

しかしまぁ何と今日は珍しく俺たち以外誰も人が乗っていない

今すぐこの気持ちを何とかしたくてキーボードで文字を打つ


大地「なぁ智紀」


智紀「今電話して良い?」


そうして既読がついた瞬間智紀から電話がかかってきた

自分から電話したいと言った本人がそのあまりにも早い速度に少し驚く


「もしもし お前電車の中じゃ無いのかよ」


「今俺たち以外誰も人いないから良いんだよ 

 立花さんも寝てるし仮に人が来たらすぐに切るから」


「ははっ 酷い扱いだな」


確かに都合がいいと思う

それでも心に残るモヤモヤが気持ち悪くてすぐにでも吐き出したい気分だ


「それで?お前がかけて来たってことはなんかあったな」


「うん.. えっとさ」


ゆっくりとさっきあった事を伝えた

まぁ立花さんのプライベートのこともあるからそのまま伝えるって

訳にはいかないけど..


「..」


俺が話している間智紀はただ黙って話を聞いてくれていた

やっぱり一度口にすると止まらなくて

あまり関係のない手を繋いだ話とかも混ぜながら5分くらい説明したと思う


「って事があってさ..今分かんなくなってんだ..」


「俺口では立花さんの力になりたいって..そう言ったけどさ

 具体的にどうやったら力になれるか浮かんでこないんだ..」


「..」


「俺どうしたら良いのかな..やっぱりピアノについて勉強してみるとか..」


俺がそう言おうとした時だった


「はぁ..」


「ん?どうした?」


スマホ越しから思いため息が聞こえた

一瞬何が起こってるかわからなかったがすぐさま言葉が聞こえる


「お前こそどうしたんだよ らしくない」


「え..?」


「ピアノを勉強してどうすんだよ 

 それが本当に彼女のためになるのか?」


「お前がブレてどうすんだよ

 お前はお前らしく真っ直ぐに彼女にしてあげたい事をやれば良いんだよ」


「.. 俺が彼女にしてあげられる事..」


「まぁそれはお前が決める事だからこれ以上は俺も分かんないけどよ」


「全力で彼女に向き合ってやれよ」


「なんか重い話になっちまったな..じゃあまた学校でな」


「ああ..うん そのありがとな」


「良いって事よ お前赤点だけは気をつけろよ?」


「うっ..やめろよ!はぁ嫌だな..」


「ははっ! じゃあな!」


そう言って電話は切られた


「..」


終わった後もまだ頭の中に智紀の言葉が響いている

一度夢美さんとすれ違いがあった智紀だからこその言葉の重み..


あいつの言う通りだ そもそも勉強嫌いの俺が無理にピアノを勉強したところで

覚えれる訳が無かった そんな小手先の応援なんかじゃ彼女には届かない


「..!」


そうだ思い出した 俺の気持ちを届ける方法

俺と立花さんの出会いのきっかけでもあったあれ..


「..ん わほぁ..あれ?ここは?」


「おはよう立花さん もうすぐ駅だよ」


その時ずっと寝ていた立花さんが起きて来た

まだ少し眠いのか目を擦っている


「わっ!わ、私寝ぼけちゃってて恥ずかしい..」


「そんな事ないって 今日は疲れたねー」


「う、うん..その最後のやつ..ありがとう」


「私これまで胸の中にしまい込んでいたから..

 やっと言えてスッキリしたと言うか..そのありがとう!」


「..いやいや全然!少しびっくりはしたけど..」


(『胸の中にしまい込んでいた..』ね..)


あっちからすればこれでもうお互い内緒事は無いと思っているだろう

だがしかしまだ一つ残っている..

ずっと内緒にしてた いや内緒にし続けるつもりだった


それでもやっぱりタイミングは今しかないと思う

俺が彼女にしてあげれる事..ここまで来たら内緒とか関係ない..!

言うのが怖いとかも関係ない..!


彼女だってずっと怖かったんだ..

ピアノの事..親のこと..


彼女は優しいから全部自分で抱えようとする

それが積もりに積もって爆発したのが今回だ


だから俺だって言うんだ

自分の為に 彼女のために..


「あのさ 俺も1つ言っておきたい事があるんだけど..」


「言っておきたい事..?」


「うん..実は..」


「『たかたかちゃんねる』ってさ俺なんだ」


「えっ?」


ずっと思ってた

正直もっと早く言えばよかったとか思ってたりもする


それでも俺が彼女と本当に向き合うために..


本音で全部伝えようと思う










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