第29話 立花さんとの「初めて」

俺には苦手なものが2つある

一つ目は勉強 特に数学 あんなの人間に出来る所業じゃ無いと俺は思う

計量カップを使えるようになるまで3年かかったくらいには

数字は俺の苦手分野だ


そして二つ目..実を言うとこれは別に苦手では無かった

むしろ好きの分類だったのだが..


「うわぁ!!!やばいって!」


「はは!早いね!」


「無理無理!死ぬって!これ!」


まさか17にもなってテーマパークのアトラクションで

泣きそうになるなんて思わなかったよ


これが2つ目ただ今苦手になった絶叫アトラクションだ


「ありがとうございましたー!」


アトラクション終了のアナウンスが流れ安全ロックが解除される


「はぁ..本当にここのアトラクションはどうなってるんだ..」


正直言ってここのアトラクションは今まで俺が行ってきたテーマパークの中で1番怖い 


「ふふっ 楽しかったね!」


この音速の速さのコーヒーカップが終わった後も立花さんは平然としている


「す、凄いね立花さんは..ガチで気絶するかと思った..」


「私ここのテーマパーク子供の頃家族でよく来てたの!

 昔はもっと速かったんだけど..」


「ひ、ひぃ..」


「でもちょっと疲れちゃった..」


「確かに..じゃあさそろそろお昼にしよっか」


スマホで時刻を確認すると12時30分そろそろお昼時だ


あたりを見渡すと少し先にハンバーガーなどを売っている屋台を見つけた


「あそこのお店とかどう?」


「私もあそこが良いって思った!」


「本当?じゃあ行こっか」


「うん..って!わぁ!」


そう言って俺と立花さんが歩こうとした時..


「わっ!イテテ」


「ご、ごめんね!僕!気づかなくて!」


「す、すみません!うちの子が!」


「いやいや!わ、私もすみません..」


前から走ってきた子供が立花さんとぶつかってしまった

その後すぐその子の母親が謝るが立花さんもそれに引けを取らず

謝る


結局1分くらい互いに謝り続けた後その家族は別の所へ向かって行った


「立花さん大丈夫?」


「う、うん..平気だよ!」


「それにしても家族で来てる人たちが多いね..」


「う、うん..休日だから人が多くて..」


正直関口にチケットを貰った時はこのテーマパークの事を知らなかったが

どうやら子連れやカップルたちの間では人気の場所らしい


こんなに人が多いと前智紀たちと行った水族館を思い出す

確かあの時は人混みに飲まれて離れ離れになったんだった


(また前みたいになったら..)


今回は前とは違ってスマホの充電もきちんとしてきたから

仮に離れても問題は無いだろう


だがさっきからの俺は少し情けない気がする

せっかく女子と2人でデートに来ているのにアトラクションでビビっていたり

したら格好がつかないってもんだ


(ここは勇気をだせ..!俺!)


「..」


「え?た、鷹藤君?」


「あのさ..も、もし立花さんが良かったら何だけどさ..」


俺はそっと立花さんの方に手を出した


「パークにいる間手を繋がない?前みたいに離れ離れになったら

 大変でしょ?」


(は、恥ずかしい..だが耐えろ..俺っ!!)


今の俺の顔は見なくとも真っ赤だということが分かる


「鷹藤君..」


カッコつかないが俺が今できる最大の行動はこれくらいだ

正直色々順序を飛ばしすぎな気もするがここが仕掛けどころだと思った


ぎゅっ


「っ!立花さん!」


「み、見ないで..私も今..多分顔..赤いから..」


気がつくと俺の右手に暖かくそして柔らかい感触があった

細くすべすべしている指..間違いなく立花さんの手だった


「じゃ、じゃあ..行こっか..」


「う、うん」


立花さんと初めて手を繋いだ俺はゆっくりペースを合わせながら

屋台に向かって歩く


「...」


「...」


(せっかく距離を縮めれたのに..喋れないっ..!)


お互いこのテーマパークの空気感に呑まれて正常じゃ無かったのかもしれない

繋いでみたのは良いものの緊張して中々話を持ち出せない


屋台まで大した距離じゃ無いのに永遠のように感じてしまう


(何か話さなきゃ..チュッピー君の事とか..)


そうして話の話題を考えている間も無言は続く


しばらくして最初に口を開いたのは立花さんだった


「鷹藤君の手..大きいね」


「えっ!そ、そう?」


「う、うん..普段一緒に料理している時は気づかなかったけど..

 安心する感じ..」


「そ、それを言うなら立花さんの手だって..

細いけどしっかりとしてて..」


やっぱり変だ おかしい 普段ならこんな会話しない


やっぱりこの空気感におかしくされている

だが別に今すぐ手を離したいとかそういう気持ちにはならない

むしろずっと握ってたい..暖かさを感じていたい..

そう思えてしまう


そんなことを考えながら歩いていると遂に到着したようだ

随分と長蛇の列が出来ている


俺たちも周りと同じように並ぼうとするが..


(この手どうしよう..)


本当はずっと繋いでいたいが流石にそういう訳にもいかない

並ぶ時や食べ物を持つ時も片手が塞がってたら不便だろう

ここは残念だがそろそろ手を離さないといけない


「あのさ..」


俺が立花さんに声をかけようとしたその時だった


「「ぐぅー..」」


「!?」


「...っ!!」


まさかの同時に俺たちのお腹が鳴ったのだ

確かにこの時間まで何も食べていなかったからお腹は空いていた

だがよりにもよって何でこのタイミングで..


「た、立花さん..い、一回手..はなそっか..」


「う、うん..」


俺たちは一回落ち着くために手を離す


「今さ..鳴ったよね..同時に..」


「うん..」


「ふっ..」


「ふふっ..」


「「あはは!」」


俺たちは一緒になって笑い出してしまう

さっきまでのロマンティックな時間はどこへ行ったのやら


「ふふっ..まさか私たち..一緒のタイミングなんてね..」


「マジで奇跡だよ..こんな事ある?」


お互い緊張状態だったがまさかの出来事に笑いが止まらない


「やっぱり私たち似たもの同士だねっ!」


「うん..何か落ち着いた気がするよ」


「わ、私も..さっきはちょっと緊張しちゃって..

 初めてだったから..男の人と手を繋ぐの..」


「え!?そうなの?お、俺なんかが立花さんの初めてなんてさ..」


「ち、違うよ!鷹藤君が嫌だったとかじゃ無くて!」


「むしろ嬉しかった..ってやっぱり恥ずかしいね..」


「立花さん..」


「..じゃあさ一回並ぼっか..」


「そ、そうだね」


そうして俺たちは屋台の列へと並ぶ


(さっき立花さん..嬉しいって..)


勇気を振り絞ってやってみたこの作戦もなんとか成功したみたいだ

それはそうとさっきの発言..

もしかして立花さんも俺の事..そういう事なのか?


(よし..よし!何とか次に繋がった!)


こうして心の中でグッとガッツポーズを決める俺だった









 




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