第27話 激アツ料理対決っす!②

「じゃあ..なんか色々あってうちのパパ&たかたかさんvs私って事で..」


ここに来るまでは考えてもいなかった

まさか俺があの超有名な関口匠シェフに料理を教えてもらえるなんて..


「じゃあ材料とかは机の上に置いてあるんで早速作っていくっす!

 レディーファイトっす!!」


「お、おー!」


こうやって俺たちの対決は始まった


「えっとこの白身ってどれくらい混ぜれば良いんですか?」


「混ぜる時は混ぜるスピードを変えながら3回くらいに分けて混ぜると良い

 大体目安はボウルを逆さにして落ちてこないくらい固まれば十分だ」


「なるほど..!やってみます!」


とりあえず勝負が始まる前に基本的な流れはシェフに教えてもらったから

その通りにやってみる


まずは卵を白身と黄身に分けて混ぜていくらしい

だがしかし、お菓子作りにおいて俺は全くの素人であるため

この普段やらない工程の感覚を掴むのがなかなか難しい


だからこそ横にいる匠シェフにどんどんと質問しているのだ


「たかたか君手際が良いな..普段からやっているのか?」


「えっと..カップケーキを作るのは初めてなんすけど小さい頃から

 色々と料理してきたのでそれで力がついたんすかね!」


(やった!プロに褒められた!)


あのシェフから褒められて少し気分が良いがここで失敗なんてしたら大恥だ

調子に乗らず落ち着いてやっていこう


「えっと次は..」


白身が出来たら次は黄身だ

黄身を混ぜる時はサラダ油を加えるのがコツらしい


「たかたか君ここは..」


俺がこうしてやっている横でシェフが次々とやり方を教えてくれる

とてつもない有名人のシェフにマンツーマンで教えて貰えるなんて

俺はとてつも無い幸せ者である


(匠シェフの説明..どれも分かりやすくてすんなりと入ってくる..)


それにシェフの説明はどれも噛み砕いてあって分かりやすい

混ぜる時の速さ、角度、強度どれをとっても的確である


(これだけの説明力が俺にもあればな..)


「ん?たかたか君どうしたんだい?」


「!!いや!その..何でも無くて!」


匠シェフの話を聞いていると俺にもこれほど的確な説明が出来たらなと

思ってしまう


「?そうか..別に気になる事があれば何でも聞いてくれて良いんだぞ?」


「そ、そうですか..えっとじゃあ..」


初めは恐れ多くてなかなか質問できなかったが本人が良いと言うなら

聞かなきゃ損だろう


「どうやったらシェフみたいに上手に説明できるようになりますか?」


「うーん..説明か..考えたことも無かったな..」


「そ、そうなんですか!」


「ああ..まぁ一つ言えることは料理を好きになる事かな」


「君は好きな人はいるかい?」


「え!?な、なんで!!」


「その反応は図星かな」


そういって目の前のシェフはカラカラと笑う

突拍子もなくそんな話されたら驚くのも当たり前だ


「ふふ まぁこれもひとつの例だがね」


「人は意識せずとも好きな人のことを自然と見てしまう

 その人の表情や癖全てを頭に残そうとするためにね」


「君はその好きな人のどこが好きなのか説明できるかい?」


「....」


(立花さんの好きな所..)


シェフの言葉を聞いて普段の立花さんを頭に思い浮かべる

2人で話している時の顔..一生懸命料理を作っている時の真剣な顔..


「俺は彼女の一生懸命で楽しんでいる顔が好き..」


「上手に言語化できているじゃないか

 人には好きなものを何で好きなのか説明する力がある..」


「好きになれば自然と言葉にも出来る

 私はプロの料理人になろうと決めた20年前に料理に一目惚れしたのさ」


「まずは好きになること..まぁこんな感じかな」


「...!」


言葉が出なかった

俺は今まで料理を好きだと思っていた

いや間違いなく好きだったんだ


でも上手く言葉にできない料理の繊細さ

俺はまだまだ勉強が..色々足りない気がした


「俺はまだ片想いだったんだ..」


人に教える難しさ 伝えるもどかしさ

今日で何か掴める気がする


「一生懸命好きになる事..難しいけど好きになれさえすれば人は無敵さ」


「さぁおしゃべりはこんな所にして続きと行こうか」


「はい!って..マジか..」


俺がふと関口の方を見るとあいつの生地は既に完成していた

後は流し込んでオーブンに入れるだけのようだ


「シェフ次は...」


**


「ふぅ..」


「3.2.1..出来た!」


「やっとですか..さて!たかたかさんのカップケーキもできた事だし..

 やっていきましょう!料理審査!!」


俺は熱々のオーブンから出来上がった物を取り出す

シェフに教えてもらった通り作ったので形は初めてとは思えないほど綺麗である


(関口のやつ..あんなにデコレーションしてて見た目も綺麗だ..)


悔しいけど正直いって勝てる気はしない

だが自分なりにやれる事はやった


「審査員はまぁお馴染みうちのパパでーす!」


「どうもー匠です」


(シェフ慣れてるな..)


恥ずかしがる様子もなくカメラの前に自己紹介するシェフ

やっぱり関口の父親ってだけあって慣れてるのだろう


「じゃあパパにはこれから私が作ったやつとたかたかさんが作ったやつを

 食べ比べてもらってどっちがより美味しいかジャッジして貰うっす!」  


シェフの前には俺の作ったものと関口の作ったものがある

これからいよいよ作ったものがシェフの口に入る


「じゃあまずはたかたか君の奴から...」


(どうだ..まずいって言われなきゃ良いけど..)


「..!!うん..口に入れた瞬間の食感もさることながら全体的にバランスが良い

 私が教えたとは言え十分な出来だ!」


「ほ、本当ですか!!やった!」


「..!!ま、マジ?たかたかさん何作っても上手なの..?」


「よし!」


匠シェフに褒めてもらって素直に嬉しい俺である


「じゃあ次はとも..いやドクちゃんの..」


「..うん」


シェフはそのまま関口のやつを口に入れる

これはどうだ..


「じゃあ結果発表だな..この勝負..」


「ドクちゃんの勝利だ」


「..!!マジ!?やったー!!」


思ったよりすぐ結果が発表されたが今回は俺の負けみたいだ


その横で関口は俺に勝ったのが相当嬉しいのか飛び跳ねて喜んでいる

だが..


「こらっ!お前はすぐ調子に乗る!」


「いてっ..!パパ!」


「はぁ..確かに今回はお前のケーキの方が香りが良く際立っていて

 口に入れた時の広がりが良かった」


「だがその反面生地に少し雑味がある

 メレンゲを立てる時の速さが少し緩い」


「むむ..で、でも!私前よりは上手になってたでしょ!!」


「うーん..まぁでもまだうちの厨房に立つ事は出来ないかな」


「そ、そんな!」


「それに今回はお前の得意分野..勝って当たり前だろ?

 次はたかたか君の得意料理で勝負するのが筋ってやつさ」


「そうだろ たかたか君?」


(うーん..俺からしたらもうこんな勝負したく無いんだけどな..)


「ま、まぁ..はいそうっすね」


考えていることをそのまま言うわけにもいかず..とりあえず賛同しておく


「な、なぁドクちゃん」


「?どうしたんすかたかたかさん」


「ちょっとドクちゃんの作ったやつ食べてみたいんだけど..良い?」


今回の勝負は確かに負けたがただ負けたばっかりも悔しいってやつだ

今後に活かすためにも関口のを食べておいた方が良いだろう


「ああはい..ど、どうぞ」


関口は恐る恐る俺に作ったケーキを渡してくれる


「サンキュ じゃあ..」


「...!!」


口に入れた途端感じるのは甘い香り..洋菓子特有の香りが口の中に広がって気持ちの良い味だ


(..ん?これ..もしかして)


「なぁドクちゃんこれってもしかしてさ」


俺は食べてる中であることに気がついた


「砂糖とか以外に何か入ってる..?バニラエッセンスみたいな」


「!!先輩分かるんすか!!ちょっとしか入れてないのに!!」


「あぁ分かる分かるそれにチョコチップも入ってるな?

 口に入れた時のつぶつぶ感の正体はこれか」


「凄い..先輩何でそんなに分かるんすか!」


「うーん..強いてゆうなら関口っぽさがあるから?」


「私らしさ?」


「あぁ..何と言うか..俺こうやって喋ったりしたのってつい最近だけどさ

 関口ってエンターテイナーというか人を楽しませようとする才能がある気がす

 るんだよな」


「な、何すかそれ..」


「チョコチップとかさ自分が食べている時に見つけれたらさ嬉しいじゃん

 ただ何も無いよりはある方がテンション上がるしさ」


「だからこれを食べる時も関口だったら何かそういう工夫してるだろうなって

 そう思って食べると意外と見つけやすくてな!」


「わわわ..せ、せんぱい!ちか..近いっす!!」


「ん?ってああ!お、思わず..」


俺が夢中になって話していると気づけば関口と距離が近くなっていた

そして関口は関口で顔が真っ赤である

普段少し生意気なこいつが照れている顔なんて滅多に見れないから珍しい


「ちょ..い、今は離れて..は、恥ずか..ってうわっ!」


「せ、関口!!危ない!!」


関口はそう言って俺から距離を取ろうと後ろに下がる

だがそこで机に引っかかってしまいバランスを崩す

俺はすかさず手を伸ばす


「っ..危なかった..大丈夫か関口!!」


「っ...あわあわ...うっ..」


「せ、関口!?」


俺の腕の中にいる関口は顔が真っ赤で目がクルクルと回っている

ど、どうしたんだ?


「だ、大丈夫か!2人とも!」


そしてすぐ近くにいたシェフもすぐに近づいてくる


「とりあえず関口は怪我は無いはずです!でも少し顔が熱いというか..」


「それは良かった..だが君確か好きな人がいるって言っていたが..

 それはうちの灯なのか?」


「ん?え!いやその..何で」


「はぁ今の君の姿勢..自分でも気づいてないのか?」


「え?」


そう言って俺は恐る恐る自分の姿勢を見てみる

なんと俺は関口をお姫様抱っこのような姿勢で抱きかかえていた


「あっ..その!」


俺はすぐさま手の力を緩める

ただ関口は少し気を失っているようなので肩を軽く支える


「それで..君が好きと言っていたのは灯の事なのか?」


「い、いや..!その..灯さんのお友達の方なんですけど..」


(こっ..怖い!!!)


目の前にいるシェフは先ほどまでの優しい感じとは一変し

娘を取られることを恐れる父親のような雰囲気を纏っている


「..ふぅそれなら良いが..灯に彼氏が出来るなんて..その..」


(今度は泣きそう!!)


今度は一変して目に涙がついている

俺もいつか娘が出来たらあんな感じになるのかな..


「と、とりあえず関口は安静にさせた方がいいんじゃ」


「それもそうだな」


俺たちはそう言って関口をキッチンのすぐ近くのソファに横にさせる


「この間に片付けでもするか」


とりあえず動画は撮れたのでカメラを止めてシェフと2人で片付けに入る..


**


「じゃあ俺そろそろ帰ります」


「あぁ今日はうちの娘が色々とすまなかったな」


「いやいや..大変だったけど楽しかったですよ」


「良かったらまた来ると良い私は毎週火曜が休みだから」


「わ、分かりましたシェフも今日はありがとうございました!」


「うんじゃあまた」


「ありがとうございました!!」


そう言って俺は匠シェフに見送られながら関口家を後にする


「♪♪」


俺は駅に着くまでの道で母さんに帰りの連絡を入れる

あの後作ったケーキは持って帰らして貰えたので上機嫌だ

きっとつばめ喜ぶぞ..


「ふんふん..って何か聞こえる..」


俺が上機嫌に歩いていると何か後ろから走っている音がする

俺が思わず振り向くと..


「はぁはぁ..」


「せ、関口!?お前体調は大丈夫なのか?」


「そこにいたのは息を切らしている関口だった

そしてその手には何やら紙のような物を持っている


「せ、先輩!その..さっきは助けてもらってありがとうございます!

 私..男の人にあんなのされたことなかったからびっくりしちゃって..」


「!!いやいや俺の方こそ!いきなりあんなのしたら嫌だったよな?」


そう言えばさっきはいきなりの事だったので気づいていなかったが

関口も女の子だ俺なんかに急に触られたりしたら嫌に決まっている


「..い、いや..別に嫌だったとかじゃなくて..」


「むしろ安心しました..ダイちゃん先輩ってかすみん先輩の言ってた通りの人で」


「ん?かすみん先輩って..どうして立花さんの名前が出てくるんだ?」


「..はぁその調子だと..お互いまだ付き合ったりしてないんすね..」


「??何だそれ」


さっきから関口の言っている事に頭がこんがらがる

さっぱりわからない


「ダイちゃん先輩は知らないかもっすけど実はかすみん先輩って結構私たちに

 ダイちゃん先輩の話するんすよ」


「え!?あの立花さんが?」


「前私がダイちゃん先輩の教室特定して久しぶりに会った時もずっと先輩の話でしたもん!!」


「そ、そうなのか?」


「だから私..今回ちょっと先輩に意地悪したのも..気になったんです

 あのかすみん先輩が夢中になるダイちゃん先輩ってどんな人だろうって..」


「もし悪い人だったらどうしようって..

 かすみん先輩って純粋だから少し騙されやすそうな感じで..」


「まぁ確かにな」


関口の言う事も少し分かる気がする

関口からすれば中学校の頃仲の良かった先輩がいきなり男と関わったら

気にもなるだろう


「なるほど..だから少し当たりが強かったんだな..」


「はい..それに関してはごめんなさいっす..別に先輩を怒らせようとした訳じゃなくて!」


「はぁ..そんなの分かってるよだから別に怒ってない

 関口が悪いやつじゃ無いのも分かるからな」


「先輩.そんな簡単に人を信じちゃって良いんすか?」


「はぁ..だって良いやつじゃ無かったらわざわざこうやって

 謝りに来ないだろ?」


「...!!先輩..そういう所っすよ!!」


「はいはい..でその手のやつは何だ?」


俺は関口がずっと手に持ってたものが気になって聞いてみる


「ああえっとこれは..お礼です

 先輩のおかげで今日いい動画が撮れたので..」


「はぁ..次動画撮るときは流石に作り方くらい教えてくれよな?」


「!!先輩次って!!」


「まぁなんだかんだ今日楽しかったからな

 それに匠シェフとだってもっと話したいし」


「!!約束っすからね!約束!」


「はいはい..」


「じゃあこれ!受け取ってくださいっす!」


「おう..ってこれなんだ..」


「ふっふっふー!先輩!いや先輩たちが絶対に喜ぶものっす!!」


「喜ぶもの..」


関口からもらったのは2枚のチケット..

そしてそこには..


「千葉ワンダーランド..ってどこだ?」


「どこって失礼な!私のチャンネルのスポンサーしてくれてる遊園地の

チケット大人2枚分っす!!」


「まぁ少しマイナーめっすけどきっと2人なら大丈夫っす!」


「それって..」


「もう!ダイちゃん先輩とかすみん先輩の2人で行くんすよ!」


「えっ..えー!?」


「私結構2人の事応援してますから!!

 ぜひ楽しんできてくださいっす!!」


(ま、まじか..)


こうして半ば強引に遊園地のペアチケットを渡され

行く羽目になった俺たちであった


 






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