第25話 「私が勝てたらそれで良いっす!」

「砂糖に..バター..おいこれ何を作るんだ?」


「ふっふっふ それは後でのお楽しみっすよ!」


「こんなにたくさん買って..」


今俺は関口と一緒にスーパーでコラボ動画に使う食材を買っている


「なぁ関口やっぱりテスト終わってからにしないか?」


「せんばいー?どうせそうやって約束を引き伸ばして無かったことに

 しようとしてるんじゃないすかー?」


「ぐっ...!何で!」


「先輩の考えていることは手に取るように分かるっすから!」


まるでエスパーの様に考えていることを見透かしてくる関口

俺の考えた『コラボを延期させてあやふやにしよう作戦』は失敗に終わった



「はぁ..今更もう遅いっすよ今日は付き合って貰うっす」


「!!ちょっと重..少しは持てって!」


関口はそう言って買った袋を全て俺に渡してきた

何に使うか分からん食材を大量に買ったせいで凄く重たい


「先輩..今日は良いのが撮れるまで帰さないすからね!」


「おいおい..分かったから約束通り顔は隠してくれよな

 今バレる訳にはいかないんだ」


「分かってるっすいくら私でも約束は守るっす!」


(本当か..こいつ)


俺がここまで念入りにお願いするのは言うまでもなく立花さんにバレないためだ


俺が立花さんと出会ってからそこそこ経ったが今だにあっちは

俺の正体に気がついていないみたいなのだ


学校とかで俺とたかたかちゃんねるの動画の話をしている時の

様子とかもただのファンの反応に見える


だからこそ立花さんには俺の口から言うまで正体はバレたくないのだ

もう少し心の準備ができるまで..


「それで今日は何をするんだ?料理を作るだけで良いのか?」


「はい!まぁ今日のはただ料理を作るって訳ではなくてですね..」


「..?どう言う事だ?」


ただ料理を作る訳ではないと言うと何をするんだ?

俺が疑問に思っていると関口はにっこりと笑い口を開く


「今日取る動画は..料理対決っす!」


「料理対決?でもどうやって勝敗を決めるんだ?

 審査員とかいる訳じゃ無いし..」


関口が提案してきたのは料理の対決だった

だが対決というからには勝敗を決める人が必要である

今ここには俺たちしかいない


「それは作った料理をお互いに食べて美味しい方にするっす」


「そんな決め方で良いのかよ..」


「良いんすよ!ほらじゃあ色々買った事だし..行きますか!」


「ちょっと..引っ張るな!」


スーパーから出た俺は腕を引っ張られこのスーパーから数分ほどだと言う

関口の家に向かう


「..なぁ本当にお前の家ってここら辺なのか?」


関口に連れられた場所は辺りに高級そうな家が立ち並ぶ住宅街だった

何と言うか..この前行った奏さんの家よりも大きいんじゃ無いか?


「そんなにビビらなくても..私こう見えても一応お嬢様なんすから!」


「そ、そうだな..」


確か彼女の父親は有名ホテルのシェフを任されていると言っていた

そうなると普段は自由気ままな猫みたいなこいつも料理の腕は確かな物であるはずだ


(関口..せきぐち..なんかどっかで聞いたことがあるかの様な..)


前に保健室で話を聞いた時は頭に入ってこなかったが

今こうして落ち着いて考えてみると関口という名前を聞いたことがある..


「は..!」


「?どうしたんすか先輩?」


「思い出した!関口って名前の超有名料理人!」


俺の頭の中の記憶が完全に結びついた!


「お前のお父さんって関口匠せきぐちたくみシェフの事か!?

 料理人たちの間では超絶有名人だぞ!」


関口匠..俺が定期的に買っている料理本にも必ずといって良いほど

名前の出てくる有名人だ


まさかあの人が関口のお父さんなのか..?


「..は、はい正解っす 私てっきり気づいているもんだと思ってたっす」


「いやいや..あんまり意識した事なくてさ..関口シェフなんて雲の上の人だと

 思ってたからさ..」


「へっ..なんか身内を褒められると自分のことみたいで嬉しいっすね..」


「いやお前じゃ無いからな」


これで関口がこんな住宅街に住んでいるのも納得だ

世界中でも知名度のあるシェフの娘なのだから流石である


「はいはい ほらここが私の家っす」


「うわっ..すげぇ..」


関口に案内されたのは豪邸という他ない程立派な建物..

語彙力が無くなるほどの存在感の家である


「ほうら早く入るっすよ」


「そ、そうだな..お邪魔します..」


入って1番初めの玄関にはこれまでのシェフが取ったであろう

賞の表彰状の山..どれもこれも聞いたことのある賞のものだ..


「ふふ..これは関口か?中学くらいのやつか?」


そこの一角にあったのはドクちゃんこと関口の取ったであろう賞状たち

やはり関口の料理の腕は本物みたいである


「先輩..それ小学生の時の写真すよ..」


「え?そうなの!?」


「先輩..いくら自分の体の成長が他の人よりちょーっとだけ遅いとは言え..

喧嘩売ってるんすか?売ってますよね?買いますよ!!」


「そ、そういう訳じゃないんだって..!!イテテ..」


怒りながら容赦なくポカポカと叩いてくる関口..

無意識だったが彼女の地雷を踏んでたみたいだ


「..ふん!まぁ良いっす..この喧嘩は料理人らしく料理対決で買うっす!」


「殴られた後に言われてもなぁ..」


しばらくして機嫌が治ったようだ

彼女は持っていた袋をキッチンの机の上に置き色々と取り出す


「なぁ結局今日は何を作るんだ?」


「あっそういえばまだ言ってなかったっすね」


どうやら関口は俺に言うのを忘れていたみたいだ


(..さっぱり検討がつかない..)


さっき買ったのは砂糖にバター..砂糖はともかくバターなんて

あんまり使うものではないからこそ分からないのだ


(砂糖..ってもしかして..)


そういえばさっきの話に戻るのだが彼女の父親は有名なシェフである

もちろんそれは洋食、和食に限らず数々のジャンルに精通しており

色々な分野で活躍している


だが彼女の父親の本職とも言える分野__それは..


「も、もしかしてお菓子作りか..?」


「えっ正解っす」


「ま、まじ!?」


自分で当てておいて何だが本当にお菓子だとは思っていなかった

まぁ彼女の父親はホテルのスイーツにおいて指折りの巨匠

その血を引く彼女がお菓子作りが得意でもおかしくは無いが..


「でも俺..お菓子なんて作ったことないぞ?」


そう 俺は今まで色々な料理を作ってきたがお菓子はまだこの手で

作ったことが無いのだ それなのに今日いきなり勝負というのは流石に..


「まぁそうっすよね」


「え?どう言うことだ?」


てっきり俺を思って内容を変更してくれる物だと思っていたから

彼女の反応には少し違和感を覚える


「ふっふっふ..良いですか先輩..」


「私は負けず嫌いなんです..だから..」


「自分の得意分野で先輩に絶対に勝ちたい!!」


「まぁそういう訳なんで..動画はこのままって事で..」


「...」


驚きすぎて一周回って落ち着いてしまったよ..


(こいつ..ゲスすぎるだろ..)


このコラボもライバルである俺を倒すための作戦だったみたいだ..

だがここまできて帰る訳にもいかないし..


「はぁ...お前ってやつは..」


「もう良いよ!何だってやってやるさ!」


一周どころか二周くらい回ってどうでも良くなった俺は

流れのまま初挑戦のお菓子作りで勝負する事になってしまった



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る