第7話 笑顔を与える料理

 立花さんに料理教室を教えた日から2日後__今日は日曜日だ

昨日は日頃の疲れが溜まっていたからかほぼ家で寝ていたから

今日は久しぶりに本屋に来ている


(それにしてもオシャレだな..俺なんかが1人で来るようなとこじゃ無いな)


今日はいつも行っている店じゃなく渋谷に新しく出来た本屋に来てみた


これと言った理由は無いが新しいものってだけで行ってみたくなるのは

若者の特徴だろう


俺は料理のアイディアを取り入れる為定期的に料理本を買うようにしている


『別にネットで良いじゃないか』とよく言われる

だがそれは違う!俺は本を買って家に帰るまでのワクワク感が好きなのだ


今日も気がついたらカゴには5冊ほど入っている


流石に高い出費だが毎日動画を投稿しているお陰でそこそこの余裕はある方だ 


(あー!早く家に帰って読み尽くしたい!)


ワクワクが止まらない 俺はレジに本を持って行こうとする

だがレジの前の運動本コーナーでどこか見た事のある影が..


「うーむ これは悩むぞ...」


「夏生!?何でこんな所に!」


「おお!鷹藤君じゃないか!君も本を買いに来たのだな!!」


「お前こそ..さっきから何やってんだ?てかお前もうちょい静かに選べよ!」


本を2冊持ち首を傾げている夏生がそこにはいた

こいつの溢れ出るパワーオーラはオシャレな本屋の雰囲気に合ってない


「むむ..すまない!さっきらどっちの本を買うか悩んでいるのだ!」


そう言って2冊の本をこっちに見せてきた


『100メートルを4.5秒で走れる様になる本』と『ライオンを倒す方法』だと?

こいつのチョイスは小学生なのかと疑いたくなる


「どっちも要らないだろ!全く..変な物買おうとするなよ

 そもそもライオンと戦う状況っていつだよ!」


「そうか..そう言われれば確かに..」


「ほら2つとも置いとけよ買わないんだったら」


「分かった!というか君の買おうとしている本は全部料理か?」


夏生は俺のカゴを指さしてくる


「ああ 今後の参考になるかと思ってな」


「君は勉強熱心だな!その調子で学校の勉強も頑張ったら良いんだがな!」


こいつ一発はたき落としてやろうか...


「うるせぇよ!」


「ははは!まぁ分からない事があればこの僕に聞くと良い!」


さっきからこいつは..まぁでも夏生はこんな感じだが実は頭は良い

だからこそ何も言い返せないのがムカつく..


「くそぉ!もう良い!レジ行くから!」


俺は逃げる様にレジに駆け込む


「いらっしゃいませーどうぞー」


「これお願いします」


「はーい ピッピッピ はいこちら6点で9500円となります!」


(うわぁ高っか..)


9500円と映し出されたモニターを見てこんなに買ったことを後悔する

たとえそこそこ小遣いがあったとしても高校生の財布にこの値段はきつい


「は..はい1万円で...」


「ありがとうございましたー」


「くぅ..まさかこんなにするなんて..」


「大丈夫か!鷹藤君何かあったのか!」


夏生が心配そうに近づいて来る


「 くそぉ本たちが思いの外高くてさ..」


「そんな落ち込むな!ほら本重いだろ?僕が持つから!」


「ありがとうな夏生やっぱりお前優しいわ」


「友達を助けるのは当然だ!!ああそうだ!

 辛い時は美味しいものを食べると良い!

 ここの近くに行きつけの喫茶店があるんだ!

 そこのパンケーキが絶品でな!」


「え?お前も喫茶店とか行くんだな!」


「ああ!それで良かったらこの後一緒に行かないか?」


(どうすっか..この後は家に帰って料理本読もうと思ったけど..)


少し悩むだが夏生の言う絶品のパンケーキが気になる

それに普段俺たちは男子グループで行動しているから夏生と2人きりは

珍しい


「まぁいっか!行こう夏生」


たまには2人きりというのも悪くないと思った俺は誘いを受ける


「ああ!すぐそこだから!ほら!」


「ちょ..引っ張るなって..!」


***


「結局30分も歩かされた!ここどこだ!」


「すぐそこだよ!ほら!」


今日はなんかうまくいかない...

夏生にとって歩いて30分はすぐそこなのか..?


「ここだ!鷹藤君ほら!」


そう言って夏生の言う喫茶店の中に入る


「おお..凄いレトロな感じだな..」


内装は少し古い感じだった

漫画の中で見る様な占いマシーン、シューティングゲームがついている机

端に置いてあるピアノ..

本当にここは令和の都内なのかと疑いたくなる様な店だった


「いらっしゃい君は夏生君!それと..」


「友達の鷹藤君です!こんにちは店長!!」


俺たちに声をかけてきたのは60歳くらいだろうか

少しちょび髭でガタイのいいダンディーな店長さんだった


「こんにちは..」


「ほら鷹藤君!」


夏生に言われるがままカウンターの席に着く


「注文は?」


「前に頼んだパンケーキセットをお願いします

 鷹藤君も同じでいい?」


「うん」


「了解 2人とも少し待っててね」


そういうと店長は厨房に向かうそして店長と入れ替わる様に厨房から

女性がカウンターに出て来る


「どうもこんにちは夏生君!そちらはお友達?」


「こんにちはおばさん!はい友達の鷹藤くんです」


「どうも鷹藤大地ですこんにちは」


「あらご丁寧に 私店長の妻です!夏生君の顔が見えたから

 厨房から出てきちゃった!」


店長の奥さんはおしゃべり上手ですごく綺麗だった

おばさんは俺たちと喋りながらコーヒーを淹れる


「夏生お前よくこの店来てんのか?凄く仲良さそうだけど」


「ああ春休み中によく来てたんだ おばさんたちとはそこで仲良くなったんだ」


「前きた時は彼女さんと一緒だったわよね!?凄く美人さんな」


「ちょっと!?おばさん!恥ずかしいですって!」


彼女の話になった途端夏生の顔が赤く腫れ上がる

そういえばこいつは彼女の話に弱いのだ

俺はすぐさまからかいを入れる


「まぁまぁ夏生!彼女と仲良いのはいい事じゃんか!

 お前たちいつもイチャイチャしてるもんな!」


何だか自分で言ってて悲しくなる


「ちょっと鷹藤君!?」


「そういう鷹藤君も学校では彼女さんと仲良いんじゃ無いの?」


「え?」


おばさんから唐突な攻撃が来る

夏生をからかったからバチが当たったのか


「いや、そのおれ彼女いないんです..」


「あらやだごめんなさい!鷹藤君かっこいいからてっきりいるもんだと..」


「まあでも鷹藤君には立花さんという最高の女性がいるではないか!」


「は!?夏生!何言って..」


唐突な夏生からの追撃

こいつ..!?さっきのやり返しなのか?いやでもこいつの目はまっすぐで

からかっている顔では無い


「ほら!やっぱりいるんじゃない!」


「おばさん..!その違うんです!俺が一方的に気になっているだけで!

 その..いつか付き合えたらとは思うんですけど...」


「なるほどね..まぁ頑張ってね!」


そういうとおばさんは俺の方を叩いて来る

何だか母さんみたいなノリだなと思う


そんな感じでいると奥の方からいい匂いがして来る


「まぁまぁ3人とも落ち着いて..厨房まで声がしたよ..」


そう言って出て来る店長は美味しそうなパンケーキを持っていた


「お前もあんまり鷹藤君たちを困らせてはいけないよ?

 恋愛なんていうのは人それぞれなんだから」


「おお!いい香り..」


俺と夏生はすっかりパンケーキに夢中だった

そりゃそうださっきからずっとお腹ぺこぺこだ


店長に少し叱られたおばさんはテーブルの上にコーヒーとパンケーキを置く


「ほらパンケーキセットお待ちどう」


あまりにもお腹が空いているからかパンケーキが輝いて見える

それにこの匂い!食べる前からおいしさが伝わって来る!


「凄く美味しそう..いただきます!」


俺たちは急いでパンケーキを口に入れる


「!!!」


口に入れた瞬間上に乗っているアイスクリームの甘い匂いが口の中に広がる

噛めば噛むほど出てくるバニラビーンズの香り..

夏生の言うとおり絶品なパンケーキだった


そしてそのままおばさんの淹れてくれたコーヒーを飲む


少し甘さの強いパンケーキを優しく包むような効いた苦味のコーヒーは

パンケーキと相性抜群だった


(お、美味しすぎる...)


俺の中に衝撃が走る

今までになかった経験だ

何かを食べてこんなに幸せが溢れるなんてこんなに笑顔が溢れてくるなんて!


「美味い..美味すぎる..おばさん!店長!」


「ふふ そう言って美味しそうに食べてくれるのが1番だわ」


「そんなに言ってもらえるとは..この味を作るのにはかなり時間がかかったけどね.. 何年も何年も最高の味を求めて研究してきたからこそ最高の味が出来たんだ」


店長もおばさんも嬉しそうにしている

それを見て俺も笑顔が出る


(これだ..こういうのだ..俺が目指している料理は!!)


このパンケーキを食べて確信した

俺もこういう料理が作りたい

誰かに笑顔と幸せを届ける様な!!


そのまま手が進みあっという間に食べ終えてしまう


「ふぅ!美味しかったな鷹藤君!!..鷹藤君?」


食べ終えた俺はすぐさま店長に今の気持ちを伝える


「店長!!」


「どうしたんだい?」


「俺このパンケーキを食べた時衝撃だったんです!

 俺実は趣味で料理をやってて! 

 俺もいつかこのパンケーキの様な食べるだけで笑顔になる様な料理を作りたいです!」


「また来ても良いですか!!」


店長とおばさんは熱くなっている俺をみて優しく微笑む


「勿論さ」


「料理っていうのは奥深く難しい

 それでも誰かに喜んで貰う その瞬間を求めて努力する」


「誰かに心の底から美味しいと言われた瞬間今までの苦労も

 全て吹き飛んでいくんだ」


「君にもいつかそういう経験をして欲しいと思う」


「またおいで 私から学べるものがあるのなら」


「はい!!」


店長の言葉に思わず嬉しくなる


食べ終えた俺たちは会計を済ます

店から出た俺たちはそれぞれの帰路に向かうべく駅に向かう


「今日はありがとうな あんなに凄いパンケーキに出会えるなんて

 思ってなかった」


「いやいや僕の方こそ..君の料理における夢..

凄く熱い思いだった!感動したぞ!」


「今日食べたパンケーキは衝撃だった

 本当に..美味しかったな」


「ああ!確かに美味しかった!だが僕は君ならあのパンケーキに並ぶ様な

 素晴らしい料理が作れると思っている!君は諦めず努力できる人だ!」


「ありがとう夏生..俺頑張ってみるわ!」


「勿論!この僕も応援しているぞ!じゃあまた明日学校で!」


「おう!またな!」


そうして俺たちはそれぞれ別のホームに向かう


(それにしても..まだ興奮が冷めやらない..)


俺は今日感じた気持ち、味、店の雰囲気全てをメモ帳に書く

この感じを忘れない様に! 


(はやく家に帰って料理がしたい..俺も..)


ピロン♪


「ん?」


メモを書いているとスマホが鳴る


(何なんだ?こんな時に..って夏生?)


夏生からLoinが届いていることに気がついた俺はスマホを開く

そして...


夏生「すまなぁい!!!君が買った料理本僕が持ったままだった!

   もう電車に乗ってしまった!どうしよう!!」


「あぁ!そういえば!」


パンケーキのことに夢中になりすぎて夏生に買った本を持ってもらっていた

事を忘れていた!!


(くそぉ!まずはこの忘れ癖治さなきゃ!!)


笑顔を与えるような料理を作る道はまだまだ険しいのだった..





 





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