第6話 料理教室②

「じゃあ再開しようか」


つばめと立花さんの妹の涼風ちゃんが部屋に戻ったのを確認してから

調理を再開する


「まずはこれから」


俺は水にさらしていたじゃがいもを取り出す


「じゃがいもって芽が毒を持っているんだよね?」


「その通り ジャガイモの芽にはソラニンっていう毒素が含まれているから

 こうやって..包丁で取ってあげるんだ」


俺は慣れた様に芽を取り除く


「野菜はさっき水洗いしたから早速皮を剥いていこうか」


「うん..でも少し怖いな..」


どうやら包丁を使うのが怖いみたいだ


「初めのうちは怖いよね でも大丈夫 見てて」


まず俺から実践する


「包丁を持っている手でじゃがいもの皮を押さえながら、反対の手でじゃがいもを動かす」


「一気にやると怖くなるだろうからゆっくりで大丈夫だよ」


「そしてじゃがいもを回して、ぐるりと一周剥くこれで終わり」


「すごい包丁さばき..私にもできるかな」


「最初は難しくても少しずつできる様になるから!ほらじゃあやってみて」


「う、うん」


彼女は深呼吸で息を整え挑戦する


「...よいしょ! えっとここは こうして あわわ..」


「大丈夫だから!落ち着いて!肩の力をすーっと抜いて」


「すー.. ふう..よいしょ! できた!!」


「うん良い感じ!ちゃんとできてるじゃん!」


「ああ良かったぁ.. 途中で息が止まるかと思ったよ..」


彼女が持っているじゃがいもはまだ少し皮が残っている

それでも初めてやるにしては上出来だと思う


「立花さん良い感じ!じゃあ次は...」


**


「ふぅ..とりあえずにんじん、玉ねぎ、じゃがいもの下準備はできたね」


「よしじゃあここからは切っていこう!立花さんは包丁の使い方とか

 分かる?」


「うーん?分かる様なわからない様な?」


「どっちだよ!まぁ今回は丁寧に説明していくから安心して」


「お願いします!師匠!」


前までは先生呼びだったのにいつのまにか師匠になっていたらしい


「ごほん.. えっとじゃあ最初はにんじんから」


「立花さんはにんじんの切り方にもいくつか種類があるのは

 知っている?」


「えっと..半月切りとか輪切りとかかな?」


「そう!それで今回は輪切りでやっていくから

 カレーは全ての具材が主役!その中でも輪切りのにんじんは

 存在感があって美味しく食べられるんだよ」


「じゃあ包丁を持ってみて 手はよく言われている猫の手で」


「ふふ..猫の手って可愛い名前だよね

 こうやってにゃあ!なんちゃって... って鷹藤君!?」


彼女は手を猫の様にしてこっちを向いてくる

その破壊力に思わずめまいがしてしまう


(な、何だよそれ!か、かかか可愛すぎる!!!)


「鷹藤君大丈夫!?」


「だ、大丈夫じゃないけど 大丈夫..

 ままぁ手はそんな感じで..」


「そ、そう?次はどうやって切るの?」


「にんじんを円状に等間隔に切っていくんだ厚さは1cm程度を目安に」


「こ、こう?」


「そうそう!すごく上手!」


さっきのじゃがいもの時といいピアノをやっていたからなのか

包丁さばきはすごく上手だ 器用に使いこなせてる


「切るの大変だけど 楽しいかも!」


「それは良かった!次はじゃがいもを切るけどじゃがいもは

 乱切りはまず縦に切って..そのあとは横向きに置いて

 斜め45度に切り込みを入れていくイメージで」


「わっ 結構難しいねこれ」


「立花さんは切るのがすごく上手だから大丈夫だよ!

 じゃあこのまま人数分切って..って行きたいところだけどさ」


「時間が..もう6時だから少し急ぐね!」


そう言って俺はじゃがいもを切っている立花さんの横で玉ねぎを切り始める


「こうやって2人で2種類ずつ切っていけば時間短縮にもなるし!

 玉ねぎはくし切りっていう切り方なんだ」


「こうやって..半分にして..うっ..」


「立花君..!涙が」


「うん..玉ねぎは切ると涙が..くぅこれだから玉ねぎを切るのは...」


「でもカレーに玉ねぎは重要だもんね!我慢しなきゃ」


「頑張るよ..くぅー!」


次々と切っていく立花さんの横で涙を流している俺

くそぉ目がぁ...


**

「色々大変だったけど後はルゥを入れて煮込むだけだよ」


「炒めるのも一苦労だったね..疲れちゃった..」


「後少しだから頑張ろほら」


椅子に座っている立花さんに立ち上がって貰う

炒めた野菜と肉から出るあくを取るのが大変だったのかお疲れ気味だ


「沸騰した鍋にルゥを入れて..弱火で混ぜる」


立花さんに混ぜてもらっている間に皿にご飯を乗せ人数分用意する


つばめ、立花さん、涼風ちゃん、ついさっき仕事から帰って来た母さん、俺

の5人 こんなに大人数で食べるのは久しぶりだ


「つばめ、鈴鹿ちゃん! そろそろできるから来てー」


俺が呼びかけると2人ともドタドタと音をたてやってくる


「お腹すいたーー!!ってお母さん!おかえり!」


「ただいまつばめ それにしてもあたしが仕事から帰って来たらこんなに

大人数でご飯なんて..びっくりだよ」


スーツを着たままリビングで座っているのがうちの母さん

どうやら涼風ちゃんに興味津々だ


「あなたが香澄ちゃんの妹さん?わぁすっごく可愛い!」


「可愛いのは当然です!くらすのりーだーなので!」


「こら涼風意味のわからない事言わないの!」


「良いの良いの!香澄ちゃんといい涼風ちゃんといい..

 みんな超可愛い!お人形さんみたい!」


「そもそも母さんはあったばかりの立花さんを名前で呼ぶな..」


「ふふ 別に私は大丈夫だから」


「まぁ立花さんが良いなら..」


昔からうちの母親のコミュ力はバグっている

何であったばかりの人を平気で名前で呼べるんだ?


「お兄ちゃーん!私もうお腹ぺこぺこだよ!

 はーやーくー!!」


「はいはい立花さんが混ぜててくれたお陰で出来たよー」


「て、手が.. もう動かないです...」


手が痛そうな彼女 1日目にしてちょっと無理をさせすぎたかもしれない

立花さんの代わりに俺が皿を机に乗せる


「お疲れ様立花さん すごく美味しそうにできて良かった」


「鷹藤君のおかげだよ..疲れたぁ..」


「わあお米が白じゃない!凄い凄い!」


「そうね..良い匂い..じゃあ頂きましょうか!」


みんなで手を合わせる


「「「「「いただきます!!」」」」」


俺も立花さんもずっと料理をしていたからかお腹ぺこぺこだ

まずはじゃがいもから...


「うん ほくほくで美味しい」


「うーん!!いつものお兄ちゃんが作るカレーより美味しいかも!」


「こんなに美味しいとは..お姉ちゃんが作ったものが..」


「もう!そんなに驚かなくても良いじゃない

 まあ鷹藤君のお陰でこんなに上手に出来たから私はそんな」


「いやいや香澄ちゃんが頑張ったからだって!

 大地なんかどうせ突っ立ってるだけでしょ」


「誰が立ってるだけだって..? 俺だってちゃんとやったさ!」


「まぁまぁ2人とも..」


「そうだよ!お客さんも来てるんだしお母さんもお兄ちゃんも

 辞めなよ!!」


(うう..つばめに怒られる日が来るなんて..)


俺も母さんもまさかのつばめからのお叱りにびっくりする


「つばめちゃんのお家っていつもこんな感じ?」


「うん!みんな仲良しだよ!!」


「そ、そっか.. 良いなぁうちもこんなだったら..」


「涼風ちゃん?」


涼風ちゃんの元気が無くなりしゅんとなる


「こ、こら涼風!人のお家だからあまりそういう事は」


立花さんは涼風ちゃんをなだめるため立ち上がる

それを見た母さんはさっきとは一変真剣な顔つきになる


「大丈夫2人とも?もしかして家でなんかあったの?」


「はい..ちょっとピアノの事で1年くらい前から父親と喧嘩してて

 前までは仲良くやれてたんですけど..」


「そっか..前に立花さんのお父さんプロのピアニストだって言ってたもんね」


「うん..まぁでも私個人の問題だから気にしなくてい..」


「だめよ」


立花さんの言葉を遮るように母さんは喋り出す


「1人で抱え込んだらそれで良いなんてのは絶対ダメ

 いつか耐えられなくなって爆発しちゃうから」


「もししんどくなったり辛くなったら誰かに助けを求めても良いのよ?

 お友達でも、もちろん私でも! 一緒にご飯を食べた仲なんだから!」


「ありがとうございます 少し楽になったような」


「つばめちゃんのお母さんかっこいい..」


「そりゃそうだよ私のお母さんなんだから!」


「何だよそれ」


少し重くなった空気が一変 食事中の空気に戻る


俺ももし立花さんが困ってたら話くらいは聞いてあげたいと思う

俺はあなたに惹かれた1人だから


「立花さん」


「どうしたの鷹藤くん?」


「俺ももし力になれる事があったら協力するからね

 君の力になりたいんだ」


俺は真っ直ぐな瞳で彼女を見る

本心をそのまま伝えただけだ


「..ありがとう鷹藤君 でもちょっと恥ずかしいかも..」


「え?」


周りを見るとつばめも涼風ちゃんもビックリしている

あれ?もしかして俺 告白に近いことを言ってしまったんじゃ..


「あのヘタレな大地も言うようになったね..

 母さん嬉しいよ..」


「...!ちょ母さん辞めろって!マジで!」


「お兄ちゃん 大人だ..」


「ちょっとつばめまで!ほら早く食べちゃおうまだ食事中だって」


俺は恥ずかしさのあまり話をずらそうとする


「ってもうこんな時間!あんまり遅くなると香澄ちゃんたちの

 親御さんたちにも迷惑かけちゃうし..急ぎましょ!」


確かにもう遅い ずっと話していたからかすぐさま急いで食べる俺たちだった


**

「鷹藤君もお母さんたちも..駅まで送って貰っちゃってすみません」


「良いんだよもうすっかり暗いし」


食べ終わった俺たちは立花さんとつばめちゃんを送るため駅に来た


「じゃあ私たちはここで..今日はみなさんありがとうございました」


「ありがとうございました.. 大地お兄ちゃん 姉がお世話になりました」


「いやいや全然 涼風ちゃんもつばめと仲良くしてあげてね」


「もちろんです つばめちゃんは相棒なので!」


「涼風ちゃんまたうち来てね!もちろん香澄ちゃんも!」


「また名前で呼んで..じゃあ立花さんまた学校で」


「うん!それじゃあ」


挨拶が終わった俺たちはそれぞれの家に戻る

今日は濃い1日だったから疲れたまあ楽しかったけど


「今日はもう寝るか..」


まだ寝るには少し早いけどまぁこんな日があっても良いか!


「何言ってんのお兄ちゃん 今日の動画は?」


「..?動画?どうが..あ!!!」


「いきなり大きな声出してどうしたの!?」


「今日の動画何も準備して無い..ちょっと母さんスーパー行ってくる!」


「は?あんた財布は?」


完全にやらかした!立花さんと料理に夢中だったせいで動画の事忘れてた!


その後結局徹夜で撮影と編集をするはめになった俺だった 











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