第3話 偶然の出会い

「うーん もっとふわふわに焼けるはずなんだけどな..」


 時刻は朝6時 俺はキッチンでいつも通り料理をしている

 しかし俺の目の下にクッキリとついている隈..


 昨日の動画は立花さんのことが頭から離れず撮るのに時間がかかってしまった為か寝る時間が全然取れなかった


(やばい.. 眠い..)


 智紀や夏生達に食わせるだけなら朝から真剣に作ったりはしない

 普段あいつらにはいつも昨夜動画用に作ったものを食べてもらうからだ


 だがあの立花さんにも食べてもらうんじゃ話が変わる


 決して残り物なんか食べてもらってはいけない!


 そう思った俺は朝から真剣に昨日の動画でも作った””チーズ入りふわふわちくわ卵焼き””を作っているのだ


「うーん..どうするか..」


 さっきから全然手が進まない


「立花さんアレルギーとかあったりしないかな?食べれるかな..」


 俺が苦戦している理由..それは立花さんがチーズを食べれるかどうかだ


 昨日俺は初めて立花さんと喋った


喋ったって言っても『たかたかチャンネル』の事だから立花さん本人の話は

あまり出来なかった 


彼女に料理を作るのだから好みの味や食べれない物など

聞いておけば良かったとすごく後悔している


なぜなら今回作っている卵焼きにはチーズが入っているからだ!


口の中でとろけ出すチーズ ふわふわで優しい卵 それを支えるちくわ

この3つが組み合わさり口の中で豊かなハーモニーを奏でる..


しかし今回の主役でもあるチーズ__その臭いや食感から人によっては好まない事もあるだろう


もし立花さんがチーズを苦手だったら微妙な顔になるかもしれない

いやそうな顔をしている立花さんを考えるだけで頭が痛くなる


「どうすれば良いんだ..」


(本人に聞けたら良いんだけど..連絡先知らないし..)


(ワンチャン..智紀なら)


 そう思った俺はすぐさまLoin《ロイン》で智紀に聞いてみる

 比較的陽キャで女子とも交流がある智紀なら知っているかもしれない


大地「なぁ智紀」


智紀「どうしたんだよ こんな朝から」


大地「お前立花さんのLoin知らね? ちょっと聞きたい事があってさ」


智紀「お前昨日 本人に聞かなかったのか? 俺知らねーぞ」


大地「聞くの忘れたから今お前に聞いてるんだが...

 他にクラスで知ってそうな人知らない?」 


智紀「うーん.. 夏生とか? あいつ新しいクラスになってから全員に連絡先聞いてたらしいし ちょっと夏生に連絡してみるわ」


 確かに夏生の事だったら知ってても不思議じゃ無い  


智紀「ちょっと待てよ..ってもう返信きた! 

 あいつ知ってるらしい 今送ってくれるらしい」


 そうやって送られてきたのは可愛らしいハムスターのアイコンで

 『立花香澄』って書いてあるLoinだった


大地「サンキュー 智紀! 夏生にはあとでお礼言うから!」


(これが立花さんのLoin...)


フレンドリーな夏生のおかげで立花さんのLoinを手に入れてしまった


ただ連絡を取るだけでも指が震えてしまう


俺は恐る恐るメッセージを打つ


大地「おはよう! 同じクラスの鷹藤大地です

 朝早くからごめん! 

 ちょっと聞きたい事があって夏生から連絡先教えてもらったんだけど」


メッセージを何回も書いたり消したりしながら結局まとまった文章を送信する


(ってもう既読ついた!)


ドキドキしながら返信を待つ


立花さん「おはよう!私も昨日鷹藤君の連絡先交換しようと思ってたんだけど

 聞き忘れちゃってたからちょうど良かった!

 聞きたいことってなぁに?」


(立花さんも俺と交換したかったのか..) 


嬉しい めちゃくちゃ嬉しい


大地「えっとさ 今、昨日の動画で紹介されてた 卵焼きを作っているんだけど

   チーズとかちくわって食べれる?  

   人によって好き嫌い分かれるからさ 

   ちょっと聞きたくて」


立花さん「わざわざ聞いてくれてありがとう!

     私好き嫌い無いから入れて大丈夫だよ」


大地「了解! ふわトロに出来たから楽しみにしておいて!」


立花さん「分かった!凄く楽しみ!」


立花さんから「楽しみ」って言葉をもらった俺は思わず叫びそうになる


(やっぱり聞いておいて良かったな.. 何も知らなかったらつけて持って行く

 ところだった..)


とりあえずは一安心だ 出来上がったものをタッパーに詰め

学校のカバンに入れる


(それにしても..)



(やっぱり楽しいな 立花さんと話すの)


先ほどの会話を何回も見返すそうしていると自然と口角も上がってしまう


俺はその様子をじーっと見ているつばめにも気がつかないで...


「さっきからお兄ちゃんなんでにやにやしてんのー?」


「つ、つつ、つばめ!? いつからそこに??」


「お兄ちゃんがスマホをかまい出したあたりから! 

 彼女? やっぱり彼女さん出来たの!?」


目をキラキラさせたつばめは俺のスマホを覗き込もうと

飛びついてくる

年頃の女子はどうしてそんな思考になるのか!


「ちょ..! やめろって..」


「良いじゃん!見せてよ!」


「いやだ! ただの友達だから!」


「友達なら良いじゃん!ほーら!」


そう言ってつばめは俺からスマホを奪いLoinのトークを見る


「たちばなさん..? やっぱり女の子じゃん!」


「くそ..!返せ..!」


お互いに一切譲らない攻防

ニヤニヤと笑うつばめからスマホを取り返すため手を伸ばす

つばめのやつ.. 体操の習い事で変にすばしっこくなったのか全然取り返せない


「良い加減に..」


そうしてやっとつばめがスマホを返してくれた


「やっとか.. このぉ..」


「お い」


ドアの方から聞こえる低い声 恐る恐るその方向をみると鬼の形相をした母が

いた


「お前たちなにやってんだ」


「お.. おはよう..母さん..」


「2人とも座りな」


「「は、はい..」」


**


「まったく..2人とも幼稚園児じゃ無いんだからさ..

朝から騒ぎ立てたら近所迷惑でしょ!!」


「おっしゃる通りです..」


ぐうの音も出ない まさか高校生にもなってこんな説教を食らうなんて..


「喧嘩するならもう少し静かにする様に!分かった?」


 「「はーい」」


「分かったならよろしい ほら早く朝ご飯たべよ

 2人とも遅刻するよ」


時計をみるともう7時半になっていた


「も、もうこんな時間!?急げっ」


「私も! やばいやばい!」


急いでパンにかぶりつく


ただでさえテスト関係で単位が大変なことになっているのに

遅刻なんてとんでもない!!


「ご馳走様! 母さん皿洗い頼んだ!」


速攻で食べ終えた俺は急いで学校の支度をし駅に向かい

いつもよりも少し遅めの電車に乗る

少しギリギリだがこのペースで行くと全然間に合う

とりあえず一安心だ


(危なかった...)


ぜぇぜぇと息がもれる 

こんなに全力疾走したのは何ヶ月ぶりか やっぱり運動不足だ


( くそぉ 昔はクラス1速かったはずなのに..)


昔って言っても小学校の時である

人間 昔は得意だった事も何年もやらないうちにできなくなる物だ


そんなことを考えているといつも智紀と合流する○○駅に着いた様でドアが開く


今日は当然いつもよりも遅い時間なので智紀はいない

特にやる事もないので学校に着くまでの間に今日の動画の料理を考える


(ここ最近少し動画手抜きになってたからな.. 一回ちゃんと考えるか)


アイディアをメモしようとスマホを取り出す

だがその時..


「あれ? 君は確か鷹藤君?」


俺の名前を呼ぶ声がした 咄嗟に俺はその方向をみる


「あなたは.. 奏さん?」


「覚えててくれたんだ おはようございます 鷹藤君」


俺の目の前にいたのは立花さんといつも一緒にいる美少女グループの1人

奏由紀かなでゆきさんだった


「お、おはよう奏さん いつもこの時間なの?」


「うん 私いつも少し遅めに家を出てるの

 毎朝学校に行く前にお茶のお稽古をしているから」


どうやら彼女のおばあさんは茶道とお華の先生をやっているらしい

放課後は茶道部の活動や英会話教室があるからいつも朝にお稽古しているようだ


「凄いなぁ 朝から 大変じゃないの?」


「全然! お稽古も部活も全部楽しいから毎日幸せだよ」


そう言ってニコッと彼女が笑う

整った容姿そして穏やかで優雅な雰囲気の彼女の笑顔は

とてつもない迫力だった


(...! ダメだ 可愛い 俺には立花さんがいるのに..)


この笑顔をただのクラスメイトである俺にしてくるんだから

少し恐ろしいと思ってしまう

こんなの普通の人だったらイチコロだ


「そういえば昨日お弁当の時間に鷹藤君たちの話し声が聞こえて

 きたんだけど 鷹藤君っていつもお弁当自分で作ってるの?」


昨日の会話聞かれてたのか.. そりゃあ夏生たちと大声で話してんじゃ

聞こえるのもしょうがないだろう


「う、うん 毎日弁当と家族の食事は俺が作ってるよ

 まぁ好きでやってるだけだけどね」


「毎日かぁ すごいな 私なんか絶対無理だよ」


「俺も奏さんにとっての茶道みたいに楽しいから続けてるんだよ

 大変だけどやりがいもあるから」


「ふふ お互い 『好きだっ!』て思える事があっていいね」


「うん そうだね」


こうやって話すのは初めてだけどイメージ通りの完璧って感じの子だ

話も上手で喋ってて楽しい


だがしかし


(周りの視線が気になる...!)


先ほどからだが学校に近づくにつれ生徒たちの俺たちをみる視線が強くなる気がする 奏さんも学校のアイドルの1人どうしても注目を集めてしまう


この感じどうしても落ち着かない 早くクラスに行って

男子グループのバカな雰囲気を感じたい..


そんなことを考えていると学校の最寄りに到着する

俺は逃げる様に奏さんに別れを告げる


「じゃあ駅にも着いたし俺先に行っとくから

 また後で!」


(やっとあの視線から解放される...)


そう言って歩き出したその時だった


「ちょ、ちょっと待ってくれる?」


「? どうしたの奏さん」


奏さんが俺を止める理由が分からない

さっき俺と喋っていたのもたまたま電車が一緒になったからだろう

まだ俺に話す事があるのだろうか


「もし鷹藤君が良かったらで良いんだけど..」



「クラスまで一緒に行かない?」


「え?」


どうやらまだ視線からは解放されないみたいだ


続く









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