第2話 まさかの..

「鷹藤君も『たかたかチャンネル』す、すきなの??」


「え?」


とりあえず一回深呼吸 状況を整理しよう


今俺の前にいるのはクラス1可愛い立花さん

今日の昼食の時なぜかじっと見つめられた

そして今は彼女に呼ばれ階段の下で質問を受けている


「たかたかチャンネル? 俺がそれを好きだって?」


「う、うん だって今日の鷹藤君のお弁当

 昨日の動画で紹介されてた''肉まきみたらし団子''入ってたから..

 もしかしたら立花君も見てるのかなって思って」


(マジかよ まさか立花さんがうちの視聴者だったなんて..)


衝撃だ 「憧れの人に動画を見てもらっている!」という嬉しさより

驚きの方が勝る


(これは正直に伝えた方が良いのか?''実はたかたかチャンネルは俺が運営しているんです''って!)


まさかの新学年早々身バレの危機__それも憧れの立花さんに..


(どうするべきなんだ..こんな時に智紀達がいてくれたら..)


恥ずかしがって先に帰らせた事を今更後悔しても仕方がない

今この空間は沈黙状態にある 立花さんも俺が黙っている事に戸惑っている


(とりあえず何か言わねば..)


「そ..」


「そ?」


「そうなんだ!! 実は俺も『たかたかチャンネル』の大ファンでさ!

 毎日、動画が投稿されたら料理を真似したくなっちゃってさ!

 毎日作ってきてるんだよね!!」


嘘である 大ファンどころか大本人です

だがしかし、俺には本人である事を立花さんに伝える勇気は無かった


立花さんに嘘をつく様な事をしてしまうのは大変心苦しいが仕方ない


これで本当の事を言って変に驚かせてしまうのが怖いのだ


(せっかく話すきっかけが出来たんだ しょうがない)


「やっぱり!! 良かったー! これでもし違うって言われたら恥ずかしくて気絶しちゃうところだった..」


「立花さんもよく『たかたかチャンネル』見てるの?」


「うん 私昔からお料理系の動画を見るのが好きでね

 ちょうど1年くらい前に''激甘ハヤシライス''の動画を見つけてね

 そこからファンになったんだ!」


「激甘ハヤシライスってかなり昔の動画じゃない? 凄いね..」


俺がその動画を投稿したのは初めてすぐの時でチャンネルの方針が決まってない

俗に言う『迷走』をしていた時の動画だ


(あ、あれを立花さんに見られていたのか.. 恥ずかしすぎる..)


「鷹藤君 お顔が熱くなっているけど大丈夫?」


そういうと彼女は俺のおでこに手を当ててくる


「熱は無さそう.. 無理はしちゃダメだよ」


「え!? だ、大丈夫!! ちょっと疲れちゃっててさ」


いきなり手を当てられたら誰だってびっくりするだろう それもあの立花さんに!急に大胆になる彼女に驚く


「俺もちょうどそのくらいから見始めたんだ! 俺が好きなのはあれかな

 『しじみのすまし汁どっちが関東風?関西風?』のやつ!

 あれ面白いんだよね!!」


そこそこ古くて人気も高い動画を話題に上げる事で会話を繋げようとする


「私も! 編集がおかしくてさ ついついクスってなっちゃうの!

 それにね..」


(笑顔だ.. クラスにいた時みたいな嘘くさい感じじゃない)


楽しそうに話す彼女の笑顔が気になる さっき美少女グループにいた時の

寂しそうな笑顔じゃなく今は心のそこから笑っている様にみえる


(やっぱり 嬉しいな 自分の料理がきっかけで笑顔になって貰うのは)


「鷹藤君..? 大丈夫..? 目が..」


「目?」 彼女のいう通り目に指を当ててみるそうするとそこにあったのは涙だった


(俺、泣いているのか? あの笑顔を見て)


立花さんの笑顔をみるとあの時__つばめが初めて俺の料理を食べた時のことを

思い出してしまう


「あはは.. ごめんね急に泣いたりして ちょっと嬉しすぎてさ」


「全然! 私もこんな話ができて今すごい楽しいの!」


「昔から私..お友達があまりいなかったの

 今みたいに昔からクラスの子があんまり喋りかけてくれなくて..

 私からも声をかける勇気が無くて..」


「だから自分の『すき』を一緒に喋れるお友達が欲しくて鷹藤君に声をかけたんだ..」


「そうだったんだ...」


「誠ちゃんと由紀ちゃんはそんな私と仲良くしてくれるんだけど

 2人ともお料理系とかあまり見ないからさ..」


確かにあの2人ともバンドだったり茶道だったりに夢中そうだから仕方ないといえば仕方ない


「立花さんは実際に料理とかはしないの?」


「私は本当はお料理をやってみたかったんだけどね..

 パパがピアニストだから小さい頃からピアノしかやらせて貰えなかったの」


どうやら話を聞く感じ世界でも有名な人らしい

そんな家庭出身だったら料理なんてやっている暇は無かったのかもしれない


「でも高校生になってパパと喧嘩して好きな事をさせてもらえる様になってね

 お料理を始めてみたんだけど全然下手っぴでさ

 そこから作るより見る方が好きになったの」


「そんな事があったんだ ごめん そんな事わざわざ聞いちゃって」


彼女からすればあまり進んで話したくない事だろう

それを聞いてしまった事に対して申し訳ない気持ちになる


「いいのいいの! 鷹藤君が気にしなくても」


彼女がまた少し寂しそうな笑顔で笑う


プルプルプルプル 「あ ちょっと待って」


そんな中俺のスマホが振動するどうやら誰かが電話をかけて来たみたいだ

そうして電話に出ると


「おい大地! お前いつまで話してんだもう5時だぞ」


「智紀!? お前先に帰ったんじゃ」


「馬鹿! あんな事があってのうのうと帰ってられるか

 ずっと校門で待ってたんだぞ

 終わったら連絡するって言って全然連絡もしてこなくてよ!」


「だとしてもタイミングがあるだろ? もうすぐだから..!」


「ああ ちょっと! だいt ガチャ」


智紀との電話を切り立花さんのところに戻る


「ごめんね 立花さんちょっと電話がかかってきてさ」


「ううん 私の方こそこんなに長くごめんね

 もうそろそろ帰ろうか」


「あぁ うん..」


(もう終わってしまうのか..)


突然のことだったが立花さんと喋って少しだが仲良くなれた

そう考えれば良かったと思う


だがしかし喋ってみるとまだまだ話したい

こうやって話してみると今までの俺は立花さんのことなんて全然知らなかった事に気がつく

俺は彼女の見た目というか表面的なものに憧れていただけなのかもしれない

もっと彼女を知りたい そう思うと寂しくて帰りたく無くなる


「鷹藤君?」


彼女が心配そうに声をかけてくる

これはチャンスなのだ


せっかく仲良くなれたこの機会 このまま帰ってしまえば次いつ喋れるのか分からない


あしたの事なんかわからない とりあえず興奮状態でおかしくなってた


(言うしかないのか.. 好きって)


まだ少し早い気もするがいずれ伝えなきゃいけないことだと思う


なら今なのか この気持ちを伝えるのは


「た、立花さん! ちょ、ちょっと伝えたい事が!!」


「? どうしたの?」


(言うしかないんだ!鷹藤大地! 今伝えなきゃ次はいつになるか分からない)


足が震える そりゃそうだ 今から告白しようとしているんだ


(正直に伝えるんだ!あなたが好きですって!)


「え、えっと」


(一緒に帰りたいですって!)


「も、もし良かったら!!」


(一緒に料理を作りたいですって!! 伝えるんだ!!)


「俺が作った料理を食べませんか!!」


「..え?」


「え?」


立花さんが驚いた様にこっちを見てくる


そしてそんな自分も状況が分からなくて驚いている


「えっ、えっと これは..」


顔が沸騰したかの様に熱くなる


(なにやってんだ!!!おれはぁ!!!!)


最悪だ 最悪だ 最悪

まさかの告白の言葉を間違えるなんて..


本当は「あなたが好きです」って伝えるはずだった


でもまさか緊張しすぎて頭の中がこんがらがり意味のわからない事を言ってしまうなんて...


恥ずかしいなんて話じゃない完全にやってしまった


「そ、それはどう言う意味?」


立花さんが理解できないかの様に首を傾げ質問してくる


こうなればもう誤魔化すしかない

嫌われない様にさっきのミスを修正するような言い訳をパニックになった

頭で必死に考える


「え、えっと.. 今のは そ、その..

俺実は趣味で毎日『たかたかチャンネル』で紹介された料理を再現して作ってるんだ 今日も昨日紹介された''肉巻きみたらし団子''を作ってきたんだけど

良かったら立花さんにも食べてほしいなぁってそ、その

もし良かったらだけど...」


俺が必死に作った言い訳はこれだった


(これはもう嫌われてもしょうがない.. くそぉ)


自分があまりにも情けなくて涙が出てくる

こんなんじゃもうきっとダメだろう せっかく仲良くなるチャンスだったのに

恐ろしくて彼女の方を見ることもできない


「良いの...?」


「え?」


「私なんかが鷹藤君の作った料理食べて良いの?」


(な、何が起きているんだ)


もう無理だと思っていた 絶対にダメだと思っていた彼女から言葉

まさかのそれはYesだった


「良いも何も... こっちこそ良いの?」


「良いのって.. 鷹藤君から提案してきたんじゃん!

 もし鷹藤君が『たかたかチャンネル』の料理を作ってくれるなら私食べてみたい!」


「俺なんかで良いなら 立花さんのためだったら何だって作るさ!」


「私、ずっと『たかたかチャンネル』の料理食べてみたかったの!

 一回やってみようとしたけど全然ダメで

 きっと食べたくても食べれないと思ってたの

 ママにも作ってなんて言えないし..」


「まさか、食べる事ができるなんて すっごく嬉しい!」


そう言って微笑む立花さんの目には薄ら涙があった


「いや、何で立花さんが泣いてるんだよ..」


お互いよく分からなくなっている


「私、凄く嬉しくて..」


その後しばらくして2人とも落ち着きを取り戻した


「じゃあ そろそろ帰らなきゃ」


時刻は6時__結局あのあと智紀を1時間も放置した事になる

流石に帰ってるだろうか、いやもし残ってたら流石に悪いのでコーラでも買っていこう


こうして学校のコーラを自販機で買った後立花さんと2人で歩く


あたりはすっかり暗くなっていたが校門の前には薄らと人の影が見えた


「おーい! 智紀!!」


「こらぁ!大地遅いにも程があるって!勝手に待ってた俺も悪いけど!」


こうして馬鹿な会話をしている横で立花さんはくすくすと笑っている


「じゃあ立花さんまた明日 明日はめちゃくちゃ美味い料理作ってくるから!」


「ふふ ありがとう また明日」


そう言って立花さんと別れる


「おい大地」


「なんだよ」


「結局立花さんからの話って何だったんだ?」


「立花さん実は『たかたかチャンネル』の視聴者らしいそれも結構コアな」


「えー! 意外だな.. あんまりイメージが」


「俺も驚いたさ これから動画投稿するときにやっぱ意識しちゃうよ」


「てか最後校門出る前にいってた料理を作るって何だ?」


「今日投稿する『たかたかチャンネル』の料理を立花さんにも作って持っていく事になった」


「あの時間の間に一体何があったんだよ」


「色々ありすぎて俺も困惑してんだよ」


「ったく.. てか体調治ったのか? こんなに遅くなったらゲーセンも今日は行けないしさ」


「あぁ 大丈夫だ 多分」


本当はまだ顔が熱い だがまぁ良いだろう  


明日がある 立花さんとの明日がある


そう考えれば今は大丈夫だ


「ただいまー」


「おかえり!お兄ちゃん!」


智紀とも別れ家へ帰ってくる いつもよりも遅い帰宅だ


「おかえり大地 あんた連絡も何もよこさなかった私が作ったよ

 2年ぶりくらいにさ」


「あぁ ありがとう」


「なんか あんたテンション低くない?どうしたん」


「何でもない 飯できたら呼んでくれ」  


そのまま自分の部屋に戻りベットに向かって飛び込む


(疲れたぁぁぁぁ!!)


新学期始まって早々とんでもなく濃い1日だった


(この後の動画どうしよう...)


この後いつまで経っても立花さんの事が頭から離れず動画撮影に苦戦してしまったのは言うまでもないだろう






 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る