ラブリア戦隊ラブウォーリアー999話「危機一髪!? ラブアローよどこを向く」

弥生

ラブリア戦隊ラブウォーリアー999話「危機一髪!? ラブアローよどこを向く」


 諸君、君たちはラブリア戦隊ラブウォーリアーを知っているだろうか。


 いや、知らなくても仕方がない。

 人知れず世界の敵と戦う愛の戦士たちだ。

 彼らは人を愛する慈しみが心が強さとなり、人に愛される喜びが心を強靭にする。

 愛を力に敵を滅ぼすヒーロー戦隊なのだ。


 つまるところは……愛がなければミジンコより弱い。


「教官! 今日もまた敵から世界を守れましたね!」

「さすがだ、ラブリア・レッド! 君のリーダーとしての資質を感じる。これからもチームを率いてくれ!」

「はい!!」

 チームリーダーのレッドは良く人を見て号令を出すことができる。

 最後の最後まで希望を捨てずに戦うことができる熱い男だ。

 熱血漢で自分の危機より人の危機を優先させる為、現在二浪中だ。世界の敵はまず共通試験時期を避けてくれ。頼むから。

 

「ラブリア・ブルー、副リーダーとして良く支えてくれた!」

「ふっ教官。当然だ。俺は出来る事をしたまでにすぎない」

 レッドを炎に例えれならば、ブルーは氷のような美形な男。

 冷静沈着にチームを影から支えている。現役医大生ということで負傷した仲間の緊急治療もしてくれる、クールだが頼れる男だ。

 

「やりましたね、皆さん!」

「ああ、ありがとうラブリア・ピンク!」

 ピンクは良いところのお嬢さんといった感じでほわほわしているが、その笑みに癒される人は沢山いる。

 このまえラブリア・ピンク・サインショーを勝手に開催していた。頼むから事後承諾はやめてくれ。これでも隠れてヒーロー活動しているんだから。

 同性からは憎まれやすいが圧倒的に男性から支持される女性だ。

 

「えへへ、あたしたちに任せておいてよ、教官!」

「いつも君の明るさに救われている、ラブリア・イエロー!」

 イエローは明るく闊達で、チームのマスコット的な女性だ。

 最初はイエローはカレーのイメージが付くから嫌って言っていたが、風水的にも金運幸運とても良いぞと宥めすかしてなんとか受け入れてもらった。口より先に足が出るバーサーカーなところも魅力的な女性だ。


「ふふん、僕たちに任せてくださいよ!」

「頼りにしているぞ、ラブリア・グリーン!」

 グリーンは今時流行りの男の娘だ。

 正直言って、ピンクとイエローより可愛い。なんて言ってしまうと女性二人がジャーマンエクスプレスを交互に掛けてくるので、一切言わない事にした。命は惜しい。


「では恒例のヒアリングを行う。一人ずつ教官室に来てくれ」

「「「「「はい!」」」」」



 最初のヒアリングはレッドからだな。

「最近はどうだ、レッド」

「はい、愛が身体にみなぎっているのか、心も身体もすこぶる良いです!」

「そうか、それは結構な事だ」

「それで、あの、教官。皆は俺の事どう思っているんですか?」

 報告書に書き込んでいた手が止まる。

「………もちろん、相も変わらずだ」

「本当ですか! 良かったです!!」

 ラブリア戦隊は愛の力が戦士たちの力秘めたる力を解放する。

 その為、レッドの事をピンクとイエローが悪からず想っていると、彼には伝えている。

 レッドはそれを真に受けて、女性陣二人から好かれていると勘違いしている。

 もちろん、それを訂正することは容易い。

 だが……真実を知ったラブリア戦隊は、脆い。すぐにミジンコ並みに弱体してしまう。

 だから教官として、いや、彼らを運用する統括として、その誤解を上手く誘導しなければならない。


「へへ、今度のバレンタイン、どれぐらいチョコ貰えるかな!」

「……あぁ、きっといっぱい貰えるだろうさ」

 今年もチョコを偽造しないとな……三十後半のおっさんがそれらしくチョコを偽造しなければならないのは切ないが、これも世界平和のためだ。

 レッドが誰からもモテないなんて真実を知ってしまえば、再起不能になってしまうだろう。それを防がなければ。

 世界平和だけじゃなく入試へのモチベも保たなければ三浪になってしまう。

 大変だ。俺も裏からサポートにまわろう。

 

 次に呼び出したのはブルー。

「最近はどうだ」

「……別に」

 やりづらい。大変やりづらい。

 三十後半にもなって教官服を着て諸君に重大な知らせがある! なんてやっている俺の事を見下しているのか、たまに視線がウジ虫を見る様なキツイ眼差しになっている。いや一応これでも特殊公務員なんだって。ちゃんと公務員試験も受かって採用されたんだよ……本当だぞ……。

 なんて、こいつの場合、愛する相手がいるかはわからないが、愛されていることは間違いない。うん、それだけは保証する。

「大学三年生になって病院実習も大変だろうが、こちらも頼むぞ」

「言われなくても」

 ……やりづらい。

 けどまぁ今のところ呼び出しを拒否することもないから、まぁ……いいのか。


 次はピンク。

「それでね、ブルーってば、帝都大学の医学部でしょ? ママも一度会いたいって言ってて~」

 愛を語るピンクはブルーに夢中だ。延々とブルーの事を話される。

 そう、ピンクが好きなのはブルーだ。その愛がピンクの力になる。

 正直……レッドにこれがバレたらどうしようってそればかりが胃痛の元だ。

「ところでレッドの事はどう思う?」

「リーダーとしてはああいった正直な方のほうが動かしやすくて良いのでしょうけど、二浪してるし顔もいまいちでちょっと好感は持てません」

 キツイ! 言い方がキツイぞ! ピンク!

 もうちょっと慈悲をくれとも思うが、俺からは言えない。

「ブルーはその、表から好き好きって言うのはちょっと抵抗がありそうだから」

「ええ、あのクールなところが素敵ですよね。私、彼との結婚に向けて影から手を回していきますわ」

 完全に結婚まで視野に入れてる。お嬢様怖い。

 まぁ、このしたたかさがあるからピンクとも言えるが……。



 その次はイエロー。

「はう~ブルーってなんであんなにクールでかっこいいのだろう」

 完全にブルーの独り勝ちだ。ヒエラルキーが完全に出来上がっている。

「うんうん、そうだな」

「あたしみたいなお転婆娘、ブルーは好きじゃないかな?」

 うんうん、そんなことないぞ。以外の回答ができない質問はやめてもらえないだろうか。

 俺はこの対人関係に胃をキリキリとしながら回している。

 ラブリア戦隊は愛がないとミジンコになる。世界平和には彼らが愛を持つ事で保たれる。

「今度のバレンタインにでもこっそりとチョコを贈るのはどうだ?」

「そうしてみる! でもチョコレートなんて作った事ないよぅ」

「はは、俺が手伝おう」

 なんでおっさんの俺が十代二十代の恋愛相談みたいなことをしないといけないんだ。なんて事は考えない。これも特殊公務員の役目だ。

「ちなみに、レッドの事、どう思う?」

「なんか生理的に嫌」

 レッド、レッド強く生きてくれ。

 

 最後はグリーン。

「僕ね、なんかね、ドキドキするんだ」

 はぁ、そうっすか。なんて言ってはいけない。ここは大人の微笑みで、それで? と優しく聞き返す。それが円滑に事を運ばせる為の最低限のルールだ。

「誰にドキドキするんだ?」

「ブルーってクールでかっこいいよね!!」

 おじさんはくたびれたおっさんだが、最近流行りのボーイズラブにも寛容だ。

 好きにやってくれたまえ。だが、圧倒的ブルー人気に、レッドへの憐憫の情を隠し切れない。

「君の人生だ。君の思うまま、心に愛を育むんだ」

「教官! 僕、男の子だけどブルーを好きでいていいんですね!」

「愛は無限だ!」

 ぱぁぁっとグリーンのラブパワーコスモが溜まっていく。次には必殺技が出るかもしれない。いいぞ、いいぞ。こういうメンタルケアのために俺がいる。


 こう、圧倒的なブルー人気の中、絶妙なバランスでラブリア戦隊は形成されていた。


 

 一瞬でも踏み間違えば、容易く割れてしまう薄氷の上のラブバランスは、ほんのわずかな軋みで崩れ去る。

 そう、ラブリア戦隊に最大の敵が迫っていた。



『ラブリア戦隊応答せよ! 世界の敵が現れた! 現場に急行し市民を助けてくれ! 俺も向かおう!』

「「「「「了解!」」」」」


 市街を阿鼻叫喚に落とし込む敵は厄介な技を使うようだった。


【ギーッシャシャシャ! 吾輩はアローヴォッチド! 愛を語るニンゲンどもよ、吾輩の技にひれ伏すがよい!!】

 一番最初に現場に急行した俺は、頭を抱える。

 敵との相性が悪すぎる。


 どうやら、アローヴォッチドと名乗る敵は、ラブアローと呼ばれる【誰が誰を好きなのか】という恋の矢印を可視化できる敵の様子だった。

「危機的過ぎるだろ!」

 駄目だ。そんなの。

 レッドが矢印が一つも飛んでこない事を知ればミジンコになってしまう。

 ピンクとイエローとグリーンがブルーに向いている矢印を知ってしまったら、殺し合いになってしまう。

『ラブリア戦隊やっぱり来るな! お前たちでは歯が立たない! 俺が足止めする間に市民の避難を完遂しろ!!』

 ええい、ここで愛憎ドロドロの阿鼻叫喚が繰り広げられるぐらいなら、俺が奴を食い止める!!

 

 アローヴォッチドに技を駆けられた一般市民男性が、恋人に三股していることを知られて往復ビンタを連打されている。

 あぁ! あっちにはダブル不倫だと知られて三つ巴、四つ巴になっているサラリーマンたちが!

 いや、ちょっと性が乱れすぎだろ! 大丈夫か!? 現代人!



「ふ、俺は失う矢印はない!! なにせ社畜歴15年、誰ともお付き合いせず仕事に邁進し、ここまで来たからな!」

 矢印が飛ばなくても向いてこなくても痛くはない。かかってこいや!!

【寂しい男ですね……】

 おい、ちょっと同情するな。ハートに罅が入るだろうが。


「教官! 只今到着しました!」

 うげ! あいつらが到着しちまった!


【ギーッシャシャシャ! 吾輩はアローヴォッチド! 愛を語るヒーローどもよ、吾輩の技にひれ伏すがよい!!】

 あ、登場シーンからやり直すのな。


「く、そこまでだアローヴォッチド! 愛を知り、愛を語るラブの伝道師、ラブリア戦隊のラブリア・レッドが来たからには好きにはさせないぞ!」

 一番愛を語られない奴が出てきてしまった。


「避難はまかせろ、レッド」

「頼んだぞブルー! とう!」

「ブルーを支援しますわ!」

「あたしも!」

「僕も!」

 ピンクとイエローとグリーンがブルーに続く。

 いや辛すぎる。一人ぐらいレッドを助けてくれよ。

 

【ギーッシャシャシャ! ラブアロー開示せよ!!】

 ギュピーンっと光がレッドたちに降り注ぐ。

 ひえ!! 危機が過ぎるだろ!!

「お前たち! 目を塞げ! 敵はまやかしを使ってくるぞ!!」

「教官! くそ、どうやって敵を倒せば!!」

 え、どうしよう。どうする? どうすればいい?

 ええい、こなくそ!

 

「心の眼で敵を見るのだ! レッド、お前ならやれる! 愛を知るお前ならば!!」

「教官!! わかりました!!」

 馬鹿で良かったーーーー。

 レッドは思い込みが激しい。ゆえに、お前ならできるって言えばやってしまうのだ。

 レッドのラブアロー……恋愛の矢はピンクとイエロー、その他あらゆる女性に向いていた。

 見境ないのえっぐ!! お前女なら何でもいいのかよ!!

 なんて敵によって可視化された愛の矢印にドン引く。

 ふっとピンクとイエローとグリーンを見れば、太い矢印がブルーに向いていた。

 わぁ。

 「一気に攻めるぞ! みんな! 俺に愛の力を分けてくれ!」

「「「「はい!」」」」

 ラブリア戦隊が声を合わせるが、その矢印はレッドには一ミリも向いていない。

 わぁ、えっぐい。

 レッドが愛されているという思い込みの力で敵を討伐する。


「世界を愛で救う!」

 決め台詞の後に敵が爆発する。

 いいぞレッド、そのままの君でいてくれ。

 

 ふと、矢印が消える前に、そういえばブルーの愛の矢印はどこを向いているのかと思えば、その矢印は……。

 ないない。俺の方にむいているとか無いない。全然ないない。

 極太なの向いているとかそんなの無いない。


「しょ、諸君! よくやった! 目を閉じての戦い、一般市民の早急なる救助! さすがだ!」

「教官! これでまた世界は救われましたね!」

 ついでにお前たちの関係性もな。


 俺はどっと疲れたように、息を吐き出した。

 危機一髪、なんとか救われた。


 ただ無邪気に喜ぶ若者たちの姿を横目に、頼むから人事異動命令来ないかな。って俺はそっと胃薬錠剤をかみ砕いた。

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