ホワイトデー戦線異常有り?

多田克典ただかつのりは仕事中同僚が女の子にお菓子を渡していたのを見て、ホワイトデーの存在を思い出した。

いや、忘れてた訳じゃない。

天使二人に渡されたチョコで一晩から次の日までトイレの住人だったのだ、忘れられないだろ、そんな出来事。

だからこそ、あいつらに返すのが本当にいいのか悩んで今日の日まできてしまったのだ。

でも、バレンタインにもらったことは事実。

そしてここは日本、お返しはしなくてはならない文化だ。

渡してホッとしてる同僚に何渡したんだ? と訊ねると頬を掻きながら「飴ですよ、喜んで貰えてよかったあ」と言っていたので、どこの売り場で買ったかを聞いておいたのだ。


そして今、白と青のカラーリングを主にした期間限定の売り場に立ち尽くしていた。

なんせ種類が多い。

なぜこんなに種類が多く、さりげなくオシャレなのだ、女子に渡すからなのか?

多田は悩み、近くにあったくまさん柄のキャンディボックスを二つ掴み直ぐに会計を済ませた。

「リボンは何色になさいますか? 」

そう言われてパッと思いついたのは二人の髪色。金と黒だった。

それを告げたら、流石に黒一色はあれなのでシルバーのラメが散らされた黒と白のリボンにしますね、と言われたので、「それで」と答えた。

素早く綺麗な所作で袋に入れられ、その袋の口をリボンで華麗に結んでいく店員の技術に内心多田はびっくりしていた。

「はい、こちらをどうぞ〜」

「ああ……」

綺麗に包装されたキャンディボックスを受け取り、通勤鞄に滑り込ます。

そしてその場を後にした。



「ただいま」

「おかえりなさいですよ〜! ! 死なないようにこっそり監視してましたが、買ってたものはなんですか? 」

さらりと天使の力で覗き見されていた事にツッコむ気力もない。

クリスはにこにこと笑っている。

その笑顔に多田は力なく笑い返してやると、鞄から包装されたものの一個を差し出した。

「えっと、これは? 」

「日本にはホワイトデーって文化があってな、バレンタインにもらった奴にお返しするんだよ……だから、貰ってくれ」

「そうなんですね? 」

ありがとうございます、とクリスが大事なもののように胸に抱きしめるので、その仕草が可愛くて多田はそっと頭を撫でた。

「あいつの分もあるから、来たら渡しておいてくれ」

「はぁーい」

撫でられて頬を赤くするクリスに、それ以外のことをしたくなったが、それをする勇気は多田には無い。

暫く撫でてから解放してやった。




数日後、二人の天使がキャンディの意味を調べてしまい顔を真っ赤にして多田に詰め寄る姿があったとか。

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