第14話 権能よ、俺を真人間にしたいのか。

それから暫くは多田克典ただかつのりは権能に振り回される日々が続いた。

抑制がまだ出来てないのか、フルに出しっぱな為、色々な事ものに権能は引っかかった。

荷物が多すぎて横断歩道を渡れないおばあさん、轢かれそうになったワンちゃんを救ったり、公園で遊んでいた子供が怪我しそうになるとこを助けたりなどなど。

多岐に渡る権能の発現に多田のライフはごりごりに削られていった。

なお、全てのケースで感謝されたことは特筆すべき事だろう。

なんせ、権能が発現し、感謝されるごとに貯金箱まで現れ、何かがチャリンチャリンと貯金されていってるのだから。

今日も疲れきった多田が、クリスの料理に舌づつみを打ちながら話題にすると、クリスはきょとんとした顔で、ついっと出しっぱな貯金箱を引き寄せた。


「ああ、大分貯まりましたね〜! !

これは福徳貯金箱なんですよ、でも豚さん形の貯金箱は初めて見ました ! ふふ、豚さんかーわい」

豚さん形貯金箱と睨めっこをするように見ていたクリスがまた破顔する。最近は、こう花びらが花開くように笑うので多田はドキドキしっぱなしだ。

クリスからなるべく目線を外し、豚さん貯金箱を睨みながら多田は訊く。

「福徳? 」

「簡単に言えば、いーことをして感謝されて、その感謝がポイントのように貯まってんですよ〜福徳はいつか多田さんの身を助けますよ、絶対に」

「ふーん、福徳ねえ……」

多田には眉唾ものだった。

でもそれでも、部屋の中には感謝された時の品々が纏めて置かれてるので、見ればその時の気持ちが蘇る。

嬉しかったのだ。感謝されるなんてことなく生きてきた多田からして、その感謝された時の気持ちは胸が暖かく、そしてどこか気恥しかったのを思い出す。

これが福徳と言うのなら、なるほど、良いものなんだろう。

照れた多田は、豚さん貯金箱をひったくるように取り返す。

その仕草でさえ、クリスは嬉しそうに笑っていた。


それを見て、また多田の心臓が跳ねた。

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