第13話 雨降って地固ま……ったのか?これ。

掴んでいたクリスの手をばっと振りほどく。

初めて見るぐらいに真っ赤な多田の顔に、思わずクリスは笑い声を立てて破顔した。

「あはははっ、もう、真っ赤ですよ? 」

「お前もそうだろうが! !」

「わ、私のは仕様ですもん! そう決めました! 今! 」

全身で反応してみせるクリスに、多田は深い息を吐いた。落ち着かせるためである。

破顔したクリスの顔に見惚れて思考停止に陥りかけたとか、ない。全く、ない。

多田克典ただかつのりは彼女いない歴イコール年齢なので、初恋でさえも幼少期に一度きり。

だから今の、超絶可愛い天使様と一緒に暮らし始めて、そういった意味での好意を無意識に抱いていることなど彼は知らずにいた。

だが、クリスは思考が読めてしまう。

益々顔を赤く染めて白い両翼で上半身を隠した。

その中でクリスはブツブツと呟いている。


「あれは違うの、あれは違うんだってば、嬉しく思っちゃダメなんだから……っ」

そんな天使様をスルーして、ようやく落ち着いた頭で多田は問いかけた。

「権能って、今実際に使えるのか? 」

問われてクリスは翼を折り畳み、人間体に戻る。

「えっと、そうですね……大なり小なりあるんですが……お夕飯、どうされますか? たまには外で食べますか? 」

そう問われた途端、多田の頭の中で秤が出てきた。

片方の皿に、外食。

片方の更に、家。

暫くするとその秤はグラグラと揺れて、ついにガタンと片皿が落ちる。

選ばれた皿は、家だった。

勝手に出てきた秤はいつの間にか多田の脳内から消え失せている。

どうでしたか? と訊ねる、その言葉に「秤が出てきて勝手に決まった」と多田が返すと、それが権能ですとクリスが言った。


「選択肢が二つ出てきて、必ずいい方に傾き導くんです。人間は心の中に天使と悪魔を飼っているでしょう? それの具現化バージョンと思ってくだされば」

「天使と悪魔は誰もが飼ってる訳じゃないがな」

初めての権能発現に多田のツッコミの鋭さはなかった。


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