危機一髪

於田縫紀

危機一髪

 山奥で少しマイナーな観光地。しかし天気に恵まれた事もあって、個人的印象としては最高だった。


 空気がいいし景色もいい。メインの千年以上の歴史を誇る古い大きな神社も最高だった。

 木造ながら大きく立派な造り。細かいところまで施してある彫刻。今時手に入らないような太い一本柱。程よく色あせた木材の風合い。


 更には境内を流れるせせらぎ、巨大な樹木なんてのも。

 何というか確かに一種の神域という感じがする。


 境内を一通り回って満足して外へ。バス停で時間を確認。

 ちょうどバスが行ったところだった。次のバスまであと1時間。山奥だし田舎だから仕方ない。


 なら食事でもして時間を潰そう。ちょうどお昼時だ。


 少しマイナーとは言え地元的には観光地。だからか飲食店やその他のお店がそこそこ並んでいる。

 なので私は左右を見ながら良さそうな店を探す。


 最初に見つけたのは蕎麦屋だった。雰囲気は非常にいい感じなのだが残念。

 次の店は……三軒先にあるのは蕎麦屋だ。ならその先は……


 結局店が並ぶ150m位を歩いてみた。しかし食事をとれる店は蕎麦屋ばかり。

 この辺の名産だから仕方ない。


 店で食べるのは諦めた。テイクアウトでもいいので他を探す。

 饅頭屋……駄目だ、そば饅頭と書いてある。

 

 他に無いか……見るとお焼き屋さんがあった。テイクアウトして食べられるようだ。

 これなら大丈夫だろう。そう思って近づいて、そして気づいた。『蕎麦おやき』なんてのがある。


 同じ器材を使用しているならアウト。このおやき屋さんも駄目だ。


 ああ、駄目だと思うと余計に腹が減ってきた。他に店はないか。周囲を見回す。


 おっと、パン屋があった。パン屋なら大丈夫だろう。これで昼飯を食べられる。

 もう何でもいい。腹が満たされれば。パン屋に入って、トング片手に餡バターサンド、チーズブレッドを取って会計。


 店を出てバス停へ向かう。ちょうどいいベンチがあった。誰も座っていないのでありがたく陣取って袋からパンを取り出す。


 それではいただきます。心の中でそう呟き、そしてパンを口に運ぶ途中。

 ふと見たパン屋の袋にこう書いてあった。


『地産地消の試みとして、地元産の小麦粉と蕎麦粉をパンに使用しています』


(蕎麦アレルギー危機一髪 完) 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

危機一髪 於田縫紀 @otanuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画