第3話 飛ぶことのない鳥

多くの人が「サラリーマンは安定しているが、自分で生きていくのは不安定だ」と考える。


特にお金の面で。


僕自身も長い間そう思っていた。


だけど、その考えを持っているかぎりその人間がサラリーマン以外の生き方をすることはない。


それがその人の生き方の前提になるからだ。


会社=働いて生計を立てる場所。

これが多くのサラリーマンのマインドセットだと思う。


だから、多くの人が上司や同僚が嫌でも、文句を言いながら毎日通勤する。

キャリアアップを図って転職する人もいるが、それも外側の条件の改善を期待しているにすぎない。


かつて僕が新卒で就職した最初の会社を辞める時の話。


会社側に退職することを伝えると、僕の上司は大きく目を見開いてこう言った

「お前、会社を辞めて明日からどうやって生きていくつもりなんだ?」。


歩合給の営業マンは別にして、サラリーマンは固定給で働くことに慣れてしまっている。

だから給料という形態でしかお金を得る方法を知らない人が多い。


それはいつも親鳥が運んでくるエサを巣の中で待ち続ける幼鳥と同じだ。


違うのは、幼鳥は成長すると自ら飛び立ち自力でエサを獲るようになるけれど

サラリーマンはそうではないということ。


雇用されている間は会社から振り込まれる給料で暮らし

退職した後は国から支給される年金で暮らす。

親鳥という存在が会社(給料)から国(年金)に変わるだけだ。


それは翼があっても飛ぼうとしない鳥と同じ。


飛ぶのが怖いし落ちたら嫌だから。

だからずっと巣の中で過ごして親鳥がエサを運んでくるのを待つ。


そうして人生は過ぎていき

ある時、新たに何かに挑戦するには年を取り過ぎてしまった自分に気づく。


「何をするにも遅すぎることはない」という言葉はやる気を起こさせるには真実を突いているが、一方で「何かをしようと思った時にはもはや手遅れだった」というのも真実だと僕は思っている。


せっかく飛ぶための翼を与えられていながら

一度も空を飛ぶことのないまま人生は過ぎていく。


そして無難に生きたつもりの人生を後悔するようになる。


いつの頃からか

僕は自分がそのような道のりを辿るのは嫌だと思うようになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る