第12話 疑り



「そういえば、あいつはなんで俺と彼女がまだ連絡を取り合っていることをなんとなく察していたんだ・・・?」



俺は、今度は相談相手になってもらっていた友人を疑い始めた。

1年前に人生相談という体の彼女についての悩みの相談に乗ってくれて、最近俺に「拗らせてるな」と言ってきた例の友人だ。


疑い始めると、いろんな点で友人と彼女が結びつく点が見つかった。

まず1点目だが、俺に"そいつは男だぞ"と言ってきたのも友人だった。

なんで友人は"彼女が男である"というのを知っていたのだろう?

なんで俺にそうアドバイスしてきたのだろう?

俺は、そうやって考えていくうちにひとつの答えにたどり着いた。


「――"あいつ"が俺の好きな子と付き合ってるんだ」

「だから、俺に"そいつ男だぞ"と言って諦めさせようとしたんだ」

「俺を"騙された"と思うようにさせようとしたんだ」

「だって、そうしたら俺をふざけんなって気持ちにさせて、自ら離れて行かすことができる」

「過度に自分の彼女と仲良くしようとする男を遠ざけることができる――俺との友達関係を継続しながら」

「じゃあ、彼女はどういう気持ちでいたんだ?」

「二人でちょっとからかってやろうと思ってたのか?」

「きっとそうだ。俺があまりに本気すぎて、撤回しようにも撤回できなくなったんだ」


冷静さを欠いた俺は、そう考え出すと全てがそうだったんじゃないかと変に納得し、それは次第に揺るがない確信へと変わった。

平常時だったらこんな根拠のないことを考えようとしても「馬鹿馬鹿しい」と思考を止められるのに、こと恋愛事においてはいろんな可能性が浮かんでその度に精神をすり減らした。


それは、おそらく恋愛というのは他人がどう行動するのかどう感じるのかが思考の主体となるものだからだ。

要するに、自分の力ではどうにもできない部分が非常に大きいということだ。

その人の本当の気持ちは絶対にその人本人にしかわからない。

その人に対して"絶対にこうだ"という思い込みは盲信であり、その盲信が裏切られた時それは大きな精神的ダメージへと変貌する。

だから、そうならないように予めあらゆる可能性を想定し、"もしそうだったら"の場合の心の準備を自分の中で用意しておく必要がある。

今回のこの"疑り"もその自分の習慣的な思考で生まれたものだった。

そして、精神がすり減ってしまうのはそれだけ"最悪な可能性"が絶対に起きてほしくない嫌なことで、そのこと自体がそのくらい彼女のことを想う気持ちが大きいことを表していた。

気持ちが大きいからこそマイナス思考を"そんなはずがない"と軽視することができず、思考が囚われ逃れられない――好きだからこそそれによって精神をすり減らす。

その悪循環に陥っていた。


「・・・俺はなんてことを考えてるんだ」


相談に乗ってくれた友人を疑い、彼女のこともまた疑い――


「・・・なんで俺はこんなにも醜いんだ」


まだそれが事実とは決まってもいないのに友人を妬み、俺が彼女としたい行為を友人がしているのかもしれないといった勝手な妄想に勝手に怒りを覚え、「だとしたら絶対に許さない」と勝手に独占欲を振りかざす。

そんなドロドロとした感情が渦巻く自分自身を省みて自己嫌悪した。

でも、一度生まれてしまった"疑り"は考えないように見ないようにすることはできても、消し去ることはできなかった。

だって、そのくらい起きてほしくない最悪な出来事で、実際に起きていたのかもしれないとその可能性の高さに妙に納得してしまったから。


――だから、俺はまた選ぶしかない。

このまま"疑り"を持ち続けるのか?

それとも、"疑り"を晴らそうと行動するのか?

前者を選んだ場合、俺がその"疑り"がどうでもいいと思えるようになるまで未来永劫に苛まれることが約束される。

要するに、彼女への執着が終わらない限り、俺は本当かどうかもわからない"疑り"にずっと苦しむことになる。

一方後者は、"疑り"が解消される行動をし、理解→納得をすることでフラストレーションの解消を目指すことだ。

ここでいうそれは、友人か彼女に事実確認をして、自分が納得できるまで確かめることだ。


メリット・デメリットを考えてみた。

前者を選んだ場合、俺が苦しみ続けるだけで済むので他の人に迷惑がかかることはないだろう。

ずっと一人で我慢して、自分を誤魔化し続けて、執着がいつか終わり手放せる時までそうしていればいいのだ。

しかし、後者の場合はそういうわけにはいかないだろう。

実際のとこどうなのかを本人らに直接問いただし、確認するしか方法がない。

「二人はほんとは付き合ってるんだろ?」と訊問するしかない。

もし俺の嫌な予想が事実だったとしたら、二人は絶対にその事実をひた隠しにするだろう。

そうなった時、場合によってはもっと大勢の人を巻き込んでの確認作業が必要になるかもしれない。

俺自身が彼女と付き合ってるわけでもないのに――彼女の顔すら見たこともないのにだ。

――どう考えても頭がおかしい異常な行動だ。

もし友人が全く関係のない部外者だったら――?

「おまえ、頭おかしいよ・・・」と距離を置かれるにちがいない。


だから、もしその選択をとる時はそうなる未来も覚悟しておかなければならないだろう。


自分の異常性で何もかもを失う未来を――

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