第13話 覚悟
その日はやけに寒く、吐く息は白い煙で、都内でも珍しい真冬日だった。
昨晩考え事をしていて寝坊しそうになったせいなのか、それともあまりに寒くて布団から出られなかったせいなのか、遅刻ギリギリの出社だった。
俺は、服の隙間から入り込む寒気に身を震わせながら自転車を漕いだ。
手袋を着け忘れた手は、じんじんと鋭い痛みに見舞われ、それでも遅刻しないようにと自転車のハンドルを強く握りペダルを回した。
これも俺のしがない日常だった。
なんにもない空虚なつまらない繰り返しだった。
でも、今はそんな毎日でも"彼女"という存在がいた。
彼女を知ってから殺風景な生活にひとつ花が咲いた気がした。
灰色な生活はたしかに色鮮やかになったのだ。
しかし今、その彼女が悩みとなり問題になっている。
今日も彼女との問題のせいで夜に眠れず寝不足だった。
俺は、「なにやってんだろな」と顔も見たこともないのに彼女に囚われ続けている自分をたしかに笑った。
自分でもその愚かさや異常さに気付いていた。
――だから、手放すのもいいのかなと思った。
ずっと気づかないようにしていた。
この恋は、はじまってすらいないんだって。
スタートラインにすら立てていないんだって。
それを自分で気づくのが怖かった。
だから、執着を捨てられなかった。
"いつか夢が叶う"という盲信に縋るしかなかった。
もう、十分、彼女からはいろんなものを貰えたのだから、俺は――
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