第3話 限界

しかし、これをずっとは続けていられないと俺は思っていた。

俺はそんなに収入を稼げてるわけでも、生活に余裕があるわけでもなかった。

もし彼女の全てを支えるつもりとなると、俺の生活が破綻するのは容易に予想できた。

だから、せめてもの一時的な支援をしようという心持ちでいた。

それに、俺はまだ彼女と直接会ったことすらなかったのだ。

顔も見たこともない相手に好きになったという理由だけで支援できるのは多くても5万円が限度だろうと考えていた。


おそらくそれ以上の金額になると戻れなくなる――


だから、彼女が生活に困っている原因を突き止め、根本から改善&援助してやらないといけないと思った。


俺はその後、彼女に生活保護を受けるのはどうかと提案した。

だって、父母もいない、認知症患者を世話しなくてはいけない――そんなの絶対に生活保護を受けられる。

俺は、生活保護のわずかな知識を頼りに彼女にそう説得を試みた。

しかし――


『生活保護は、もう役所に何度も行ってみたけどだめだった』


『親戚の人に援助できる人はいないよね? 親戚の人にも援助できますか? って内容の書類が送られるけど、それにバツしてもらった?』


『してもらった』

『多分、持ち家があるからだめなんだと思う』


『やっぱりそうか・・・。役所もほんと融通効かないよね。家あっても生活費が足りていない、家を売りに出す余裕も時間もない、人手が足りない、一軒家を売りに出しても引越先がない――そんなの普通に考えればわかることなのに・・・』


両親がいないから祖母の面倒も彼女一人で見なくてはいけない。

二人分の生活費を彼女だけで稼がなきゃいけない。

家を売りに出すのにも時間や手間や労力がかかる。

引っ越すにしても一軒家分の荷物が入り切る賃貸なんて家賃いくらになるのか?

引越代や引っ越しにかかる労力はどうするのか? 彼女一人が全部やるのか?

――どう考えても家を売って引っ越すことが現実的でないことなんて明白だ。


俺はそれからもいろんなことを考え、彼女に持ち家を賃貸に出すのはどうかと提案したりもした。

――が、どれも彼女の目に魅力的に映らなかったようで、結局現状維持するしかないという結論になった。


それから数日経った。

その日、彼女はとある用事で病院に行っていて、とても病んでいた。

どうして病院に行ったのかは結局彼女から聞かされていない。

ただ、『めっちゃ鬱だ』とだけ言っていた。

そして、『お金が要る』とだけ教えてくれた。


俺は、『心配だよ』と彼女から詳しく話を聞き出した。


彼女は、『身体売ろうかな』と言った。


俺は、彼女がこれまで以上に苛まれている事実を受け止め、彼女に次のように提案した。


『fantiaとかどう? 昔一緒にバンドやってて仲良かった女の子が、それで稼いでたよ』


俺が昔仲良くしていたその子は裏でヌードモデルをしていて、それをしながらfantiaでファンを増やしてその収入で生活をしていた。

その子もエセ宗教にハマっている親とは絶縁していて、なおかつ病弱なため普通の会社勤めができないでいた。

俺は、その子と彼女が境遇が似ていると思い、あまり話したくない事柄であったが、彼女にその子のことを話した。

身体を売るよりはマシだと思ったのだ。


『ふーん、そんなのもあるんだね』


『◯ちゃんなら可愛いからきっとすぐ稼げるよ』


俺は、その時彼女にその子と同じ道を勧めている自分に驚いた。

あれほど悲しかったのに。

事実を知って、あれほど憂鬱になったのに。

俺だけの力で支えることなんてできないから。

身体を売られるよりはマシだから――せめて俺が許せる行為で日銭を稼いで生活できるのならと、俺はそう提案した。


それからというものの、彼女からの返信に時間がかかることが多くなった。

平気で2~3日要するのが当たり前となった。

彼女は貧乏金無しで毎日が忙しいと以前よく愚痴をこぼしていた。

だから、彼女の負担になるべくならないようにしようと俺は配慮していた。

返信が来なくても不安にならないように自分を律し、過度に彼女に連絡をしないようにした。

そして、彼女に何かあった時いつでも頼られてもいいようにしていた。

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