【悲報】美少女にTS転生して愛され系ダンジョン探索配信者デビューしたつもりが、何故か危ないヤツ認定された件～可愛い顔して重量武器を振り回す女の子に『萌え』or『ドン引き』！？～

第54話 【剣翼】VS【剛腕】

「無理だけはしないようにって……言ったのに……」

「な……凪沙さん……？」

　ジャスカーの左腕がアダマンタイト製の武装義腕。

　その掌から放たれた圧縮魔力の砲弾。

　死を予感した矢先、一刀両断された砲弾。

　直後、姿を見せた凪沙。

　そんな立て続けな情報量の多さに呆然としてしまっていた瑠奈へ、凪沙は至って冷静に言う。

「けど、まぁ……間に合ってよかった。瑠奈ちゃんは下がってて。もし何かあったら……ウチが鈴音に怒られるから……」

　凪沙はそれだけ言うと、意識を前方に移す。

　その先にはもちろんジャスカー。

　いつの間にか大きく飛び下がって間合いを開けており、警戒の色を滲ませて大剣を構えている。

「はは、こりゃ参ったなぁ。まさかここで【剣翼】が来ちまうとは……」

「……久し振り、【剛腕】のジャスカー。いや……」

　スッ、と凪沙が目蓋を持ち上げ、光を映さぬ銀色の瞳で見据えて言った。

「元Sランク探索者……【剛腕】のジャスカー・ハーレンツ」

（元、Sランク探索者……！？）

　凪沙の口から告げられた衝撃の事実に、瑠奈は驚きを隠せない。

　Sランク探索者――ダンジョン・フロートに六人しかいない最強の探索者。

　確かに瑠奈自身もジャスカーの強さは身をもって知ったが、まさかSランク探索者という最強の一角だったとは。

　しかし、そんな瑠奈の驚愕も置き去りにして、凪沙は言葉を紡いでいく。

「貴方は、ギルドからEAD凍結指定を受けている。ここで捕縛して、ギルドに引き渡す。だから、一応勧告……武装解除して、大人しく捕まって」

　答えのわかりきった、形だけの勧告。

　それが可笑しかったのか、ジャスカーはニッと口許を歪ませて言った。

「わりぃが、聞けねぇな」

「……そう……なら……」

　凪沙が右腰に吊るされている鞘から、左手で二振り目の打刀を引き抜き、その黒曜の刀身を晒す。

「精々足掻くといい……」

「はっ……あの無口だったクソガキが、言うようになったじゃねぇか」

　ジャスカーが大剣を左腰に引き付けるようにして構えた。

　そして――――

「なら、行くぜ――《裂破怒涛》ッ！！」

　開戦の火蓋を切る一撃は、ジャスカーのスキル。

　左から右へ横薙ぎ一閃。

　一振りの余波だけで瑠奈を満身創痍に追い込んだその衝撃波が、辺りの地面を抉りながら凪沙に襲い掛かる。

　しかし、凪沙はそれに対して悠然と立ったまま、右手に持つ白刃の打刀を眼前に掲げた。

　澄んだその刀身はまるで鏡面のようで、片面には凪沙の銀色の瞳を。もう片面には迫る《裂破怒涛》の衝撃波を映す。

　凪沙が呟いた。

「ありのままを映す純影……《明鏡止水》……」

　白刃が淡く発光した、その刹那――――

　ダァアアアアアアアンッ！！！

　襲い掛かってくる衝撃波と似たものが――否、ジャスカーの《裂破怒涛》そのものが凪沙の白刃から放たれた。

　思わず目を見開くジャスカーと、少し離れたところで観戦する瑠奈の視線の先で、二つの【裂破怒涛】が真っ向から衝突する。

　威力も規模も完全に拮抗。

　ぶつかり合った衝撃波が地面にクレーターを作って対消滅した。

「こ、コピーしやがった……！？」

「……驚いてる場合？」

「……ッ！？」

　ジャスカーの《裂破怒涛》は固有スキル。

　瑠奈の《バーニング・オブ・リコリス》や《狂花爛漫》と同じく、その個人のみに発現するスキルだ。

　汎用スキルと呼ばれる一般的なスキルと違い、違う人も同じスキルを持っている……などということはまずない。

　それを、凪沙は完全に模倣して再現した。

　驚愕に値するに充分すぎる御業だ。

　しかし、凪沙自身はその程度のことは当然だとでも思っているのか、今自分がやってのけた絶技など気にも留めず、ジャスカーの方へ駆け出していた。

「《弧月――」

　輝く凪沙の諸手の打刀。

「――二閃》っ！」

　十字に刻むように払われた打刀の軌道から、二本の斬撃が飛ぶ。

「ちっ……！？」

　ジャスカーは咄嗟に左腕を身体の前に突き出した。

　すると、武装義腕の前に魔力で練り固められた円形の盾が出現し、凪沙の《弧月》を防ぎ切った。

　すぐに両手で大剣を握り直し、その太く長い刃に赤い光を灯す。

　グルリ、と回して逆手に持ち替えると、それを地面に突き立てた。

「《ボルケーノ・クラッシュ》ッ！」

　ジャスカーが叫ぶと同時、刀身を突き立てた地面を中心にして周囲に亀裂が迸った。

　地面が隆起し、ただならぬ熱気が地下からせり上がってくる。

　そして――――

　ドバァアアアアアンッ！！

　砕け飛び散る瓦礫。

　噴出する炎。

　そして、岩石もコンクリートも関係なくドロドロに溶けて真っ赤に染まった溶岩。

　直撃すれば即死は必至。

　そんな足元からの攻撃に、宙高く跳躍して躱した。

　眼下に広がる溶岩の明かりに照らされて、薄闇の中を羽ばたくようなその姿は、まさに剣の翼を持つ鳥――【剣翼】。

　凪沙は宙を舞った状態で右手の白刃を頭上に持ち上げる。

　瞬く間にそこへ冷気が収束していき――――

「凍てつけ――《霜薙》」

「なぁっ……！？」

　凪沙が白刃を一振りした直後、容易に氷点下を振り切る大寒波が押し寄せ、ジャスカーのスキルによって溶岩となっていた足元が瞬時に冷却され、冷え固まり、気付いたときには凍土となっていた。

　目を剥いたジャスカー。

　すぐさま凪沙から距離を取ろうとバックステップを試みるが、何故か足が地面から離れない。

　嫌な予感と共に視線を足元へ向ければ、自分の足が地面と氷漬けにされていたのだ。

「勘弁してくれ……！！」

　文句を口にしながらも必死に足を引き抜こうとするジャスカー。

　だが、静かに着地した凪沙に目をやれば、左手に持つ黒曜の打刀が恐ろし気にバチバチと電気を走らせていた。

「ウソだろおい……！」

「穿て……《鳴神》っ……！」

　鋭利に放たれる左突き。

　黒と紫のような色味の雷撃が、真っ直ぐジャスカーに富んでいく。

　大剣を身体の前に持ってきてその腹を盾にするジャスカーだったが、流石に凪沙のスキルの威力を殺し切れるはずもなく、情けなく大剣を撃ち上げられるようにして吹っ飛んだ。

　お陰で氷漬けにされていた足は解放されたが、宙で身体は仰け反り、大剣を振り戻す余裕もない。

　まさに隙だらけ。

　出来ることは、申し訳程度に武装義腕から魔力の盾を全力で形成することくらい。

　それを静かに見据えて腰を落とす凪沙。

　諸手の刃に輝きを灯し、グッと足で地面を踏み締め、ブワッと舞い上がる風で長髪をなびかせる。

「これで終わり――」

　霞消える凪沙の姿。

　今の瑠奈では到底視認することすら難しい超速。

　だが、ジャスカーには見えているのだろう。

　自分の敗北を告げる斬撃の軌道が。

「――《おしるこ》ッ！！」

「ったく……あいっかわらず、締まらねぇ名前だなぁおい……」

　いつの間にかジャスカーの背後に立ってた凪沙。

　半駿遅れて迸る、千の斬撃。

　ジャスカーの展開していた魔力の盾は紙同然に斬り裂かれ、当のジャスカーは致命傷を避けた切り傷を全身に刻まれて、地面に倒れたのだった――――