第49話 夜闇を斬り裂く大鎌
「はぁ……もう、どうでもいいや。取り敢えずここにいる全員大人しく投降して。嫌なら好きに抵抗してもらっても良いけど……身体の一部が千切れても文句言わないでね?」
瑠奈の勧告を受け、闇闘技場に集まっていた観客に動揺が走る。
Cランクモンスター四体を一蹴する様を受けて思わず後退りする者もいれば、ただ呆然と佇む者もいる。
だが、皆それぞれの人生が懸かっている。
こんなところで捕まってしまえば、今後ずっと犯罪者のレッテルを貼って生きていくことになる。
観客らの思いは一つだった。
「……は、ははっ……!」
「少しびっくりしたけど、相手は一人だ……!」
「それも女だしな……!?」
「へへっ、こんなところに一人で来るなんてな。どうなっても知らねぇぞ?」
相手は女子一人。
対してこちらは数十人。
観客らは数的有利から徐々に威勢を取り戻していった。
瑠奈はそんな様子を流し見て、肩を竦める。
そして、一度俯かせた顔には、ニヤリと持ち上がった口が。
ついに我慢できなくなったのか、両肩が小刻みに上下に震え、笑い声が漏れる。
「あははっ……これなら意外と闇闘技場も悪くないねぇ。アリーナの上にはワタシと皆……さて、どっちの勝利に賭けるのかなぁ~!?」
やはり観客のほとんどが探索者。
EADを起動してステータスで身体能力を爆増させると、各々武器を手にして瑠奈に襲い掛かっていった。
「投降するのはそっちだぜぇ!?」
「ぎゃははっ、縛り上げてたっぷりお仕置きしてやるよ!」
「かなりの上玉だしなぁ!」
「無駄になった金の分は楽しませてもらうからなぁ!」
瑠奈はそんな様子をどこか満足そうに見据え、口角を大きく吊り上げて大鎌を身体に引き付けるようにして構えた。
「あはっ! いいねいいねぇ、最高だねぇ!」
低重心からグッと地面を踏み込み、勢いよく飛び出す瑠奈。
金色の瞳には鋭利な眼光が浮かび上がり、視線は眼前に群がる探索者らを捉え――――
斬ッ!!!!
「ぐはぁ……!?」
「ぎゃぁあああッ!」
「ぐあぁ~!!」
刀身が半ばから折れた長剣が宙を舞う。
短剣は地面に転がり、槍はあらぬ方向に飛んでいく。
そして、それらを手にしていた探索者達は絶叫と共にぶっ飛んだ。
ただ、流石に相手は人間。
モンスターであればお構いなしに身体を切断する瑠奈であるが、今回ばかりはそうもいかない。
まして、殺してしまっては真っ当な手段で罪を償わせることが出来ない。
そこで、瑠奈は大鎌をひっくり返し、刃ではなくその峰を使うことにした。
これなら躊躇なく振るえるし、力を加減せずに探索者の身体を叩ける。思う存分戦えるというものだ。
「あっはははははっ!!」
「クソッ!」
「何なんだアイツ!?」
「バケモンがぁ!」
「「「ぐあぁあああああああッ!!」」」
瑠奈は右側から剣を振り下ろしてくる探索者の斬撃を身体捌きで躱すと、サイドキックを脇腹に刺し込む。
続けて正面の探索者二人をまとめて大鎌の峰で叩き伏せる。
すぐに背面から新手が襲い掛かってくるが、振り払った大鎌を再び構えていては間に合わないので割り切って手放し、フリーになった両手で拳を作ってワン・ツーで撃沈させる。
ようやく格の違いに気が付いた有象無象だが、時すでに遅し。
冷汗を浮かべて表情を険しくする探索者らの視線の先で、地面に落とした大鎌を拾い上げた瑠奈が狂気に満ちた笑みを向けた。
「あと何人残ってるのかなぁ~? って、あれ? 早く掛かって来なよぉ。まだまだ楽しい夜は終わらないからさ」
「お、おい……」
「あぁ……」
「あの女……恰好が違って気付かんかったけど……」
ゴクリ。
静まり返る闇闘技場に、唾を飲み込む音が鳴った。
「
カツッ、カツッ、カツッ……と、悪魔の足音が終焉のタイムリミットを刻む。
「来ないなら……ワタシから行くよっ! あっははっ!!」
ダンジョン・フロート西部第六地区、闇闘技場。
瑠奈一人により、制圧完了。
このあと、ギルドから犯罪者捕縛のために数名の探索者が派遣され、一件落着となった――――
◇◆◇
瑠奈が闇闘技場犯罪者捕縛の任務に就いてから、数日が経過した。
急成長が止まらないダンジョン探索配信者のルーナ……いや、【
しかし、ここ数日でその名はさらに深く、アンダーグラウンドにまで響いていた。
「どうだぁ、今日の稼ぎは。客入ってるか?」
「えぇ、まぁそこそこ。ですが……」
ダンジョン・フロート某所。
とある闇闘技場の片隅での会話。
「どうした?」
「いや、入ってるには入ってるんですけど、今までに比べると……」
「……やっぱりか……」
「聞きました!? 昨日、東部第五地区の闇闘技場も壊滅させられたらしいですよ! 他にも次々潰されて……これじゃ商売上がったりですよ!」
闇闘技場運営側と思しき男二人が、残念そうに、不満気に語る。
すると、そんなところへ新たな男がやって来た。
歳は四十代前半。
煙草を咥え、一筋の煙を上げている。
それを指に挟むようにして一旦取ると、しゃがれ声を響かせた。
「んなぁ……その話、詳しく聞かせてくんねぇか?」
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