第38話 モデルデビュー!?

 Cランクダンジョン内にイレギュラーで出現したBランクモンスターを討伐したあと、瑠奈は一度報告のためギルド本部に戻ってから、今こうして救出した金髪の少女とその付き添いである女性と共に高級レストランへやって来ていた。


「コホン、先程は突然失礼いたしましたわ。わたくし一色いっしきアリサ。こちらは――」

「――佐藤さとう花枝はなえよ。初めましてルーナさん。お噂はかねがねから耳にしているわ」


 テーブルを挟んで対面に座る二人がそう自己紹介したので、瑠奈もそれに応える。


「初めまして~。早乙女瑠奈です……って、あれ? アリサ……一色アリサ……?」


 ダンジョンで顔を見たときから妙に既視感を覚えていた。

 今こうして名前を聞いて、その答えが頭の中に浮かび上がる。


「あっ、モデルの一色アリサちゃんっ!?」

「ふふっ、バレてしまいましたか。えぇ、このダンジョン・フロートでモデル活動をしておりますわ。佐藤は私のプロデューサーですの」


 一色アリサ。

 日本とイギリスのハーフということもあり、浮世離れした美貌と抜群のプロポーションを持つ少女。

 一般的なファッション雑誌はもちろん、探索者のオシャレ装備雑誌などでもその姿を見ることが出来る。


「先程は助けていただいて本当にありがとうございますわ。さ、これはほんのお礼ですの。遠慮せず召し上がってくださいな」


 これがコースメニューというやつなのか、瑠奈の前に一品一品見栄えも味も最高の料理が運ばれてくる。


 こんな場所へ気軽に連れてくるなど、アリサは一体どれだけの金持ちなんだと恐縮していた瑠奈だったが、一度目の前の料理を口へ運ぶと――――


「ん~、美味しぃ……!!」

「ふふっ、喜んでいただけて何よりですわ」


 前菜でこのクオリティ。

 果たしてメインディッシュが来たら自分の頬は無事でいられるのだろうかと、瑠奈は幸せな不安を感じていた。


「えぇっと、瑠奈ちゃんと呼んでも良いかしら? 歳も同じくらいよね?」

「あ、はい。十六歳で高校一年です!」

「じゃあ本当に同い年ね。私のこともアリサで構わないわ。敬語も必要ない」

「そ、そう? じゃあ、アリサちゃんで」


 アリサは満足そうに頷いてから、しばらく三人で食事を楽しんだ。


 そして――――


「ところで瑠奈ちゃん。例の件、お返事はどうなのかしら?」

「え? 例の件って……」

「言ったでしょう? モデルにならないかと」

「えぇっ!? あれ、本気だったの……!?」


 もちろんよ! とアリサはやや興奮気味に前のめりになって瑠奈をジッと見詰める。


「ふわふわの薄桃色の髪の毛に、童顔で愛らしい顔。つぶらな金色の瞳……間違いなく逸材! 確実に売れますわ! プロデューサーもそう思いますわよね!?」

「ええ、もちろん! 瑠奈ちゃんの戦う姿を間近で見て私も確信した。この子は売れるってね!」

「そ、そうですねぇ……」


 瑠奈は少し考えた。


 確かにモデルとして活動してみるのも面白いかもしれないとは思う。

 だが、今はダンジョン探索配信者としての活動もあるし、一探索者としてもっと強くなりたいとも思っている。


 一日でも一時間でも一秒でも多くダンジョンに籠りたい……というのが瑠奈の本音だ。


(まぁ、魅力的な話だけど断ろ――)


 と、瑠奈が首を振ろうとしたところに――――


「もっと瑠奈ちゃんの魅力を広めたいとは思わないんですの!?」

「……っ!?」


 アリサの一言に、瑠奈の瞳が大きく見開かれる。


「瑠奈ちゃんならただのモデルじゃない……可愛くて強いエレガンスなモデルになれますわっ! 色んな可愛い衣装を着て美少女がダンジョンを探索する様子を写真に収める……素晴らしいとは思いません?」


 ドッ、と瑠奈の胸の奥で心臓が高鳴った。


(そうだ……ワタシが配信者になったのは――)


 自分の可愛さをこのダンジョン・フロートに広めるため。

 一見か弱い美少女が、重量武器を振り回すそのギャップ萌えを広めるため。


 今までそれを動画配信というコンテンツのみで行っていたのを、モデルとして雑誌などに掲載されれば更に自分の可愛さを広めることが出来る。


(ふふっ、そうだよワタシ。最近ちょっと有名になってきたからなんだ……ワタシの可愛さはこの程度で満足して良いものじゃない!)


 可愛いは正義。

 可愛いは最優先事項。


 その可愛いをより広く知らしめるためなら――――


「……わかったよ、アリサちゃん。ワタシ、モデルやってみたい!」

「ふふっ、流石瑠奈ちゃんね! そう来なくっちゃ!」


 器用にウィンクして見せたアリサが、早速花枝に言う。


「プロデューサー! 話は聞きましたわね!?」

「ええ、任せて頂戴! 私が完璧にプロデュースして見せるわ!」


 そう答えるや否や、花枝は早速スマホを取り出して何かのコンタクトを取り始める。


 その横で、アリサが瑠奈にスッと手を差し出してきた。


「ようこそ瑠奈ちゃん。貴女なら、間違いなく私と並ぶ……いいえ、それ以上のモデルにだってなれますわっ!」

「あっはは。頑張ってみるよ~」


 瑠奈はアリサの手を取り、期待に応えることを胸に誓った――――

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