第37話 まさかのスカウト!?
「あはっ、やっと見付けたよ~」
もうなすすべはないと身を縮めてうずくまっていた金髪の少女の前に、瑠奈が降り立った。
周囲の撮影機器やそれを取り扱う人達。
金髪の少女を庇うように傍に立つ女性。
(何かの撮影だったのかな? それにこの女の子なんか見覚えが……?)
瑠奈は「うぅん……」と唸りながらそんなことを考えていたが、護衛と思しき三人の探索者の一人が慌てたように言ってきた。
「お、おい! ギルドからの救援ってアンタか!?」
「あぁ、はい。そうですよ?」
「そ、そうか。良かったこれで助かる――って、いや待て。ほ、他には? 他のパーティーメンバーは……?」
この人は何を言ってるんだ、と瑠奈は思いながら不思議そうに答えた。
「他も何も、救援はワタシ一人ですよ?」
「……は?」
「え?」
しばらく互いに見詰め合う瑠奈とその探索者。
何とも言えない沈黙が通り過ぎ――――
「くそぉおおお! ギルドは人手不足かっ!?」
「救援に探索者一人だと!? ふざけんな!」
「これって、俺達はもう見捨てられてて……単に遺品を拾いに来ただけだよな……」
三人の探索者がそれぞれに期待を裏切られたと言わんばかりに嘆き叫ぶ。
金髪の少女らも、もう助かるのを諦めたかのように表情を暗くした。
しかし、瑠奈はそんな彼ら彼女らに構わず言う。
「さっきから何を言ってるのかよくわかりませんが……とにかく皆さん下がってください? アイツを倒せませんから」
瑠奈が悠然とした足取りで前に進み、Cランクダンジョン内でイレギュラーに出現したBランクモンスターの眼前に立つ。
瑠奈が今まで対峙してきたBランクモンスターと違い、全長は二メートル前後とやや小柄。しかし、その全身から放たれる気迫や殺意の強度は確かにBランクモンスターだ。
人、狼、牛など様々な動物もしくはモンスターの骨を組み合わせて生まれたかのような、二足歩行のバケモノ。
顔面を作っている骸骨は恐らく何かの獣のモノで、空洞が開いている目の部分には怪しげな赤紫色の灯が宿っている。
(コレがBランクモンスター【スケルトン・ゴーレム】かぁ……個体によって色んな形があるって聞いたことあるけど、ちょっとカッコいいかも)
前世に捨ててきた若干の中二心が擽られて、瑠奈はフッと口許を緩めながら大鎌を低く構える。
背中越しに「止めとけ死ぬぞ!」「正気かアンタ!?」などと声が掛かるが、もう瑠奈の意識は目の前の【スケルトン・ゴーレム】に集中している。
…………。
……。
…。
「あはっ――!!」
間合いを探り合うかのような静寂を斬り裂いて、先に飛び出したのは瑠奈だ。
地面すれすれ。
超低姿勢で疾走し、瞬く間に【スケルトン・ゴーレム】との距離を縮める。
そこに【スケルトン・ゴーレム】もタイミングを合わせて、鋭利な爪が付いている右腕を振り下ろし、瑠奈を引き裂こうとするが――――
「遅い遅いっ!!」
全速疾走からの急停止。
爪が振り下ろされた位置の寸前で靴底を地面に抉らせながら止まった瑠奈が、慣性のままに前に進もうとする大鎌の勢いを存分に利用して薙ぎ払う。
バキィッ!
バラバラバラァ……!!
瑠奈を捉えるはずだった【スケルトン・ゴーレム】の右腕が、逆に瑠奈の大鎌によって粉砕される。
そのまま瑠奈は返す刃でもう一撃。
と、思ったが――――
「フォォオオオオオンッ!!」
「――っと!?」
気流で大きな笛を鳴らしたような叫び声を上げる【スケルトン・ゴーレム】に、瑠奈は反射的にバックステップ。
半瞬後にダンッ! と【スケルトン・ゴーレム】が足を強く地面に叩き付けると、槍のように尖った骨が針山の如く地面から飛び出てきた。
当たれば間違いなく身体を貫かれる威力。
それがズザザザザザッ! とバックステップを繰り返して後退する瑠奈を追い掛けるように、地面から骨が突き出てくる。
しかし、流石に射程の限界があるようで十メートル程離れた辺りで攻撃が止んだ。
瑠奈は最後に大きく後方宙返りから着地して、大鎌を構え直した。
「なるほど……ゴリゴリ近距離戦みたいな見た目して、こういう技もあるんだねぇ……」
ニヤリ、と瑠奈の口角が持ち上がる。
そんな瑠奈の後ろで三人の探索者が驚愕に目を見開いていた。
「な、なぁ。あの女子さ……」
「だよな。多分、俺も同じこと思ってる……」
「少し小柄で薄桃色の髪、ゴシックドレス風の装備……そして決め手にあの大鎌……」
そこまで聞いて、今まで恐怖で縮こまっていた金髪の少女もゆっくりとその瞳を開いていった。
大鎌を構える瑠奈の背中に、小さく呟く。
「
探索者稼業をメインにしていないため、直接動画などを見たことはないが、流石にその噂は耳に届いていた。
探索者登録からおよそ三ヶ月で最速のBランク探索者になった少女。
ダンジョン探索配信をしており、可愛い見た目とは裏腹に大鎌という物騒な武器を振り回すその姿と、戦闘を心から楽しむその性格からついた二つ名は【
「彼女が……」
金髪の少女の視線の先で、ボゥ! と瑠奈の身体から赤色のオーラが吹き出た。
「【狂花爛漫】……ホントはもうちょっと楽しんでたいんだけど、さっさと終わらせて皆を救助しなくちゃだからねぇ~」
瑠奈の金色に瞳に鋭利な眼光が宿った。
「狂い咲くよ――ッ!!」
大幅に昇華された身体能力。
瑠奈がダッ! と地面を蹴り出した瞬間、その輪郭が霞んで消える。
その超速をおぼろげに捉える【スケルトン・ゴーレム】は、再び地面から鋭利な骨を突き出すが、一向に掴まえられない。
「終わりだよ――」
いつの間にか【スケルトン・ゴーレム】の頭上高く飛んでいた瑠奈が、大鎌に深紅の焔を灯す。
「フォォオオオオオンッ!!」
それを迎撃しようと【スケルトン・ゴーレム】が左腕を伸ばし、そこから今度は尖った骨を矢のように連続で射出する。
瑠奈は落下してきながら、身体の前で回転させた大鎌で骨の矢を弾き――――
「はぁッ!!」
頭上から大鎌一閃。
燃える大鎌が深紅の軌跡を描いて【スケルトン・ゴーレム】を縦に斬り裂き、跡形も残さず灰燼に帰した。
唯一あとに残ることを許された魔石をひょいっと拾い上げた瑠奈が、にこやかに振り返って言う。
「さっ。脅威は片付いたことですし、皆さん一緒に帰りましょう!」
「……良い。凄く良い……」
「えっ?」
先程までの恐怖はどこへやら。
金髪の少女がそのルビーのような瞳を燦爛と輝かせて立ち上がり、瑠奈のもとに駆け付けた。
「貴女っ、素晴らしいですわっ!!」
「なっ、なになにっ!?」
突然のことに戸惑う瑠奈。
しかし、少女は構わず、瑠奈が大鎌を肩に担いでいる方とは反対に、拾った魔石を持っている左手を両手で包むようにして掴んだ。
「可愛くて強くて――実にエレガンスッ!!」
興奮した様子でグイッと顔を近付ける少女と、それに合わせてスッと顔を引っ込める瑠奈。
「貴女っ、モデルになりなさいっ!?」
「……へ? えぇぇえええええっ!?」
珍しく、瑠奈が他人の勢いに押されている光景だった――――
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