第11話 折檻
「って、どういうこと!?」
という私の声が、ギルドホール内に響き渡り……はしない。酒場も兼ねたこのホールに満ちる喧騒のなかでは、そこまで悪目立ちするほどでもない。
それでも、聞こえてはいたようで、受付のカウンターからカイが囲まれているのを眺めていた職員がでてきた。
「ガリー、無事だったのネ」
「テルリンさん……その、」
彼女はテルリンさん。身長は私より小さく、カウンターにいる時も常に踏み台を必要とするこの組合の名物職員のひとりだ。
ただ、人間種ではないらしく、小さいながらになかなか長命でこの組合ではかなりの古参らしい。
「ムズかしい話ハ、後でしっかり聞ク。今はアッチじゃナイ?」
指さされた方向を向くと、鬼の形相の職員たちに囲まれたカイがなにやら必死に弁明を立てていた。
なにやら困っていろいろ話しているカイだけど、まぁ彼なら大丈夫だろう。
なにせ強さでいえば『剣神』とまでいわれているわけだし。べつに悪いこともしてないだろうし。
「彼なら大丈夫だと思います」
「どうしテ?」
「わるい人じゃないので」
「そウ」
テルリンさんに断って、とりあえず裏の水場まで装備を持っていく(ギルドの裏口にある装備置き場は混雑することがあるため、正規の職員の許可が必要なのだ)。
「洗うのは……あとでいっか」
ぐるりとギルドホールの外側を回って、正面扉に戻る。
「あれ、テルリンさん。まだいたんですか?」
「そろそロ、助けてやっタらどうダ?」
テルリンさんの若干辟易した視線の先には、胸倉をつかまれてブラリと空中に浮いている灰髪の少年の姿があった。
「カイッ!?」
「やぁ、ガリー。早速だけど、たすけ…て……」
その細腕でカイをぶら下げているのは、すごい形相の事務職長。
「てめぇ、ウチのガリーちゃんのこと、手ぇ出したんじゃねぇだろうな……答えろゴラァ!!」
「レコン職長、もう答えられそうにないです!」
首だけ掴まれて宙吊りになっているカイの顔は、なんだか真っ白になりつつある。
「お、ガリーか!無事だったか。おねぇさん心配したんだぞ~」
「そんなことより、カイの顔がすごいことなってます!」
「あーこいつ?朝っぱらからガリーの家から出てくるの見つけてなぁ、侵入者ってんで取り調べしてんのさ」
ブンブンと、カイを片腕で振り回す職長。ギルドに集まるゴロツキ集団あいてに渡り合ってきた実力は伊達ではないのかもしれない。
どうしようかと思っていたら、職長の横にいたシシナ医療班長が助け船を出してくれた。
「レコン。そのぐらいにしないとガリーちゃんに嫌われちゃうよ。それに、なにもしてないされてないって、二人して言ってるわけだし。もういいんじゃない?」
「お?そうか。そうなのか、ガリー?こんないい顔した男連れ込んでなんにもなかったって?」
「なっ!?なっにもないですよ!」
シシナ班長のおかげでなんとかなるとおもったら、思わぬ流れ弾が飛んできた。しかし、出会って二日目の男とどうなるわけもないだろう。
まぁ、そのカイについては、顔も、性格も悪くないんだけど……
「顔真っ赤になっちゃってまぁ。けど、そういうことなら、何もしてないのか」
何を納得されたのかは引っかかるけど、取りあえずカイは解放された。とはいえ、わりと遠慮なくブンブン振り回されてたから、まだ目が回ってるみたいだ。
シシナ班長がさりげなく混乱解除の術式をかけてくれている。
「って、そういえば職長と班長の二人して、こんなとこに集まってていいんですか、職務中ですよね?」
「なにいってんだ、いまは緊急事態だろ?上級の戦闘職含めて十二人の採取班が、森に現れた魔物の影響で退却。ガリー含め冒険者三人が帰らず。森の中の魔獣の音は今日は確認できちゃいないが、まだ近辺にいる可能性が高い」
「そうそう。レコンもかなり心配しててさぁ。昨日の夜中にガリーちゃんが帰って来た時も、緊急事態で本人もボロボロなのに、眼を真っ赤に腫らしたまま迎えに行こうとしてねぇ」
そういわれてみると、職長も班長もどことなく疲れた表情をしている。おそらく昨日、緊急退却したであろう採取班の人たちから情報を受け取って以降、休みなく働いているのだろう。
あの#嵌合獣__キマイラ__#の大きさだと、森から逃げ出す獣や、嵌合獣の呪いを吸った魔獣たちによる二次災害がどれだけ出てもおかしくない。
主要な街道も森のすぐわきにある(私たちが昨日帰ってくる時に通った道だ)ため、その閉鎖とかも考えると二人ともかなり大変な一晩だったことも想像に難くない。
「ワタシも、がんばたヨ!」
テルリンさんが小さな背丈ながら、大きく胸を張っている。かわいい。
確かにテルリンさんは、受付嬢としては断トツで長い経験もあり、たぶん冒険者の手配とかでずいぶん働いていらっしゃったと思うんだど、その純白でつややかな髪ひとつ、いつもどおりのメチャカワ顔面ひとつ、全く疲れてないというか、まったく変わらなさすぎませんか?
他種族なんだということは承知の上でも、何か生き物としてのレベルが違う気がしなくもない。
「とりあえず、ガリーが無事である以上、次は情報が第一優先だね。二人とも二階の応接間でけっこう聞き出すから覚悟してね。そこの灰髪の少年?目まわしてやられた感だしてたけどもう大丈夫でしょ。さっさと行くわよ」
「……わかった」
目をまわしていたカイも、気を取り戻したようで、がらりと変わった雰囲気をさっしたようだ。
仕事の顔になったレコン職長は踵をかえして、二階の応接間に向かう。
しかし、階段を上がるその途中、何かを思い出したように急に立ち止まった。
「あ、そうだガリー。あなたならことの重大さが分かると思うから正直に答えてほしいのだけど」
「はい、……なんかありました?」
「
「はい」
「……そこの灰髪の少年が、それを倒したっていうのは本当かしら?」
「本当です」
MEMO
カイ
レコン率いる女性職員に囲まれ、ガリーとの関係とかいろいろ探られていた。
昔から勝ち気な女性には勝てない性分。
ガリー
きれい好きで、診療所もピカピカ。
職員に囲まれていたカイのもとへ向かわず、汚れた装備を裏に置きにいったのもそのため。
職長クラス
組合の各職の最高責任者。
経験、技能が秀でてるものが務める場合が多い。
レコン事務職長
冒険者としての経験を持つ。
班長クラス
常設班と仮設班の班長では、扱いが大きく異なる。
医療班などの常設班の班長であれば、その分野のスペシャリストといっても過言ではない。
シシナ医療班長
軍でも通用するほどの治療班を率いる。
組合でのガリーの上司ともいえる。
テルリン事務職員
組合の名物職員の一人。
彼女がいつから働いているのかは組合の誰も知らない。
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