第10話 翌日

 幾千もの返り血で染めたような赤い衣に、美しく流れる灰色の髪。

 あの時、死を覚悟した私の前に現れた背中。あの頼もしかった背中……カイは今、こう…丸くなって、ちいさくなって……組合ギルドのみんなに尋問されていた。




 朝の小鳥のさえずりで目を覚ました。

 ギルドの環境調査中に嵌合獣キマイラに遭遇して、カイに助けられたのが昨日。身体も魔力もコンディションは最悪ってところだけど、規則正しい生活習慣が寝ぼけた体を目覚めさせる。

 裏口から外に出て、井戸ばたで顔を洗う。そのあとカイに貸した部屋に行ってみたけど


「……いないわね」


 今日は朝いちで、一緒にギルドに行くって話をしたのにその姿がない。

 しょうがないから、とりあえずギルドに行くための服装に着替える。ふと、鏡を見るとそこには、下着姿にパジャマの上だけ羽織っている私。

 ここ数年で急成長した胸を持ち上げる。……少し重くなったような気がする。また下着を買いなおさなくちゃいけないかもしれない。

 いやいやいや。まだいけるでしょう。『ブラ』に胸を詰め込む。


(伝説じゃ、『ブラ』も150年だか前に、別世界からの転移者から伝来したものの一つっていうけど、150年たってもブラが高いって、どうにかならなかったのかな……)


 そんなくだらないことを考えていたら、ふと、胸当てが外れてカイかれに見られたのを思い出した。あの時はあせってしまったけど、よく考えれば彼は悪くない。あれは事故、そう事故だったのだ。

 

「そういえば、バンド切れちゃったのよね。あの胸当て」


 どういうわけだかカイは現れないけど、先に組合にいってしまおう。バンドを買いたいし、道具もいろいろ足りてない。清潔化の魔法だけじゃ落とせない汚れのついた装備も洗ってしまいたい。



 装備とかのはいった包みを、銀槌の先にひっかけてかつぐ。そして歩くこと数秒、お隣さんなギルドの門を開いた。


 軽やかな鈴の音が響いて……そこには冒頭の通り、正座(王国出身者がやる地べたに座るやり方)で、組合職員に囲まれているカイの姿があった。


「って、どういうこと!?」





MEMO

カイ

 正座は、150年前の『王国』に現れた転生者発祥の文化の一つ。

 15年前の『王国』では反省の姿勢や、魔力の練度を高める修行の基本姿勢として受け入れられていた。


ガリー

 胸は大きいほうだと思っていたガリーだが、組合の治癒職長の胸部をみて、上にははるか上がいるんだってことを学んだ。

 治癒職長のは……おっきかった。


ブラ

 150年前に英雄たちからもたらされた叡智の一つ。

 あのわずかな面積の布地には立体縫製の技術がつめこまれていて、当時のその業界に大きな技術的革新を起こした。


組合職員

 定給制で収入がよい。組合の運営は政治から独立しているが、ほぼ公務員。

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