第6話 帰路

「ちょっと失礼するよ」

「え?」


 肩で支えていたガリーの身体を、背負いなおす。ずいぶん縮んでしまった俺の身体だが、少女一人背負う分には問題なさそうだ。


「そんな……悪いわよ。少し休めば、たぶん大丈夫だから……」

「そんな程度の疲労じゃないだろう?」


 木々の間を潜り抜けてできた無数の傷も、限界以上に魔力を絞り出したための生命力の消耗も、この『禽眼』は正確に認識させてくる。


「それに、流石に夜まで森の中にいるのは避けたいからね」

「……それもそうね」

「すこし寝ているといい。どこか近くの街に向かっておけばいいんだろう?」

「うん。じゃぁ……わたしは……すこし、休むわね……」


 コテン。とガリーの頭が肩に落ちる。

 そのまま、しばらく嵌合獣キマイラの残した跡にそって森を進む。


 しばらく歩いた後、背負われているガリーが口を開いた。


「ねぇ、ちょっと……いいかしら」

「どうした?」

「……ねぇ、カイ?その、わたしってそんな細い子ってわけじゃないし、その、あの、なんていうか……」

「なんていうか?」

「……重かったりしないかしら、わたし」


 とても、とても真剣な口調でガリーはそう訊いた。

 おもわず、ちいさく噴き出してしまった。なるほど確かにうら若き少女にとっては重大な問題なのだろう。


「そんなにわらう!?……乙女にとっては大事なことなのよ!」

「わるかった……わるかったって」


 ギリギリと首と腰のあたりを絞められた。

 しかし、笑みがこぼれてしまうというものだ。こんなに平和な「大事な悩み」というものはとても久々に聴いたものだったから。


「大丈夫、大丈夫だよ。全然重くないし、そもそもそんなにヤワな鍛え方してないからね」

「ふぅん、そう。……ま、そうそういうことなら、安心……できる、わね……」


 しっかりと首に腕を巻き付けたガリーは、一度ギュっと強く抱き着くと、今度はそのまま眠りについた。



 規則正しい寝息を立てる少女ガリーを背負いながら、荒れ果てた森を行く。

 落ち葉の層が抉られてできた土の層には、もうすでに獣の足跡がある。なるほど、ガリーのいう、この辺りは危険度が高いというのも頷ける。

 足跡の中には、なかなかの大きさのものもあるし、なにより危険な獣の匂いがあたりから漂ってくる。このレベルだと、空間に漂ってる魔力を蓄積したことで変質してしまった、いわゆる魔獣の類にまでなってるはずだ。


 あくまで肌感覚だが、このレベルの獣なら一匹で農村なら滅びてもおかしくない。問題なのは、この肌感覚が外れたことがないから俺は生き残ってきたということだ。


 まだ時間はあるが、夜になって気が立ってる状態の魔獣には会いたくない。


「少し急ぐか」





MEMO


カイ

 ハイイロの中では最年少組であった。


ガリー・オ二ソグラン

 ドリンク類に限って一際特別な信用を得ているのは、彼女が実際に壺ごとのテイスティングを行っているため。ついた異名は『医神の与えた銀の舌』

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