危機一髪
星見守灯也
危機一髪
高校入試である。そして俺は受験生である。
しょっぱなの国語で俺は緊張していた。ページをめくる手が震える。
まずは漢字問題。早めに片付けたいところだ。
「キキイッパツ」
キキ……機器、嬉々、記紀、違う。
鬼気せまる、奇奇怪怪、そうじゃない。
ダメだ。知ってるのに、何度も書いたのに思い出せない。
鉛筆の音が響く。自分の手が止まっているのに時間だけが数分も経ったように感じる。
キキ……危険がすぐそこまで迫っていること。
うん。危だな。
危気……違う。利き酒……でもなくて。なんで余計なことばかり出てくるんだよ。
危、危、危……。危ないこと……そうだ機会の機だ。
あとは簡単、「イッパツは一発ではない」って先生が言ってた。
だから……だから。……なんだっけ。
一発じゃないってのはわかってる。大砲じゃないんだから。
じゃあハツはなんだ?
一発芸……一発ギャグ……一発屋。これは一発だ。一発逆転、これも違う。
イッパツ、イッパツ……。ハツって読む漢字。
一初、違う。ハツって心臓だっけ。終わったら焼肉食べたいなあ。
そうじゃない、現実逃避してるな、俺。
意味はめちゃくちゃ危機が迫ってること。どのくらい?
坊主頭の先生が「わたしは助かりませんねえ」って笑って……。
髪!
危機一髪!
俺は、はやる心を抑えて一画ずつ書いていく。機は点がある。髪は長い三本の友。
まわりの鉛筆の音は、いつのまにか聞こえなくなっていた。
さっさと次の問題に移ればよかったのにと今さら思って呆れた。
よし。まだ大丈夫だ。落ち着け。
頭がすうっとクリアになっていく。手の震えもない。時計なんて気にならない。
まさに危機一髪だった俺は、全力を尽くすだけだった。
危機一髪 星見守灯也 @hoshimi_motoya
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