第14話 歓迎会
学園での本格的な生活が始まってから五日間が経過し、気が付けば週末になっていた。この時期、中学生のころは何をしていたのか記憶にない。ただ一つ分かっていることがあるとすれば、
「これから新入生歓迎会を始めるぞー!」
「おー!」「おーですわ!」「……おー」
こんな騒がしいイベントには巻き込まれていなかったはずである。どうしてこうなったかというと、事の発端は八重先生の一言であった。
「二人とも、新入生歓迎会とかないのか?」
「ありますが、新入生のイベントには出るつもりはありません。面倒くさいので」
「わたくしもですわ。人が大勢いるイベントには出たくないですの。それに、夜月様へ勝負を挑むために対人パワーをすべて消費してしまいましたわ」
「となると、部活にも入っていないし入学したてのイベントは何もないじゃないか。それでいいのか?」
「別に興味はありませんから大丈夫です。私は現状に満足してますので、自分から動く必要性がありませんし」
「同感ですわね」
「そうは言ってもなんか悲しいぞ。せっかくこの学園に入ったんだ。入学祝いくらいあってもいいだろう」
「それじゃあ、八重先生がやってあげればいいんじゃないですか? 八重先生が二人を祝ってあげる新入生歓迎会を開けばいい」
「なるほど、それは名案だな! 二人とも、今週末は空いているか? そのときに歓迎会をやろうじゃないか!」
「私は別に構いませんよ。このメンバーなら変に気を遣うこともないので、むしろ楽しみなくらいです」
「ぜひとも、お願いしたいですわ」
「よし、決まりだな。今からみんなで詳細を決めていくか。なんか、週末が楽しみになってきたぞ」
「良かったですね三人とも。それじゃあ俺は先に帰りますね。お疲れさまでした」
俺はそう言って踵を返す。今週末は見たいテレビがたくさんあるんだよな。春アニメの一話もたまっているし、ゆっくりと消化させてもらおう。
「何言ってるんだ八雲。お前も来るんだぞ。お前が発案者じゃないか?」
「はい? どうして俺が? 俺は発案者ですが、新入生じゃないですよ。俺は今週末はやりたいことがあるんで、失礼します」
「そうか……私たちと遊ぶよりも他に優先したいことがあるんだな。分かった、また来週な」
肩を落としてしょぼんとしてしまう八重先生。可哀そうではあるが、流石にこの中に俺が混ざるのは違う気がする。女性三人に男一人は逆に迷惑だろうしな。先週の観光地巡りで俺のことも気に入ってくださったのは嬉しいが、女性だけで遊びたいこともあるだろう。
「「ギロリ」」
俺の背中に二つの鋭い視線が突き刺さる。いや、俺に来いってか?
二人がそれでいいなら別に行ってもいい。しかし、行きたくない理由がもう一つある。それは確実に俺が割を食うということ。この三人はそれぞれの個性が魅力的ではあるが、暴走すると手が付けられない。
しかも、絶対にツッコミキャラではないのだ。小波にはツッコミの素質を感じるが、この三人が揃うとボケ側に染まってしまう可能性がある。果たして俺だけで御しきれるかどうか。天然ボケ側の荒武を呼んでも何の解決にもならないしな。
「「チラッ、チラッ」」
さっきから擬音を声に出すんじゃねぇよ。俺だってこのまま帰るのは不義理だって分かってんよ。どうする、どうする八雲隼人!?
「で、俺がここに来たってわけ」
「何独り言を言ってるんですか先輩」
「あー、なんにもない。気にしないでくれ」
二人の圧力と悲しそうな八重先生を見て帰ることはできず、俺の方からやっぱり行かせてくださいとお願いする形になった。本当はもう一つやるべきことがあるんだが、そっちはなんとかなるか。
「それにしても一軒家だけあって広いな。いつも小波が掃除しているのか?」
「いえ、近くのマンションにメイドも住んでおりまして、学園に行っている間に掃除をしてもらっていますわ。防音設備も十分ですので、思う存分騒いでもらって結構ですのよ」
「流石小波家というか、紬のご両親だな」
今日の会場は小波の家になっている。最初は八重先生のマンションの部屋だったが、こっちの方が騒げるからこちらでどうぞと小波が誘ってきたのだ。そこから話はあれよあれよと進んでいき、週末の土曜日に四人だけの歓迎会を開くこととなった。
「よし、歓迎会も始まったし、早速飲むとするぞ!」
「八重先生、ペースだけは間違えないで下さいよ。前回は酷かったんだからな」
「流石に生徒の家でそんな醜態をさらさない。私はできる女だからな!」
「なんかやばそうな気配を感じるので、早めにゲームでもしませんか?」
「そうですわね。八重様がエスカレートする前に四人で遊びましょうかしら」
そうして俺たちは初めにNGワードゲームをすることになった。これは、自分が見えないように単語が書かれた紙を自分の頭にのせて、その単語を言わないようにするゲームである。自分は他の人の言ってはいけない単語が見えているので、それを言わせるように頑張るというものだ。
相手を攻めながら守ることもしないといけないという、単純だが難しいゲームである。俺たちは自分以外の誰かの書いた紙を選んで自分の頭につける。俺は最後に選んだので残っていた一枚の紙をつけることになった。周りの人の単語を確認する。これはひょっとすると、俺の単語は八重先生のものかもしれないな。
「それでは始めるか。小波は好きな食べ物のとかあるか?」
「す、好きな食べ物ですの? どうでしょうか、アクアパッツァとか好きですわね」
もちろん、小波が一番好きな食べ物はアクアパッツァではない。前にオムライスと発言している。けれど、小波がやっているのはあえてNGワードになりそうにない単語を喋ることで、アウトを避けるという基本戦術の一つだ。
八重先生も相手を揺さぶるように探りを入れている。みんな基礎ができているな。ここは早めに仕掛けるか。
「そういう八重様は何がお好きですの?」
「わ、私はな」
「ぬるぽ」
「「「っ!!」」」
これぞ高等戦術【ぬるぽ】。知っている人であれば、あるワードを口に出してしまいたくなる魔法の言葉だ。この戦術のいいところは自分のワードを分からなくさせることができるところである。みんなの頭の中はとあるワードで支配されているはずだ。悩め、悩むがいい。俺の手のひらで踊るのだ。
「あ、危なかったぞ! もう少しで口に出すところだった。しかし、八雲も馬鹿なことをしたな。それでは誰かのワードがそれだと言っているようなものだ。ここからの展開は難しいぞ」
「中々面白いことをしてくれるじゃありませんの。ですが、そう簡単に上手くいくとは思わない方がいいですわ」
「八雲先輩、こんな手を隠し持っていたんですね。一位を取るのは私です!」
「いや、そうはならんやろ」
「「「っ!!!」」」
畳み掛けるは高等戦術【そうはならんやろ】。知っている人であれば、あるツッコミをしたくなってしまう魔法の言葉だ。いよいよもって、みんな混乱してきたんじゃないか。思考を加速させろ。迷え、迷うがいい。俺の操り人形となるのだ。
「……ぷはー! はぁ、はぁ、耐えたぞ八雲。私たちは屈しないからな!」
「……はぁ、はぁ、こんなに場を支配できるものが存在するなんて、とんでもねぇ野郎がいたもんですわ」
「先輩、その技反則ですよ! さっきから卑怯です!」
「「「アウト」」」
「えっ? ま、まさか!」
夜月が勢いよく自分の頭にある紙をひっくり返す。そこには、卑怯という文字が書かれていた。綺麗に嵌まったな。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……悔しい、悔しいですうううううううううう!!」
「私のNGワードじゃなくて本当に良かったぞ」
「ゾッとしますわね。この男、どこまで見据えていますのっ!」
高等戦術は組み合わせることで無限の可能性を生み出す。今回は相手を誘惑して耐えたところで口に出しやすい言葉をNGワードに設定した。今回の高等戦術は口に出しそうになるが我慢できるものだと思っている。
我ながら策士すぎて困ったものだ。問題はここから、この戦術の悪いところは自分の策を通そうとするあまり、自分のNGワードが何かを考えることが難しいこと。ゆえに仕掛け続けるしかない。
「そういえば小波は学園の桜は見たか? もう散ってしまって見ることはできねぇだろうが」
「み、見ましたわよ。とってもきれいで素敵でしたわ。でも、仕方ありませんわね。もうこっちは夏と言ってもいいぐらいですもの」
「「アウト」」
「はい? な、なんですの? 私のワードは」
小波が言ってはいけない単語を確認する。小波の言ってはいけない単語は夏であった。
「こんな簡単な手に引っかかるなんて……集中力を乱されましたわね」
「八雲先輩、なんでこんなに上手いんですか? このゲームやる機会なんてなかったはずなのに」
「今はゲーム中だから、俺が負けたら後で教えてやる」
理由はあるが、これは秘密だ。ばれたらそれこそ卑怯と言われかねないからな。ただ、戦術が上手く決まっている部分もある。俺の夜月への攻撃で気が緩んだところを一気に攻める。桜という話題で攻めれば、小波は自分のNGワードが春か春に関する言葉だと思うだろう。
実際はその一歩先に進んだ夏である。普段なら引っかからないだろうが、俺の立て続けの攻撃で集中力が途切れてしまったな。残りは一人。さて、どう調理するか。俺のワードは大体予想がつくからな。八重先生のワード的に俺の勝ちは手堅いな。
「あー、なんか酔いが回ってきたな。少し飲みすぎたかもしれないぞ」
「……」
「夜月、水をくれないか。ちょっと休憩する」
「はい、どうぞ」
「八雲はつまみと言えばなんだと思う? 私はチータラが好きだぞ」
「……」
「……おい! どうして黙るんだ! それじゃあ勝負にならんだろうが!」
「アウト」
「ふえっ? な、なにが駄目だったんだ!?」
「申し訳ございません。わたくしが書いたのですが、八重先生のNGワードは『黙る』だったんですの。このゲームで沈黙は強いので、それを牽制するために『黙るのは禁止』と誰かが確実に言うと思ったのですわ」
「で、俺のNGワードはどうせ酒だろうな。酒を飲んでいる八重先生が設定する単語と言えば、目につくものだと思ったからな。それなら難しく考える必要もない。俺が八重先生の紙を選んだ時点でほぼほぼ勝ちは決まっていたのさ」
「八雲先輩、強さの秘訣を教えてくださいよ。後で教えてやるって言ったじゃないですか?」
「俺が負けたらな。教えてほしかったら何かしらのゲームで勝ってみるんだな」
「むーー、小波、他にゲームはないのか?」
「ありますわ。私はあまり遊んだことがありませんが、一通り人気のゲームは揃えているんですの。今とは違ったジャンルのゲーム……これにいたしましょう」
次に俺たちは四人でできる対戦アクションゲームをすることになった。悪いな小波。このゲームは家にあるんだ。このゲームをやったことのある俺は初見殺し性能が強く、雑に強い技を持っているキャラを選ぶことにした。すまんみんな、許せ。強いキャラこそが正義なのだ。
「それでは始めるぞ! よーい、スタートだ!!」
「うし、とりあえず、これしとけばなんとかなるな」
「あ、八雲先輩! その技ずっと擦らないでくださいよ! せこいですって!」
「仕方ないだろ、発生速くて、判定でかくて、リーチが長いんだから。後隙も少ないからコンボもつながりやすいしなっと!」
「八雲ーーー!! 私はお酒を飲んでるんだぞ! もっと手加減しろよー! 不公平だこんなの!」
「お酒を飲んだのは八重先生じゃないですか! 仕方なく負けを受け入れてください」
「紬はステージの端っこで遠距離技ばっかり撃ってるじゃないですか! ちゃんと戦闘に参加してくださいよ!」
「これは作戦ですわ。人数が少なくならないと勝負もくそもねぇですもの」
「おいしょっと」
「なああああ!! そのキャラ反射技までありますの!? このゲームバランスがおかしいですわ!!」
俺が優勢な状態で勝負は進んでいく。気が付けば三人のキャラは相当なダメージを負っていた。
「こうなったら八雲先輩をみんなで一緒に倒しましょう。勝負はその後からです」
「いいですわ、協力してあげますの」
「八雲、覚悟しろよ」
小波が左端から、八重先生と夜月が右端から俺を追いつめる。これは厳しいな。出る杭は打たれる。少々やりすぎたか。
「それじゃあ、行きますよ皆さん! せーの!」
「とりゃああああって夜月ーー!! なんでこっちに攻撃してくるんだ! あああああ! やられちゃったじゃないか!! ……とほほ、私が最下位か。最下位になったから……酒を飲まないとな!」
「おっと、手が滑っちゃいましたー。まー、本人がもう駄目なので、三位か四位かの違いでしかありません」
「夜月咲耶、あんた卑怯ですわね……ですが、邪魔者はいなくなりましたわ。あちらはお酒に呑まれてるようですし、わたくしたちでケリをつけますわよ」
「ええ紬。私に合わせてくださいよ!」
「言われなくてもですわ!」
「「おりゃあああああああああ!!」」
「ポチっとな」
「「ぎゃああああああああああ!!」」
遠距離攻撃を仕掛けた小波、近距離での強い攻撃を仕掛けた夜月であったが、俺の使っているキャラにはフルカウンターというものがある。カウンター状態中は遠距離攻撃は反射し、近距離攻撃にはカウンター攻撃を仕掛ける。継続時間が長い代わりに発生が遅く、後隙が大きい技ではあるので上級者にはあまり使われないが、初心者狩りにはもってこいである。
「無効! 無効です! こんなの勝負じゃありません! そのキャラ私にも使わせてくださいよ!」
「八雲隼人! あなたこのゲームをやったことがありますわね! 異議を申し立てますの!」
「勝ちは勝ちだ。別にもう一回やったっていいぞ。意外と練度には差が出るからな」
「もー先輩はそのキャラ禁止です。別のキャラを使ってください」
「分かったよ。八重先生、もう一回やりますよ」
「八雲様……八重先生は駄目かもしれませんわ」
八重先生は顔を真っ赤にして目を細め、常に左右に揺れながらスマホをいじっている。勝負が終わったことなんて気にも留めていないようであった。
「お酒は人を駄目にするだけだな。お酒のいいところなんてないのかもしれない」
「何言ってるんですか八雲先輩。お酒のいいところはいっぱいありますよ!」
「例えば?」
「花札」
「花見で一杯、月見で一杯じゃねぇか!! そのムーブ雑に強いと思うの俺だけ?」
「ですが、雨の札が入ると役が無効になってしまいますわ。つまり、雨の札はチェイサーということですわね」
「花札やってる人に一回怒られた方がいいんじゃないの?」
「なるほど、雨降って地固まるということだな!!」
「お酒をやめる決意を固めさせてやろうか?」
三人はケラケラと笑い合っている。駄目だこいつら。全員がボケる方の人間だ。このままじゃツッコミが追い付かなくなるぞ!
「というより、一位が決まったから次のゲームに移行できるよな? 八重先生、これは何待ちですか?」
「国士無双十三面待ち」
「最初に負けたからって麻雀やってんじゃねぇよ!! せめてスマホいじるくらいにしとけ! 八重先生、調子に乗ってるんですか?」
「調子には乗ってない……ドラが乗ってる!!」
「……俺のツッコミが酷使無双だぜ」
三人寄れば文殊の知恵というより、女三人揃って
---
「もう駄目だ。私は寝るからな……」
「私もはしゃぎすぎました。眠いです……」
「あら、二人は寝てしまったようですわ。これからどうしようかしら」
「お開きでいいんじゃないか。もう少しで日付も変わるからな。二人を置いていっても大丈夫か?」
「客間に布団を引いているから大丈夫ですわ。それよりも八雲様、お帰りになられるんですの?」
「流石に俺は泊まれんだろう。学園も近いし、俺は寮に帰らせてもらうよ」
「あら、わたくしは気にしませんのに」
「帰ってから少しやることもあるんだ。悪いが、俺は帰るぞ。今日は楽しかった。ありがとな」
「……分かりましたわ。わたくしも楽しかったですわ。発案してくれた八雲様には感謝しかありませんの。また次の機会にお会いいたしましょう」
「おう、じゃあな」
潰れた八重先生と寝てしまった夜月を置いて小波の家を出た。後輩に介抱を任すなんて、先輩としてどうかと思うが、こちらも早めに片付けないといけない。みんながみんな、しびれを切らして待っているだろうからな。
俺は先週と同じように、寮とは反対側の学園の出入り口へ向かう。桜並木はすっかりとピンク色を失って、寂しい姿をさらけ出していた。……さらけ出すと言えばもう一人。本性を現してくれる奴が確実に俺へ近づいていた。
俺は素知らぬふりをして、奥の方へと進んでいく。あいつらを誘い出したように、俺は人気の少ない広場へと進んでいく。思えばあれから一週間か。騒がしい日々が続いたな。あんな楽しい毎日なら続いてもらっても構わないのだが、このように楽しくないことも必ず訪れてしまう。
「おい、八雲隼人! 久しぶりだな!」
「おや? 編入生じゃないか。元気していたか? すっかり噂を聞かなくなったから退学になっちまったかと思ったよ」
「っ! 貴様、舐めた口を利きやがって! 元気なお前など少しも怖くはないわ! そんな態度を取れるのも今のうちだぞ!」
「お前の方こそ随分と態度がでかいじゃないか。俺にびびって泣いてたって聞いたのに。やっぱ群れると態度がでかくなるんだよなあ、弱い奴ほど、なあ?」
歯をぎりぎりとさせながら俺を睨みつける黒島。その背後で二つの影が蠢いた。現れたのは二人の大人。どちらも黒い衣装に身を包んでおり、見るからに怪しい雰囲気を漂わせていた。それだけじゃない。見た感じ、前に襲ってきたリーダー格の男よりも強そうに感じる。
「ふふふ、あはははははは!! 何とでもいえばいい!! お前は俺を怒らせたんだ。前のやつらも今回のやつらもこんなことに使いたくはなかったが……どうしても! お前だけは! ボコボコにしないと気が済まないんだ!! その口を二度と動かせないようにしてやるから覚悟するんだな!」
「あー、なるほど。俺がボコボコになった姿を確認しないと、怖くて動けないんだろう? 立ち直れないんだろう? 可哀そうに。地元じゃ一番でも、ここではそんなことたくさんあるぞ、編入生?」
「くっ! ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ……貴様だけは、貴様だけは! 絶対に許しておかん!!」
「ああーすまん。俺は最弱なんでな。お前と同じで態度が大きくなっちまうんだよ。一人じゃなかったらな?」
「……八雲。わざわざばらす必要はないだろう。だが、尻尾を出させたことに免じて許してやる」
「なんだ!? 貴様、どこか……生徒会副会長だと。どうしてこんなところに!」
「つけられてんのはお前も同じということだよ編入生。少々、俺に気を取られすぎたな」
黒島だけでなく、後ろの二人の男も動揺している。まさか自分たちが尾行されているとは思っていなかったのだろう。いくら大人で強かろうが、所詮は不良の集まりだな。
「さて、どうしますか綾辻先輩? この気配、もう一人いらっしゃるんでしょう? 早いとこケリつけちゃってくださいよ」
「いや、私は一人で来た。相手にシングルへ勝るレベルの連中はいなかったからな。黒島の仲間でもないはずだ。お前の連れじゃないのか?」
「俺の連れ? おい! そこの茂みに隠れているやつ! お前は誰だ? 悪いようにしないから、出てきてくんねぇか?」
「……はぁー、相変わらずの気配察知能力ですわね」
「ええ!? 小波!? どうしてお前がここにいるんだ!?」
「あなたのやることに察しがついたからですわ。わたくしは一人で解決するんじゃないかと思いまして、心配したんですのよ。綾辻様がいらしてるなら、最初から言っといてくださいまし」
先週の事件の真相や俺が狙われていることは夜月から小波にも伝わっている。小波が俺のことを心配してくれているのは知っていたが、加勢してくれるとまでは思わなかった。俺の配慮が足りなかったな。
「少し予定外のこともあったが、これで三対三だ。お前も人を連れてきたんだ、異論はないよな?」
「くそっ! どうしてこうも上手くいかない! 編入できるほどの実力はあるはずなのに! 俺は強いはずなのに! ……そうだ。ふ、副会長! 話がある!」
「なんだ、言ってみろ」
「俺は絶対にこの学園で最強の男になって見せる! シングルなんかで満足はしない。生徒会長さえも超えて見せる! だからチャンスをくれ。今回の件を見逃してくれ!」
「何を言うかと思えばそんな話、通用するわけ」
「いいだろう。見逃してやる」
「あれえええええええええ!? な、何を言ってるんですか綾辻先輩!?」
「ただし! 条件がある。私たち三人と、お前たち三人で決闘をする。その決闘で勝った奴だけ見逃してやろう」
「「ど、ど、ど、どういうこと(ですの)おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
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