第7話 電気と魔力とスキル

 この世界には電気と魔力がある。電気のおかげで夜は明るい上に、スマホと言った便利な道具も使える。魔力があるおかげで魔道具があり、ポーションと言った回復用アイテムを作ることができる。

 では、その逆はどうなのか。魔力のおかげで夜は明るくならないのか。スマホは使えないのか。電気で魔道具は作れないのか。ポーションは作れないのか。昔、夜月の父さんに聞いたことがある。


「電気と魔力は逆の用途に使えないんですか?」

「いい質問だね隼人。実は電気は逆の用途に使えないけど、魔力は逆の用途に使えるんだ。つまり、魔力で夜を明るくすることはできるし、スマホも使うことができる。でも、電気で魔道具やポーションは作れないんだ。じゃあ、何で全て魔力で事足りるのに電気を使っていると思う?」

「いざってときに魔力が使えなくなると困るからですか?」

「それも正解。自分の身を守るには魔力が必要だ。スマホや明かりのために魔力を消費して、何かあったときに魔力を使えなくなったら困るからね。それともう一つ理由があるんだ。魔力の量には個人差があるだろう? 全てを魔力に頼ってしまっては、魔力の量で人生の全てが決まってしまうかもしれない。魔力が多い人は普段から魔力を使っても疲れないだろうけど、少ない人は普通に生活するだけで一苦労だ。そういった不平等をなくすために、電気で利用できるものは電気をエネルギー源にしようという話になったんだ」


 電気の発見は歴史的にみれば最近の方ではあるが、実はもっと前から発見され、利用されていたのではないかという説がある。その説が唱えられるようになった理由として、『超文明遺産オーパーツ』が挙げられる。

 それは機械的な見た目をしており、電気を用いることが分かっている。『超文明遺産オーパーツ』は日本各地に散らばっており、生活用品と思われるものから兵器と思われるものまである。そして、その全てにロック機能が付いており、今までいろんなアプローチを試みたが、解除することはできていない。これらについて夜月の父さんは、


「魔力の量による不平等が生まれないように電気が使われていることは話したよね。このことから、魔力の量が少ない昔の人が、魔力に対抗するためのものとして電気を発見して使うようになったと言われているんだ。だけど、ある時を境に不必要になったという説があるんだ。今はみんな、ある程度の魔力量を持っているよね。それはどうしてかな?」

「スキルを発動すると魔力量が上昇するからです」

「そう。スキルを発動することである程度の魔力を持てるようになったから『超文明遺産オーパーツ』は利用されなくなったということらしい。なぜロック機能がついているかは、他の人に悪用されないためだということみたいだ」

「それでは、スキルは最初から全人類に備わっていなかったということですか?」

「良く気づいたね。その通り。スキルはさっき言ったある時を境に人類に宿るようになったと科学者は推測している。実際はどうなのか分からないけどね」


 全く持って人類とは不思議なものである。俺のように調子が悪くないと魔力が上昇しないスキルもあれば、発動しても魔力がほとんど上昇しないスキルもあるのだから。


「本当に訳が分かんないよなー」

「何を言い出してるんだいきなり」

「俺のスキルですよ。調子が悪くないと魔力が上昇しないスキルって、どうやったら生まれてくるんだろうなーって思いまして」

「本当に唐突ですね。久しぶりに【不調で絶好調ダウナーズハイ】を使ったことで、普段考えないようなことを考えるようになったんじゃないですか?」

「そうかもな。それに、編入生との戦いが終わって気が抜けてるってのもあるかもな」

「まあ、今は観光中だ。何でもいいじゃないか。ほら見ろこの海を。絶景だぞ」


 今日は週末、病み上がりであった俺だが、夜月の命令で学園付近の観光案内を任されることとなった。天岩学園付近での観光案内なんて、車がないとどうしようもない。

 夜月の命令に従うしかない俺はどうにかできないかと思ったが、そういえば編入生とのバトルに勝ったら八重先生が言うことを一つ聞いてくれることを思い出した。

 俺は八重先生に頼み込んで無事に夜月の命令を遂行することに成功したのだ。今は蒼島と言う島に向かって海岸線沿いを歩きながら、雑談をしているところであった。


「そもそもスキルってどういう風に決まるんだろうな。親のスキルと似てるって勉強では習ったんだが、実際はどうなんだろうな」

「実際に似ていたりするのか分からないって、自分の両親のスキルを知らないのか?」

「八雲先輩の両親は聞かれなかったら答えないって感じの人たちですからね。母親は自分の素性を話したがらないし、父親は先輩の自主的な行動を尊重していますから」

「なるほどな。じゃあ私が答えるが、実際でもある程度は似ていると思うぞ。母さんは治癒スキル持ちで、父さんは私と同じように物体の時間を戻せるからな」

「八雲先輩は知っていると思いますが、私のスキルは母さんに似ています。母さんは強化系で、父さんは条件付きの戦闘に関与しないスキルですから」

「ということは、俺の母さんか父さんも【不調で絶好調ダウナーズハイ】のような扱いづらいスキルを持っていたということか。今度実家に帰ったら聞いてみるか」


 聞いた感じだと本当に遺伝っぽいな。そうならどんな感じに扱いづらいスキルを使っていたのか聞いてみたいな。まあ、遠い先祖から受け継いだ、隔世遺伝と言う可能性もあるから何とも言えないが。

 今となっては亡くなった父さん本人に直接聞くことはできない……適度な距離感が気持ち良かったけど、もっと父さんのことを知っておくべきだったな。


(「隼人、俺はお前が最強の男になれると信じている。お前の秘密主義は大したものだが、俺には分かる。隼人の本当の力は全てを凌駕すると。頼む! ぜひ、天岩学園に通ってみてくれ! 俺からの最後のお願いだ」)


 俺が天岩学園に行くことを勧めた父さん。俺が天岩学園でも通用するスキルを持っていることを知っていたということは、父さんも強かったのかな。


「八雲先輩……ほら、蒼島が近くに見えてきましたよ! 今日は快晴で観光日和。今日を精一杯楽しみましょうよ!」

「……その通りだな。悪い、こんなに世界は色づいているのに、下を向いてたら分かんねぇよな。てなわけで、俺が一番乗りするからな!」

「ああ! 待ってくださいよ! 私のための観光ですからね!!」


 下を向いていたら分かんないのは、夜月の表情も同じ。こんなに喜んでいる夜月の顔を見ないのは、あまりにも損だよな。俺は夜月の方を振り返りながら、蒼島へ向けて走り出した。


---


「それにしてもサーファーが結構いるな」

「この時期の蒼島の海はそこまで寒くないですからね」

「それにサーフィンの聖地でもあるんだぞ」

「やっぱ蒼島は人気だよなー。夜になると、星空が綺麗でカップルも多く訪れるしな。近くに宿泊施設もあるから、かなり便利だし」

「そうだな。私も流星群が見られるということで、一人で蒼島の海岸で一時間くらい星空を見つめていたことがあるぞ。とても良かった。火球も見られて心がときめいた……周りにはカップルしかいなかったがな」

「「……」」


 俺たちは瞬時に目をそらす。体が警報を鳴らしている。ここで反応したら死んでしまうと。


「周りのカップルは随分と楽しそうだったぞ。きゃっきゃうふふと言いながら、あ、今流れ星が通ったとか、軽い雑談をしながらいいムードが流れていたよ。私は途中からイヤホンで好きな音楽を流しながら楽しんでいたさ。問題ない。何も問題ないんだ」

「へぇー、そうなんですね……綺麗な星空が見れたようで良かったです」

「私もいつか見に来れるだろうか……あの時のカップルみたいにいちゃいちゃしながら星空を眺めてみたいよー!」

「だ、大丈夫ですよ綾香先生。先生ならすぐにでも叶えられますって!」

「うー、夜月はいい子だな。先生、夜月のことが大好きだ」

「ち、ちなみに流星群ってことは、流れ星がたくさん降ったんですよね? どんな願い事をしたんですか?」

「……八雲、流れ星って現れてから消えるまでに三回願い事をしないといけないって知ってるか?」

「はい、知ってますよ。それがどうしたんですか?」

「流れ星がいつ現れてもいい様に、ずっと、彼氏、彼氏、彼氏って呟き続けてたぞ。これが一番効率がいいんだからな」

「……ただの変質者じゃん」

「八雲ー、しっかりと聞こえてるぞー?」

「ま、待って。俺病み上がりだから。ちょ、ま、あ、あああああああああああああああああああああああああ!!」

「うわあ、距離空けておこう。この人たちと私は関係ありませんよっと」


 その後も色んな観光地を巡ったり、食事をしたり、今日と言う日を存分に楽しんだ。俺たちの最後は温泉で締めくくることになり、その前に岬で夕日を眺めることにした。


「見渡す限りの水平線。いい眺めですねー!」

「こっちは蒼島もないからな。百八十度すべてが海っていうのも中々に乙なもんだよな」

「ここから温泉って、こんなんでいいんでしょうか?」

「いいんじゃないか? こういうくだらない話をしながらまったり過ごすのも休日の醍醐味だと思うぞ。ほれ、ソフトクリームだ」

「ありがとうございます。うーん、もうこっちはサーフィンをする方がいるぐらいあったかいですからね。冷たい食べ物がおいしいですよ。綾香先生は食べないんですか?」

「私はそんなに動くことがないからな。あんまり食べ過ぎると太るというものだ。お前たちみたいに若いのが羨ましい……」

「大丈夫ですよ。サウナで汗を流せばカロリーゼロですからね。今日一日おとがめなしです」

「サウナにそんな効果はないぞ」


 ……楽しいな。何やかんや言って、観光地を巡っていい景色を見て、うまい飯を食って、甘いものを食って、温泉に入る。休日でいえば完璧の方だろう。これも全部【不調で絶好調ダウナーズハイ】で編入生に勝ったからだと思うと、複雑だな。

 調子が悪いというのは俺自身も辛い。俺のスキルは基本的には使いづらいものばかりだ。そして、そのほとんどのスキルが俺の性に合わない……最初からこうしていれば良かったのかな。変なこだわりを持たず、スキルを使ってのし上がる。もっと早くこうしていれば、俺は……。


「何考えているんですか八雲先輩、こんなにいい休日を過ごしているのに難しい顔をしていますよ」

「ちょっと黄昏ていただけだ。別に深い意味はない」

「八雲、今日は楽しくなかったか?」

「そんなことないですって、本当に別に深い意味はないですよ。ただ、ふと思っただけですよ。頑なにスキルを使わなかった俺の一年間は何だったのかってね。二人は知ってると思うけど、俺にはスキルが複数個ある。それらを上手く使えば、もっとうまく立ち回れたんじゃないかってね」

「……八雲先輩ってやっぱり素直じゃないですね」

「どこがだよ……」

「全部、私たち夜月家のためじゃないですか。先輩はずっと苦しんでいる。夜月家と共にあるためにふさわしい人間でないといけないことと、父親との約束の狭間で苦しんでいる。先輩は【不調で絶好調ダウナーズハイ】を筆頭に、自分が持っているスキルは夜月家にふさわしくないと思っている。【不調で絶好調ダウナーズハイ】を使ったのだって、あの日から二回しかないじゃないですか。それで、力が使えないから、頭の良さを証明できる天岩学園に入学した。天岩学園を卒業した生徒であれば、誰からも文句を言われないってそう思っているんじゃないですか? 夜月家が苦労することがないと思っているんじゃないですか? けれども、父親との約束も果たしたいから、天岩学園に入学しながらも戦闘希望にした」

「……だって、そうじゃねぇか。夜月家は他の名家やお偉いさんからは変な一般人と仲良くしている変わり者の家だと言われてるんだぞ。全部俺たち家族のせいじゃねぇか。そんな俺たち家族のために夜月家は嫌な顔一つせず、様々な施しをした。一生かけても返せねぇもんをもらったと思ってる。夜月家のことを、お前のことを考えるのは当然のことだろう……当然のことなのに! 父さんとの約束も頭から離れねぇ。だから、試してみたかったんだよ。スキルを使わなくてもこの学園で最強を目指せるのかってな。この一年間を使って分かったのは、そんなのは無理という当たり前のことだけだった」

「……八雲。私はお前の一年間をしっかりと見てきたわけじゃない。それでも、無駄ではなかったんじゃないかと思うぞ。できないってうのが分かったってことはな、一つの成果でもあるんだ。決して無駄ではないと私は思うぞ。それに、一年間スキルを使わなかったおかげで、基礎的なことは上位に食い込めるほどにできている。後はスキルさえ使えれば最強に至れる可能性を持っているぐらいにな」

「八雲先輩はもっと自由にやっていいんです。私たちのことは考えずに好きなようにやってください。私は八雲先輩がやってくるのを上で待っていますからね」

「……そうかよ。俺は生徒会長さえも超える男になってやるからな。あんま自惚れてっと、すぐに追い越しちまうぞ」

「その意気ですよ。最下位先輩」

「ふっ、ありがとよ」


 俺たちはしばらく夕日をを見つめていた。日は沈みやがて夜になっても、明けない夜はない。俺の物語も一つ先の夜明けへ向かおうとしていた。


「さあ、温泉に行こうぜ。明るいうちの方が景色もいいだろうしな。それに、温泉上がりのコーヒー牛乳が俺を待ってるからよ」

「八雲の言うとおりだな。さっさと温泉に入って、コーラでも飲むとしようじゃないか」

「何言ってるんですか。温泉上がりと言えば、オンラインCとポパピスエットを混ぜたオンポに決まってるじゃないですか」

「「「……」」」

「いや、温泉上がりはコーヒー牛乳だよな?」

「いやいや、百歩譲ったとしても炭酸だろう?」

「え? ポパピを混ぜないと水分補給がちゃんとできませんよ?」

「「「……」」」


 静かに俺たちは魔力を身に纏う。それは、これから行われる仁義なき戦いへの準備であった。……言うまでもなく夜月の圧勝であった(温泉上がりの飲み物は個人の自由だ)。

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