第3話  鍛冶屋のアガサ

 若い黒髪の男は、鍛冶屋だった。人好きのする童顔で、俺よりもきっと年上だろうが、同じくらいの年にしか見えなかった。

 アガサ・ロダという鍛冶屋は、黒の魔術師の中では、特別な存在らしく、さまざまな剣を作っては、『緋の杜』に貢献していた。

 その中で大傑作といわれるものが、魔法使いと精霊の契約を強制的に解除できる《ミオンド・ガレ》の剣だった。


 彼は、俺に近付いてきた。ムネヒラ目当てなのは明白なのであるが、人恋しかった俺は、すぐにアガサに心を開いたんだ。


 アガサは、俺の持っていた妖刀、ムネヒラを手に取って言った。


「すごいな、この刀。どれだけ魔族の血を吸ってるんだか……清められてはいるけどね。作られた時は名刀だったはずなのに、血を浴びすぎて最早血を好む妖刀だよ。君、この刀に引きずられないように気を付けて」


 アガサは、ムネヒラをジッと見つめてから俺に返してきた。


「不思議な奴だな、何でそんなことが分かるんだ?この刀は、家の骨董屋にホコリを被った売れ残りだぜ」


「ふふ……あるじを探してたかな?」


 アガサは、ふくみのある顔で笑った。


 二人が友人関係になるのに時間はかからなかった。


 むしろ、鍛冶屋のアガサが俺の剣の練習を見てくれた。


「剣を作るのに、使い方を知らなくては出来ないからね」


 そう言って、俺の剣の稽古の相手をしてくれた。


 ある日、アガサが俺に言ってきた。


「『ムネヒラ』を貸して欲しい」と。


「なんでだ?」


 俺は問いかけた。


「ムネヒラの秘密が分かったかもしれない。しばらくオレに預けてみないか?」



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