第9話 守護者
「貴方は私の能力をチートだと称しましたが、貴方のそれも充分でしょう。4つの《固有魔法》を保持するだなんて、普通では考えられませんから。」
「まぁ、それは認める。」
傲慢でも、自惚れでもなく、俺は頷いた。
孫子曰く、敵を知りて、己を知らば、百戦危うからず。
自分の強みは何処なのか、周囲と比較して何が優れているのか。
少なくとも、俺はそれを自覚しているつもりだ。
「じゃないと、迷宮攻略特殊部隊なんて入ってなかった訳だしな。」
迷宮攻略特殊部隊とは、迷宮庁の保有する特殊部隊の事だ。
──可及的速やかに迷宮を破壊する。
この言葉を標語に、年齢、性別を問わず、日本最高峰の人材を集め、最先端技術を持って、迷宮災害に当たる軍事組織。
一部では、日本最高のRTA集団なんて揶揄もあるが、余人に真似出来ないという面に於いては、正しい評価だ。
実際、他の軍事組織や民間軍事企業などと比較して、飛び抜けた業績を誇っていた訳なのだから。
「そうですね。それなら、そのお力をこれからも頼りにさせて頂きます。」
生殺与奪の権限を握っておいて、頼りにさせて頂くも何も無いだろう。
俺は心中、不平を述べたが、彼女の優美な微笑みが魅力的だったのは、否定出来なかった。
◇
それから数度ほど
そこは水の終着地の一つ。
巨大な湖だった。
「天国か、地獄か、まったく分からない場所だな。」
俺は苦々しく吐き捨てる。
成程、地下湖は絶景である。
水底まで目視できるほどに澄んだ水、水底には真珠が白く輝き、湖面は蒼く光っている。
その青白い光を長く伸びた真珠の鍾乳石が薄く反射する。
水の精霊が住んでそうな幻想的な風景。
しかし、円形に広がる湖畔には無数の半魚人の姿が寝そべっている。
恐らく、水中にはより多くの半魚人が潜んでいることだろう。
生理的嫌悪を誘う半魚人の群れを想像すると、正直、背筋が凍る。
「コアが有るのは、湖の先のようです。」
「・・・・・湖の下にある抜け道ってことか?」
「はい。」
『迷宮』には、
ゲームに
実際、『迷宮』とゲームの相似性は否定できない部分が有る。
「分かってると思うが、コアの近くには『
ゲームのように『迷宮』のボスのような存在がいるところなど特にそうだ。
コアを破壊されないためなのか、
「ここで戦闘になったら、『守護者』もこっちに来る可能性が有る。幾ら雑魚の集まりだって言っても、『守護者』含めて戦うのは得策じゃないんじゃないか?」
勝てなくは無いだろうけど、無意味に労力を消費するのは、余り好みではない。
俺なら、別のルートを模索する選択肢を一旦、取る。
しかし、セレスの決断は違った。
「いえ、あそこにいる
決然と言い放つ。
その横顔には、紛れもない確信が浮かんでいて、彼女の眼差しは未来の風景を捉えているように見えた。
「私が半魚人を一気に倒すので、『守護者』が来たらお任せしても良いですか?」
「問題無い。」
各個に対応可能ならば、反対する理由も無い。
俺は二つ返事で頷いた。
「では、行きます。」
エーテルが活性化する。
小さな手を一度、握りしめて、開くと、結晶体で構成された長杖が顕現する。
(空間魔法!こいつ、こんなのも使えたのか!)
驚きに目を瞠る俺を横目に、セレスは杖先で地面を叩いた。
すると、そこを起点に地面が凍てつき始める。
その速度は急速に増していき、扇状に広がっていく。
無詠唱で行われた広範囲冷凍攻撃。
水辺でやるのがえげつない。
後に残ったのは、銀世界。
凍った湖と生きたまま氷漬けにされた半魚人の群れのみだ。
「来ます!」
呆けている俺に叱責を飛ばすようにセレスは叫んだ。
瞬間、凍った湖が割れる。
そこから飛び出したのは、耳が割れんばかりの爆音と下半身が魚の女。
人間と見間違うほど麗しい顔、長く伸びた青い髪は惜しげも無く晒された白い肌に張り付き、乳房を隠す。
下半身は魚の尾のようになっていて、青い鱗がびっしりと生えている。
一言で言えば、人魚だ。
「来るのが早いんだよ!」
気を取り戻した俺は、慌てて魔導武装の切っ先を人魚へと向け、極大の雷矢を発射する。
稲妻を迸らせながら突き進む熱光線は、途上の氷を一瞬で溶かし、沸騰させる。
『キィァァァァ!!』
迫り来る熱光線に向けて身体を反転させた人魚は、口を大きく開け、音魔法を発動する。
魔法は、他の魔法によって威力を軽減したり、妨害する事が出来る。
魔法を構成する
空間を波状に揺らす音の衝撃波と熱光線が衝突する。
それを制するのは、より強力な魔法。
決着は一瞬で付いた。
僅かな均衡の後に音の波を熱光線が貫き、人魚の肉体を飲み込んだ。
第五元素が含まれる魔物の肉体や探索者の身体は、魔法や衝撃に対する耐性が有る。
「出オチ野郎め。」
されど、《
それこそ魔法の中でも飛び抜けて強力なものの一つだ。
幾ら『守護者』といえども、この程度の『迷宮』の魔物が生き残れるほど生易しくない。
強力なはずの『守護者』は、あっさりと命を落とし、血のように赤い魔石へと姿を変え、ぽちゃりと湖に沈んで、泡を立てた。
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