第21話 ―1章epilogue― 攻防戦
名家の家出少女を拾ってから二週間が経った。
俺がこの世界に来てから一ヶ月が経過した事になる。
まさか超治安が良い国で辻斬りに遭遇しバッサリと切り伏せられたのが今は昔の様に思える程濃厚な一ヶ月だった…
優良スキルという触れ込みと安易な勘違いから選んだ【巨大化】のスキルは使いどころに非常に困るスキルで正直に言うと【クレイル大草原】で行った検証以来使用してない。
試した事はないが一番使い勝手がよさそうな巨大化倍率2倍だが、単純計算で試算してみると絶妙に使えない。俺の体重を70kg、身長を160cmとし巨大化倍率を2倍と仮定すると2乗3乗の法則に従って体重は8倍の560kgで身長は2倍の3m20cmになる。
まぁこの世界の物理法則ではという大前提がつくのだが‥‥たった2倍ですらそんな巨漢に大変身しちゃうので街中…強いて言えば室内では使えないよね。
だって床とか絶対抜けそうだし。
そして使えないスキルと言えばただいま絶賛クレームを入れる準備をしている【AIナビ】ことカロリー消費型超高性能演算システム搭載ビルドアップ癒し系AI。通称【バームちゃん】だ。
元々は俺をこの世界に送り込んだ女神様が案内役として女神の分体をスキル化した物なのだが自律思考するので主人である俺に内緒で魔改造を繰り返している。
その最たる例は一時的だが肉体の制御権の行使だろう。
詳しくは知らないが俺の承認が有れば俺の体をばーむちゃんが操作する事が可能になるという。
尚、こんな話を聞けば『乗っ取られるぞ!』と思うかもしれないが‥‥誠に遺憾ながらこのスキルはパッシブスキルなので俺の意志ではONとOFFが出来ない。
なのでもう受け入れるしかないのだ。遺憾ながらね。
『遺憾とは失礼ですよぉ~私なりに誠意努力してますぅ~』
(なら都合が悪くなると急に『省エネモード』になるのやめれ)
『大変前向きに検討致します‥‥では』
な?
まぁスキルなんて不思議な力が有る世界だから驚きはしないが…ホントフリーダムなスキルだ。
まぁスキルについては一先ず横に置いておいて…
「問題はコッチなんだよな~」
最早恒例となりつつある俺のベッドに潜り込んでいるシャルルちゃんに視線を向けた。
流石に下着姿は本人も気恥ずかしかったのかそれとももっと別の理由があったのかは不明だが最近では俺のシャツ一枚で添い寝している状態だ。
『彼シャツ』と言えば聞こえがいいが――残念ながら事実は違います。
――彼女が着ている俺のシャツは昨日一日俺が着ていた服なのです――
この意味がお判りだろうか?
保護した翌日に服とか下着とか生活必需品を揃えたのに俺のシャツを着ているので当初は新しい服を汚すのは~って事で遠慮してるのかな?と思って咎めなかったが…流石に俺のパンツにまで魔の手が伸ばされたので、事情を聴いたところ――
『ユーハイム様の服を着ていると‥‥その‥‥貴方に抱かれていると思えて‥‥とても幸せなのです』
『‥‥』
『そして服にしみ込んだ汗や貴方様の香で‥‥天にも昇る気持ちです』
彼女は地雷系かつストーカー気質と言う衝撃の事実を暴露してくれた。
そして俺は悟った。
関わり方を間違えたな――と。
簡潔に言っちゃっえば地雷系女子に対してピンチの時に颯爽と現れて危機を救い好感度を盛大に上げちゃったのだ。
まぁノリとその場の勢いで突っ走った俺にも原因はあるので自業自得と言えばそれまでだが…
まさかその行為がシャルルちゃんを『使用済みの彼シャツで悦に浸るモンスター』に変貌させてしまう程の出来事になるとは思ってもみなかった。
そこだけ切り取ると若干…いやかなり重たいが好意を寄せられていると勘違いしてついついパクっと行きたくなるが―――手は出さないよ?
だってシャルルちゃんの存在自身が危険だからだ。
何が危険ってまずその存在だ。
見た目は確かに可愛い子だから守ってあげたくなるけど彼女の立場は家名に泥を塗った上に実家から逃げ出した『家出少女』なのだ。
そして彼女のパパん達からすると『名家の面汚しが逃走し逃亡先で自分達の醜聞を各地で広めている』と思っている事だろう。なのでシャルルちゃんの口封じの為に彼女のパパんは暗殺者を差し向けるだろう。
そして狙われている子の隣にいるのはぁ~?‥‥俺なんですよ。
なので120%の確率で俺も消される運命にある。
しかし『命』か『シャルルちゃん』かと問われると申し訳ないが今の所は命が大事だ。なので程々の所で彼女と別れる腹つもりなのだが‥‥
「人の感情の機微には敏感なんだよね~‥‥はぁ」
そう。シャルルちゃんは自身の能力全てを『感情の機微を見抜く力』に全振りした!と言わんばかりに感情の機微に敏感なのだ。
そんな彼女なので俺の思惑――『いずれはお別れ計画』をいち早く察知してたのかあの手この手で俺に既成事実を作らせようとしている。
とまぁそう言った事情もあって今日も相変わら俺のベッドに潜り込んでいるシャルルちゃんを眺めながらひそかにため息をついた。
それに前世はともかく今の俺は15歳で性欲の権化!とも呼べる年代なので性欲は普通に有るし、据え膳は頂く派なので毎晩
色々思うところがあるので今はまだ手を出す気はないが‥‥
「そう遠くないうちに手出しちゃいそうなんだよね~~ホント美人って得だよ」
理性の攻防戦はまだまだ続きそうだ。
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