第13話 計算違い

(カロリー消費型超高性能演算システム搭載癒し系AIであるばーむちゃん様よ?)

『どうしました主様よ?』

(なんか予想外の事が起こっているんだが?)

『と、言いますとぉ~?』

(例のあの子がちゃんと働いてるんだけど?何故か逃げないんだけど?)

『確かに逃げないですねぇ~不思議ですねぇ~』


今、俺達は朝食を頂きに受付の横に併設された酒場に来ていた。


「あ、ハム様!おはようございます!朝食をお持ちしますので少々お待ちください!」

「あーよろしくねぇ~」

「はーい!」


贖罪の為に宿の仕事をしている元変態痴女Aさんが頑張って給仕のお仕事をしてるのだ。

そして毎回俺の名前を間違えてる。俺はハムじゃなくてユーハイムだっつーのに。

いやまぁ渾名です!と言えばそれまでなのだが‥‥ハムはちょっとね。



(しかし‥‥結構様になってきたな?)

『まぁアレかもう少しで2週間たちますし…当然でしょう』

(まぁなぁ~)


あの事件が終わった翌日から彼女は宿の仕事を始める事になった。

最初はバーさんに沢山叱られていたが、バーさんの鬼教育のお陰か開始1週間でまぁまぁな出来になり2週間で様になって来た訳だ。


まぁその間に辛くて逃げるだろうと思っていたのだが‥‥残念な事に逃げて居ないのだ。

こっそり厳しくして欲しいとバーさんにお願いしたにも関わらずだ。


(そして‥‥今だに名前すら聞けてない状態っと…なんかもうマジで俺が逃走したくなって来たよぉ~)

『まぁ気持ちは判りますが‥‥私はノーコメントで!)


実は仕事が辛くて毎晩バタンキューしてるので話をする時間を作れていないからという。あーそう。がんばれーな理由で話が聞けていないのです。


とは言え‥‥


「おーい!ミーちゃん!こっち麦酒追加でー!」

「あ、はーい!‥‥ってジョンさん!朝からお酒はダメですよ?」

「ハハハージョッキ一杯じゃぁよわねーよ!早く早く!」

「もー‥‥依頼失敗してもしりませんからねー?」

「そん時はミーちゃんが慰めてくれるんだろー?」

「ハハハハハ!ヤでーす!」


今の彼女は宿の『看板娘』として宿の客から愛されている。そして渾名はミーちゃんで有る事は解った。


『誰よりも深い関係のマスターが本名を知らない‥‥事実は小説より奇なりとはこのことですね!…ところでまだですか?』

(ステイ。ステイだぞばーむちゃん。そして俺よりバーさんの方が関係は深いぞ?)

『確かに。まぁ雇い主ですからねぇ~』

(だろ‥‥だから早く逃げて欲しいんだが‥‥お、朝食が来たぞー?)

『やったー!』


「お待たせいたしましたー!特盛でーす!お熱いのでお気をつけて!」

「ごくろーさん」

「はーい!ではごゆっくり―」


(うーむ。マーベラス!これがチラリズムの妙!)


去ってゆくミーちゃんを見つめながら我ながらナイスな仕事をしたものだ!と自画自賛していた。


普通の恰好じゃ罰にならないと言う事で俺が提案した真っ白のフリフリエプロンに下品にならない程度に短くしたスカートが動く度にヒラヒラするのでとても眼福だ。


『見えそうで見えない』このチラリズムが生み出す魅力はとても凄いのだ。

朝早いにも関わらず賑わっている酒場を見ているとその効果の程が伺いしれるであろう!


『ところで今日はどうするんですか?ここ最近、部屋に引き籠ってますよぉ~ニート

ですよぉ~…つまり住所不定無職ですよマスター?』

(ヤバい。ニート呼びには耐性があるけど‥‥住所不定無職は危機感が半端ないな‥‥よし!今日は街を冒険してみるか~)

『お?なら買い食いもアリですねぇ~いくつかピックアップしておきましょう!』

(程々にな~)


山盛りにされた食事を黙々と食べ進めているとばーん!と宿のスイングドアが開きバタバタと若い男女数人が走り込んで来た。そして走り込んで来たうちの女性1人がフリフリエプロンのみーちゃんに抱ついた。


「やっと見つけた!!お姉ちゃん!心配したんだよ!」

「‥‥ら、らいむ…どうしてココに?」

「2週間も連絡が無いから心配して探してたんだよ!そしたら可愛い子が給仕してる酒場があるって!」

「そうだぞ俺達だって心配したんだぞ!」

「ご、ごめんなさい皆‥‥ちょっと事情が有ってね」

「事情?話してくれよ!絶対に力になるから!」

「私もだよお姉ちゃん!」


なんか青春の一ページだな~と横眼で事態を見届けながら手は黙々と動いていた。


『もぐもぐ。もぐもぐ。もぐもぐ。』


なんてことはない。

俺のカロリー補給が終わったので俺の肉体を使ってばーむちゃんがカロリー補給しているのだ。

最初はばーむちゃんの指示に従って食事をしていたのだが段々と指示が複雑になって来て対応できなくなった。

ホントならそこで妥協すべきなのだが‥‥自身の活動エネルギーを得る為にはどんな事でもする!と豪語したばーむちゃんは本体に申請を出した。勿論却下されたが諦めずに熱弁を振るった結果――


(一時的に肉体の操作権限を付与できる様になってしまった訳ですよ)

『ふぁんですかー?』

(いや‥‥ばーむちゃんは頑張って食べきって下さい。俺のお腹は限界です)

『ふぁーい‥‥もぐもぐ。』


とまぁ今はばーむちゃんが体を動かしている訳なんですよ。


いつの時代も人を動かすのは欲望だな~としみじみ思ったよ。

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