第8話 モル

カロリー消費型超高度演算システム搭載癒し系AI。通称【バームちゃん】

のお腹?活動エネルギーと蓄えた俺達が次に向かったのは宿だ。


『この先を左に曲がると目的地です。目的地周辺に到着しました。案内を終了します』

(いやいやいや。君は超高性能なんでしょ?なんでカーナビとおんなじことするよ?高性能はどこ行った?)

『もぉ~冗談ですよ。イッツジョーク』

(緊急時はちゃんとしてくださいね?)

『らじゃぁ~っとあの緑色の看板のお店が目的地っすね』

(緑…緑…あぁアレか‥‥ってアレホントに宿?)


目を疑った。

確かに宿と言われれば宿にも見えなくは無いが‥‥どう見ても西部劇に登場するバーだよ?

まだ酒場ですと言われた方が納得できる。


『正確に言うと1階が酒場で1階から上が宿になってる異世界ではありふれた宿だねぇ~』

(なるほど‥‥テンプレというやつか)


テンプレ‥‥つまりテンプレートだ。

見本って意味合いで使われる単語だったはずなのでまず外れではないだろう。

まぁアタリでもないが‥‥


とまぁ若干宿?の前で立ち尽くしたが動かない事に始まらんな!と言う事でスイングドアを押して中に入るとすぐ目の前にはカウンターが有って恰幅のよさそうなおばちゃんが座っていた。


「いらっしゃい‥‥酒場かい?宿かい?」


マジでここは宿だったらしい‥‥取り合えず愛想笑いを浮かべながらカウンターに近寄り「取り合えず7日宿泊で」と言ってみた。


「あいにくウチには1人部屋は無くてね‥‥一番小さくて2人部屋だけどいいかい?」

「ええ、問題ないですよ?」

「そうかい…じゃぁ7日で70モルだ」

「‥‥モル?」


化学用語か何かか?と疑問を抱いているとすかさずカロリー消費型~以下略のばーむちゃんの補足説明が入った。


『モルはこの大陸共通の通貨で1モルは1ドルと等価ですね。なので一泊で換算すると10ドル程度ですね』

(一泊10ドルか‥‥まぁ貨幣価値なんぞ国によって違うから何とも言えないけど…うん。相場を知らないので全く判らん)

『まぁ比較的良心的な値段設定だとは思われますよぉ~?』


まぁカロリー以下略のばーむちゃんがそう言うなら間違いはないだろう。


「じゃぁそれで」

「まいど~」


腰に付けた小銭袋からお金を取り出そうとして…固まった。


(え?なに?ココの通貨ってこのオリンピックのメダル的な配色の奴なの?)

『そーですよぉ~金の硬貨が一番大きくて、ついで銀、銅って順です。金が約1000ドル、銀が約100ドル、銅が約1ドルって感じですねぇ~』

(じゃぁ銀の硬貨一枚でお釣りをもらえばいいのかい?)

『それでもいいですけど‥‥お釣りはチップとして渡した方がサービスはよくなりますね』

(そうか‥‥なら気前よく金の硬貨で支払ってやろう!)


「ほい」

「‥‥アンタ‥‥これ金貨だよ?」

「なーに。ここの店に惚れたのさ。残りはチップにでもしてくれ」

「ここに来たばかりでよくそんな事が言えるねぇ?‥‥まぁいいさ貰えるのなら貰うさね。部屋は2階の角だよ」

「ウィーっす」


そう言って階段を上がろうとすると後ろから声が掛かった。


「朝は酒場に顔出しな。朝食を用意してやるよ」

「おぉ~そりゃどーもね」

「寝過ごすんじゃないよ」


そういうとおばちゃんはカウンターの奥に引っ込んでしまったので俺も視線を階段に戻して2階の角部屋に向かった。



ちょっと手狭な廊下を歩き目的の2階角部屋のドアを開けて中に入ると――


「‥‥チェンジで」


半裸の女性が部屋のベッドで寝ていた。


多分間違えではないと思うが一応の確認をと言う事で俺は一度部屋を出て階段まで戻りもう一度角部屋のドアを開けた。


しかし現実は変わらず相変わらず半裸の女性がベットで寝ていた。


(ねぇばーむちゃん?)

『はいはいなんでありんしょう?』


返事の度に口調を変えるって…意外と芸が細かいんだね!流石カロリー消費型~以下略だ。

ってそうじゃなくてね?


(部屋間違えてないよね?)

『間違ってないでありんす』

(ならこの状況‥‥どうすべき?)

『パクっとしちぇば?』

(パクって‥‥外道過ぎない?)

『世の中ヤッたもん勝ちっすよ?…ってのは冗談で宿の店員に相談すべきっすね』

(まぁそれが妥当な所か)


という訳で方針も決まったので俺は早速踵を返し1階のカウンターにいるおばちゃんを呼びに向かった。

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