第2話 異世界へようこそ

体が暖かい何かに包まれてとても心地いい感覚に意識が段々とハッキリしてきた。


そして半分ほど意識が覚醒した所で‥‥思い出したのが――辻斬りだ。


「つ、辻斬りは!?」

「おや?お目覚めになられましたね?」


突然自分以外の声が聞こえてきたのでつい反射的に鉈を振り下ろした怪しい人だと勘違いして悲鳴を上げてしまった。


「ひゃ、ひゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ひ、悲鳴を上げられるのは初めての経験です」

「ひ、ひとごろしーーーーー!!!!」

「落ち着いて下さい」


『落ち着いて下さい』――その言葉を掛けられた瞬間に先程まで混乱していたのが嘘の様に落ち着いた。


そして冷静になった頭で辺りを見回すと宇宙空間に漂っているかの様に思える空間にいた。


「こ、ここは‥‥」

「落ち着かれましたか?」


俺の質問に答えるかの様に声が聞こえて来た。


「え、ええ。一応」

「それは良かったです‥‥では改めてまして。ようこそ異世界へ!」

「‥‥」

「‥‥」

「‥‥は?」

「おや?聞こえませんでしたか?…ではもう一度。ようこそ異世界へ!」

「‥‥ぱ、ぱーどぅん?」

「ですから、ようこそ異世界へ!」

「いやいや、言葉は理解できるんだけど…意味が判らないんですが!?」

「意味…ですか?」

「いきなり『ようこそ異世界へ!』とか言われても‥‥説明を求む」

「そうですか…まぁともかく説明でしたね。いいでしょう説明します」


(なんか上から目線の口調に若干だがイラっと来た‥‥がまぁ今は説明を聞こう)


「簡単に言いますと貴方様はつい先ほど‥‥現地時間で21時14分34秒に連続猟奇殺人事件の犯人――通称【辻斬り】に遭遇しその正体を看破してしまった為に口封じ目的で殺されました」

「え?やっぱ俺って死んだの!?」

「はい。そしてその【辻斬り】ですが…詳細はお話できませんが私達の手違いでされてしまいました」

「は?世界?召喚?…何言ってんの?」

「疑う気持ちは判りますが‥‥まず自己紹介をしましょう!私は【女神】です」


私は女神です!ってセリフの直後に盛大なファンファーレが聞こえるのは気のせいだろうか?


(それにしても女神って‥‥詐欺かよ)

「詐欺ではありませんよ?」

「うぉ!?な、なんで!?考えが!??」

「ふふふ~ん、まぁ【女神】ですからね!」


声しか聞こえないが多分どや顔をしているのが何となく感じられるのがちょっと面白い。


(って!そうじゃなくてね‥‥マジ?)

「ええ。マジですよ?」

(えー?じゃぁ隠し事とか出来ないって事…?)

「まぁそうなりますね。勿論【する】か【しない】かは私の匙加減ですが」

「Oh‥‥」

「とまぁこれで私が【女神】であることが理解できたと思いますので、説明を続けますね?」


相手の考えを先読みするメンタリズムなる技術も存在するので完全に信じた訳ではないが…暫定的に【女神】と認定しよう。


「聞こえてますよー?【暫定】ではなく【確定】的に本物です。っと話がそれましたね。つまり本来で有れば貴方様は死ぬ事のなかったのです。しかしこちらの落ち度だったとは言え死者が蘇生するのは自然の摂理に反してしまいますし、一度でも例外を作れば規則が破綻します。なので貴方様を蘇生させる事は出来ません」


(まぁそりゃそーだわな。出来る出来ないはともかく死者を蘇生するなど一度例外を認めれば今後も特例で認めざるを得なくなる。行き着く先は‥‥考えるのも億劫な世界だな)


「理解が早くて助かります。しかしそれではこちらの都合に巻き込んで犬死にしただけの一般人Aで終わってしまいます」


(こ、言葉に容赦がないですね女神様?)


「なので!その【補填】をする事になりました。そしてその【補填】が異世界に転生するという事です」


「(俺の話は無視ですかい!)‥‥ってえ?異世界に転生?」

「はい。とは言え私の権限では『異世界でハーレムを』とか『最強魔法で下剋上』とかは出来ないので‥‥」

「そ、そうなんですか…ってまぁ期待してない訳ではなかったっすけど‥‥」


俺だってファンタジー系の小説だって読む。

なので異世界転生と聞いて物語の主人公を追体験できると少し期待したが‥‥ダメだったらしい。




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