優良スキルの罠~激重ちゃんを添えて~
霧咲 霞
1章
第1話 辻・切り!
「お疲れ様でーす」
「おお、お疲れー」
「アレ?先輩は今日残業ですかー?」
「課長案件でな」
「あ~アレっすか…ご愁傷‥おっと!お勤めご苦労様です!」
「いや言い直した意味ないからそれ!」
「アハハ!‥‥じゃ!お疲れっすぅ~」
定時で退勤する後輩達を見送りながら今日も今日とてクソったれ上司である課長からの納期カツカツな仕事を与えられて仕方なくキーボードをカタカタと叩く。
(うぅ~ん!ようやく終わった…)
椅子の背もたれに体を預けなが凝った体をほぐす様に大きく伸びをしつつ壁に掛かっている時計に目を向けると時刻はすでに20時を過ぎていた。
(うげ!もうこんな時間か‥‥)
時間の確認ついでにオフィス内を見回すも残っているのは既に俺だけで面倒な仕事を振った課長の姿も既にない。
(いつもの事だから今更文句はねーが‥‥まぁ頼まれてた仕事も終わったし今日は帰るか)
確認とかは明日の朝イチにして午前中に課長に提出すればOKやろと思いながらPCの電源を落とし帰り支度を整える事にした。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です。今日も精が出ますねぇ~」
「お気遣いありがとうございます」
ビルの出入口に居る警備員さんに挨拶をすると挨拶と一緒にねぎらいの言葉を掛けてくれるので地味に嬉しい。
そしていつもならお気を付けて!と送り出してくれるのだが、今日に限っては違かったらしい。
少し神妙な顔をしながら手招きするので警備員さんの近くに寄る。
「実はですね‥‥ここ最近【出る】らしいんですよ」
「でる?‥‥お化けとかですか?」
夜に【出る】と来れば幽霊とかお化けの類だろう?と思っていたが俺の予想は覆えされる事になった。
「お化け?違いますよ‥‥出るのは【辻斬り】です」
「はぁ?【辻斬り】?」
何言っているんだろうこの人。
俺達が今住んでいるのは法治国家だぞ?それに警察と言う取締まり機構もある超が付く程治安の良い国にいて辻斬りって‥‥妄言の類に思えてしまうよ?
「ホントなんですよ‥‥ウチの同僚も似た様な話聞いてますしそれに‥‥」
「それに?」
「何人か『被害』にも合ってるらしくて‥‥」
「えー?」
いやいや。
冗談でしょ!だってもしこの話がホントならもっとニュースとかで騒がれてるハズだしSNSとかでも話題になってるでしょ?なのにその気配さえ見えないのなら多分都市伝説的な話に尾ひれがついただけだろう。
「信じてませんねぇ‥‥まぁともかく大通りとか明るい道を選ぶことをお勧めしますよ?」
「あははは!まぁ都市伝説だとはおもいますが‥‥ご忠告ありがとうございます。では」
「ええ、お気をつけて」
警備員さんに見送られてオフィスビルを後にしたこの時の俺は先程の話なぞ忘れて夕飯をどうするかに思考がシフトしていた。
(さて今日は何を食うかな~‥‥昨日はラーメン屋だったし‥‥今日は…ん。中華にしよう!)
1人暮らしの30代サラリーマンだが自炊はしていない。
まぁ出来ない訳では無いのだが自分1人の為に調理する手間をかけるのが面倒なのでやって居ないのだ。
なので基本的には外食やお弁当で食事を済ますことが多く、この日も例におぼれず外食だ。
そして昨日はラーメンを食べたので今日は中華でいいや~と行きつけの中華屋さんに向かう途中でショートカットする為に人気のない路地に入った。
(エビチリ‥春巻き‥‥ふかひれ…ってんな高価な物食えねーわ!)
何を食べようかな~と考えていて目の前に急に現れた人影に気づくのが遅れ、どん!とぶつかってしまった。
「おっと!‥‥ってすみませ‥‥え?」
よろけた姿勢を戻しつつ謝罪の言葉を口にしながら顔を上げると真っ黒な格好で右手に鈍色の『何か』を持っている怪しい男が居た。
(え?…ちょ!?‥‥な、なにこの状況!?)
驚きすぎて身動きが取れない俺に向かって怪しい男が右手を振り上げた。
振り上げた右腕に握られていたのは『鉈』だった。
月明りを反射して怪しく光る刃先と怪しい男の風体が一つの答えを導き出した。
「つ‥‥辻斬り‥‥あっ」
そして辻斬りと呟いた途端に月明りを怪しく反射する鉈が振り下ろされ――
俺の意識はそこで途切れた。
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