第25話 情報交換

「まあいいや。それで辰組がここに派遣された任務って言うのは何だ、聞いても良いか?」


 ビスケースは俺の質問にすぐには答えず、ルナリエを見やる。

 頷いたルナリエがコーヒーカップをテーブルに置くと、真剣な表情で俺を見た。


「長官はクランクルム帝国を覚えていますか?」

「長官って呼ぶのはやめろ。ややこしいから、リュカでいい。もちろん覚えているとも。あの国で実行したバルバロス将軍暗殺計画の時に、かなりの期間、あの国に潜伏していたしな」

「終戦後、軍事国家だったクランクルム帝国は、国庫が乏しくなったことを理由に、戦争で肥大した軍部を縮小し始めました。無理矢理徴兵されていた兵士たちを解雇したまでは良かったのですが、不要になった秘密警察や無能なのに高給取りだった将校クラスまで大量に首を切ったんです。

 その結果、首を切られた軍の不満分子達が集まって、非合法の地下組織が生まれました。

恐喝、殺人なんでもござれ。金のためなら麻薬や武器だけでなく、人身売買でもなんでもやるような組織です。

 元軍人や秘密警察あがりなので、武器の扱いも慣れていますし、帝国の警察では対処しきれていません。それにどうやら組織の人間が警察内部にも潜り込んでいるようで、警察も腐敗しきっているという情報があります」

「でもそれはクランクルム帝国の問題なんだろ。なぜ辰組が出張る必要がある?」

「クランクルム帝国だけの問題ではなくなってきたからです。今やアロガンス王国やティミドゥス連邦にまで手を広げ、我が国アエテルヌスにも進出してきているという確かな情報があります」

「・・・・・・進出理由は何だ。麻薬か?」

「いえ、人身売買です。クランクルム帝国ではまだ奴隷制が生きています。戦災孤児を捕らえて秘かに帝国まで運び、好事家に高値で売却している実態が明らかになりました。

 人間の子供だけではなく、特に亜人の子供には高い需要があるそうで、我が国にも手を伸ばしてきたようです」

「胸糞の悪い話だな。でも尚更、なぜ、ここペルフィードの街に辰組が派遣されるんだ?」

「ペルフィードの外れにある帝国との国境近くの砦が、この組織の根城になっているという情報を掴んだからです。ご存知の通り、ペルフィードは領主以下、腐敗しきった街なので、取り締まりなどは気にしなくていい。それに戦争時代の使われなくなった砦など、誰も気にも留めないでしょうね。敵ながら目の付け所はイイと思いましたね」

「そうか・・・・・・それで辰組がねぇ。ちょっと確認だが、その人身売買組織にバンパイヤが絡んでるって話はないか?」

「ええっと、バンパイヤですか? ウチの情報では無いですね・・・・・・」

「ちょっと、偶然にしては出来すぎな感じがするんだ。俺の情報も聞いてほしい」


 俺は今日一日、あったことを皆に話して聞かせる。

 話し終えて皆の顔を見渡すと、皆が呆れた顔で俺を見ていた。

 ステラが額に指をあて、頭を振りながら言った。


「えーっと、つまりこういうことっすか。少女連続誘拐事件に顔を突っ込んで調べていたら、蝙蝠の眷属が攫っているらしいと分かり、バンパイヤと闇の組織に関係あるかもと街一番のギャングに喧嘩を売り、次に半グレを返り討ちにしたあげく、これからその半グレのアジトに乗り込むつもりだと。カシラ、アンタ何やってんすか? バカなんすか?」

「なんでだよ! 俺は穏便に事を進めているだけだろ?」

「どこが穏便なんすか! 引っ掻き回しまくってるじゃねぇですか! よくまあそんなんで、昔『忍びとは忍ぶことなり』なんて俺らに語ることができたっすね!」

「カシラ、おいらもステラが正しいと思うな・・・・・・」

「そりゃ言われても仕方ないですねー」

「アタイもそう思う!」


 辰組の連中がジト目で俺を見てくるので、ルナリエに助けを求めようとそっちを見ると、下を向いてなにやらブツブツ呟いていた。


「ふ、ふんっ! 俺はもう忍者部隊は辞めたんだし! 関係ないから自由にやっていいんだよ!」

「その結果、こっちの任務にまで影響が出たら、たまったもんじゃないんすけど。

長官、どうするっすか?」

 

 ステラに促され、ルナリエが顔を上げる。

「そうね、辰組は予定通り砦の調査をしてちょうだい。バンパイヤが絡んでいる可能性を加味して十分警戒してね。アイツらのチャーム・スキルは厄介だから」

「長官はどうするんすか」

「私はちょ・・・・・・いやリュ、リュカ・・・・・・さん? と一緒に行動するわ。

 そのルーストとかいう半グレのアジトに行けば、もう少し詳しいことが分かるかもしれないし、この人にはストッパーになる人が必要みたいだからね」

「とかなんとか言いながら、アタイは一緒にいたいだけだと思う!」

「そーだ、そーだー」


 リラとサートルに混ぜ返されて、真っ赤になったルナリエは、テーブルをバンッと叩いて大声をあげる。


「とにかく調べたら、明日の朝に此処でもう一度打ち合わせするわよ! いいわねっ!」

「・・・・・・此処、俺の家なんだがな・・・・・・」

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