第26話 装備変更

 結局、いつの間にか俺はルナリエと一緒にルーストのアジトに忍び込むことになっていて、もう抵抗することは諦めた俺は、一人寝室に向かうと隠し戸棚を開いた。

もともと、ここには装備を変えるために来たのだ。まずは初志貫徹するとしよう。


 戸棚の中から使ってしまって数が減った鉄球をポウチに補填し、更にベルトに二つばかり、鉄球を詰めたポウチを新たに取り付ける。

 そして刃渡り30センチほどの両刃のナイフもベルトに固定すると、腰に巻いた。


 十手を抜いて隠し戸棚のラックに戻すと、新たに長さ1メートル程の金属でできたじょうを手に取る。

 直径2センチ程の、両端に石突が被せられただけの何の変哲もない杖だが、材質はオリハルコン製の特注品だ。


 俺が獣人化して闘うと、つい加減せずに馬鹿力で打ち刀なんかを振り回したら、刀身は簡単に折れるか曲ってしまって使い物にならなくなってしまう。

 両刃の西洋風両手剣は重く頑丈だが、振り回すモーションが大きくなるし、戦い方が性に合わなくて使い難いのでやめてしまった。大体、忍者のイメージに合わないしね。

 それに潜入任務中にデカい剣を背負うのはロマンではあるが、現実的にはあり得ない。


 かと言って槍や薙刀、ハルバードのような長柄物だと、更に任務にはむいてない。

それに俺が使うと直ぐに柄が折れてしまうので、鋼鉄製の柄にして試してみたが、力任せに叩きつけるとやはりすぐ折れ曲がってしまった。


仕方なく、俺は十手とか鎖鎌などを中心に使うしかないか、と諦めかけていたのだが・・・・・・。


 魔王軍のドワーフ達が俺のために、2つの逸品を創り上げてくれたのだ。

 その一つが、このオリハルコン製の杖だ。


 俺がどんなに乱暴に振り回しても、折れず曲らず、どんなメイスなどの打撃系武器より頼りになる逸品だ。

 忍者の任務中に俺が装備していた武器では、この杖を使った回数が一番多いかもしれない。虎鳴流忍術に杖術があって、本当に良かったと心の底から感謝したものだ。


 もう一つはヒヒイロカネで鍛えた長巻だ。

 刀身は約三尺(約90センチメートル)で、柄の長さも同じ三尺ほどある造りになっている。

身幅も広く、薙刀並みに分厚い刀身は、ヒヒイロカネのおかげでこれまた折れず曲らない。

柄も茎尻なかごじりがほとんど柄頭まで入っていて、いわばフルタング状態なので、どんなに俺の馬鹿力で握って振り回してもビクともしない頑丈さが頼もしい。


 オマケに素晴らしくよく切れるし、その切れ味が衰えないというのが凄い。

 戦場での護衛任務や敵を殲滅するときに振り回すのには、よくこちらを使って暴れたものだ。


 今日は暴れるのが目的ではないので、杖の方で構わないだろう。

 ドワーフ達が、特製の背中で保持するホルスターも造ってくれているので、ジャケットの上にホルスターを付けると杖を背中に差す。


 一呼吸置いて、サッと杖を背中から抜くと、ピュッという風切り音をさせながら振り下ろす。と、持ち手を変えて杖をくるっと半回転させながら、左から突いた。

 ボッという音とともに杖が魔法のように伸びて、仮想相手の喉を突くのが幻視出来た。


 まだ俺も、そんなに衰えてはいないようだ。

 少し満足して背中のホルスターに杖を差して固定する。


「懐かしいですね、ちょ・・・・・・リュカさん、がその杖を持つのを見るのは」


 寝室の入り口にルナリエが立って、俺を見ていた。

 俺は見られていたのが少しだけ照れくさくて、ルナリエに質問で返した。


「準備はいいのか?」

「はい、いつでも出られます」

「よし、では行くか」


 居間に戻ると、もう辰組は居なかった。

 僅かに残った痕跡と言えば、綺麗に洗って流しに伏せてあるコーヒーカップだけ、という徹底ぶりだ。茶目っ気のあるアイツららしいな。

 敵地だったら、そんな痕跡すら残さずに消えてしまうだろうに。


 では、俺たちもルーストのアジトに向かうとしようか。

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