第24話 ルナリエと辰組

 結局、あの後、三人を少し痛めつけながら尋問したが、自分たちは命令されて脅しに来ただけで、それ以上の詳しいことは知らない、というのが共通の答えだった。

 ただ、最近、幹部連中が気味悪いフードを被った連中とずっと一緒にいて、以前と様子が変わってしまい、ルースト内の雰囲気がすっかりおかしくなっている、とか。

 以前はそうではなかったのに今は、アジトの地下室が幹部とフードの男達以外は立ち入り禁止になっていて、先日知らずに無断で入った下っ端が見せしめに殺された、とか。

 僅かだか新しい情報が手に入ったのは収穫だったかな。


 尋問の後、こいつらをどうしようかと迷ったが、開放するわけにもいかないので、クズの処理はクズに任せることに決めバーバラに連絡を取る。

 すぐにマルボーナファミリーのゴツイ奴が数人、エミリーの店にやってきて、三人を引っ立てて行った。

 このあとどうなるかは、お前たち三人の日ごろの行い次第だな。

 幸運を祈るよ。合掌。



 エミリーが襲われることはもうないとは思うけど、念のためグリンゴに頼ることに決めた。エミリーを連れて冒険者ギルドへ行き、居合わせたグリンゴに今までの経緯を話してエミリーの保護を頼む。


 グリンゴは驚いていたが、エミリーの保護はもちろん、冒険者ギルドの方でもルーストを探ってみるとの答えを聞いて、安心した俺は一度家に帰ることにした。

 ルーストのアジトを探るにしても、得物が十手だけでは少し心許ないので、家に取りに戻ったほうが良いだろうという判断だ。


 ちょっと早駆けしながら家に戻り、我が家の門を開けようと、鍵穴にカギを差し込んだ瞬間に暗がりから人影が現れた。


「お久しぶりです、長官」

「・・・・・・いや、今の長官はお前だろ? 何しているんだ、こんなところで」

「何って、その・・・・・・。長官の家の近所で任務があるって聞いて・・・・・・。もしかしたら会えるかなぁって思ったから・・・・・・ダメでしたか?」


 もじもじして身をくねらせながら、俺に挨拶してきたのは、ルナリエだった。

 闇に潜んでいるが敵意が感じられなかったので、気配からして辰組の連中と思っていたが、まさかルナリエまでいるとは思わなかった。 


「ハァ~ッ・・・・・・。とりあえず中に入って話を聞こうか。おいっ! お前らも出て来いよ」

「すみませんね、カシラ。おいらは止めたんですけどね。長官がどうしても聞いてくれなくて」

「ビスケース! アンタはまた余計なことを!」

「いやいや、こればっかりは組頭が正しいっすよ。もともとあっしら辰組の仕事だったんすから。ホントは組頭が出張らなくても良い案件だったはずなのに、長官が行くって駄々こねるから仕方なく組頭が付いて行かなきゃいけなくなったんすからね。ちっとは責任感じてもらわないと」

「そうそう。でも長官が必死で怖かったし、断る選択肢はなかったですよねー」

「うん、あたいはちょっと可愛いって思った! 恋する乙女って感じで!」

「五月蠅いうるさいウルサーーーーイ!!」


 続いて暗がりからぞろぞろと出てきたのは、辰組の連中だった。

 辰組の組頭のビスケース、補佐してるのは真面目なステラ、小柄で剽軽者なのはサートル、くノ一で紅一点なのはリラだ。


 皆に揶揄われて言い返し、ギャーギャー騒いでいるルナリエを見て、俺は秘かにため息をつく。


「これ以上、家の前で騒ぐのはやめてくれ。さぁ、中に入って。コーヒーでも入れよう」



 皆を俺の家のリビングに通したが、ソファだけでは全員が座るには足りなかったようだ。

食堂の椅子も持っていけば、なんとか全員座れるだろう。

 皆が椅子を運んだりしてバタバタしている間に、俺はコーヒー豆を挽き、パーコレーターでお湯を沸かす。

 粗挽きに引いた豆をバスケットにセットし、沸騰してきたパーコレーターに入れると、火を弱火にしておく。

 3分もするとコーヒーのいい香りが花開きだし、部屋中に漂い出した。


 ちょうど好みの濃さ加減になったパーコレーターを火からおろして、人数分のカップに注いでいく。


「おーい、コーヒーが入ったから、それぞれ取りに来てくれ。なにせ一人暮らしなんでな、トレイなんて上品なものは持っていないんだよ」

「「「「ハーイ」」」」

「押忍!」


 一人だけ返事がおかしいのはビスケースか。

 あいつはゴリゴリの武闘派だからなぁ。種族もリザードマンだし、獣化すると体長2メートルを超え、太い尻尾まで生えて凄まじい戦闘力を発揮する。

 でも人化している今は、クルクルと癖毛の髪と、もみあげから顎までふさふさの髭で覆われた顔に優しげな眼をして、どう見ても人の良さそうな農夫にしか見えない。


 俺は旨そうにコーヒーを啜っているビスケースに尋ねてみた。

「魔道具屋の話では、明日到着するっていう事じゃなかったか?」

「いや、おいらはその予定だったんですがね、長官があんまり急かすもんだから」

「ンッ! ゴホンッゴホンッ!」

 

 真っ赤な顔をしたルナリエが不自然な咳払いをしながらビスケースを睨みつける。


「・・・・・・いや、なんだか思ったより早く着いちまったんで。折角早く着いたんだから、カシラのところへ早く行こうって長官が」

「ゴホッゴホッゴホンッ!!」

 ルナリエの咳払いが激しさを増す。

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