第3話 前世の記憶
魔王様が待つ玉座の間まで歩いていく間に、俺の自己紹介をしておこうか。
俺の名前はリュカオーン。
身長185センチ。体重80キロ。
いわゆる細マッチョ体形で、体脂肪率は5%くらいしかない。
名前は魔王軍時代に誰かが俺のことを、リュカオーンと渾名して呼び始め、いつの間にか定着していた。今では俺も気に入っている。
短くして「リュカ」だ。
もう長いこと、生まれ故郷にも帰っていない。
俺の故郷は人狼の郷だった。当然、俺の種族も人狼だ。
戦争で減少してしまい、今や絶滅危惧種だがな。
人狼とはワーウルフ、ライカンスロープ、ルー・ガルーなど呼び方はいろいろあるが、神話の時代から続く由緒正しき魔人なのだ。
創作のウルフマンなどと違って満月の夜に遠吠えなどしないし、銀の弾丸程度では死なない。
俺たちの種族は自己回復力が半端ではないからな。ほぼ不死身と言っていいだろう。
でも普通に考えてさ、銀じゃなくても金属の弾を心臓や脳みそに撃ち込まれたら、狼男じゃなくても痛いだけでは済まないからね?
そして俺にもう一つ秘密がある。
俺には前世の記憶があるのだ。いわゆる転生者という奴だ。
前世の名前はもう忘れた。
俺が、
当時の遊び場だった山の中で、兄たちについてウサギを追い回していた時、崖から落ちて大怪我をしたことがある。
そのとき足の骨を折ったほかに頭も打ったらしく、頭から血を流していた俺を兄が血相を変えて屋敷まで運んでくれたと聞いた。
幸い、落ちたのは5メートル程の高さからで死ぬほどではなかったが、まだ身体が出来上がっていない幼児の身体にとって、人狼族だとしても
子供の俺は骨折の熱にうなされ、翌日、目が覚めた時には、なぜか前世の記憶が甦っていたのだ。
そのときは前世の記憶が一気に頭の中に流れ込んでいて、俺は混乱してしまっていた。
子供心に、頭を打ったせいでおかしくなったのではないか、と怖かったのを覚えている。
一気に記憶の奔流が脳内に溢れたせいか、また俺は熱を出して気を失ったそうだ。
2日後に目をさました時には落ち着いて、頭のなかも整理された状態になっていたのは助かった。
足の骨も、幼児とはいえ流石は人狼の回復力で、ほとんど治っていたしね。
もう1日寝ているように医者から言われ、俺はベットの中で天井を見上げながら、前世の記憶について考えていた。
その記憶によると、前世の俺は戸隠流忍術の流れをくむ、虎鳴流忍術というものを継承する家系に生まれたらしい。
最初は「忍者」ってなに? って感じだったよ、マジで。
記憶を辿っていくと、要するに間者というか、スパイってことだと理解した。
それも常人にはない能力や不思議な術を使う、特殊な存在だと。
でも、よりによって人狼の俺に「虎鳴」流って・・・・・・どうなんだろうな。
虎鳴流とは伊賀流の火遁術や、大東流合気柔術の九字護法なども取り入れた独自の忍術だということだ。
先祖代々受け継がれてきた術式は前世の俺が受け継いだものの、すでに忍者という存在には仕事がない平和な世界だったので、已む無く虎鳴流の体術などを教える道場を経営していたらしい。
小さな道場だったらしいが、一般人だけでなく自衛官や警察官、海外から特殊部隊の兵士まで訪れたりして、結構流行っていたようだ。
しかし、前世の俺は35歳の時に、交通事故で死んでしまう。
記憶によると、道に飛び出した子供を助けようとして、トラックにはねられたそうだ。
忍術とやらで何とかすることはできなかったのだろうか。
いずれにせよ、死亡した前世の俺はなぜかこの世界に転生して、俺の中で目覚めたという訳だ。
でも前世の記憶は、こちらの生活でも役に立つことが多かったのは事実だ。
この世界にはない「科学」というものは、子供の頃には理解できなかったが、成長するにつれて理解できるようになってくると、その知識がいろいろと役に立つことに気がついた。
でもそれよりも役に立ったのは、虎鳴流の忍術の方だった。
記憶が甦った5歳の時から、俺は前世のトレーニングを再現しようと試み始めている。
最初はなかなか上手くいかなかったが、成長して身体が出来てくるにしたがって、人狼と忍術は最高の組み合わせだと確信する。
なにせ、前世の俺のような人間の身体能力と、今の俺の人狼の身体能力とでは、桁がいくつも違う。
瞬発力・持久力・跳躍力など、人狼は人間ではとうてい及ばないレベルにあるのは言うまでもない。
人狼の打撃力を含めた馬鹿力は人間の数倍どころではないだろう。
例えば・・・・・・。
10メートル程度の距離なら、相手が瞬きする間に一瞬で肉薄して倒すことができる。
100キロくらいの距離なら、本気で走れば1~2時間ほどで走破できる。
立ち姿のまま、その場で3メートルは飛び上がれる。
片手で100キロダンベルを振り回したり、コインを片手の人差し指と親指で二つ折りするのなんて児戯に等しい。
そんな身体能力を持つ人狼が、本気で忍術を学んだとしたら・・・・・・。
人間の忍者なら、とうてい出来ないことが普通に出来てしまう、スーパー忍者の出来上がりだろう。
実際に俺が10歳になる頃にはすべての虎鳴流の技を学び終え、自在に使いこなすことができるようになっていたのがその証だ。
思い出した技は、書き出して記録しておいた。「虎の巻」ならぬ「狼の巻」という訳だな。
そこからあとは、技を発展させ、磨きをかけることに注力している。
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