第2-3話 もう一体のセクサロイド

 旧王都郊外。


 軍の守備隊に周りを囲まれた広い空き地があり、ここに直径五十m位の巨大な、金属製の輪が直立している。

 これは異世界のエルフ王国とこの人間界をつなぐ為のゲート機構で、この輪を通れる大きさのものは全部、ここ経由であちらとこちらを行き来する。


 大戦時は、王国の遥か北方に直径二百mくらいの巨大なゲートが隠蔽されていて、大型の飛行戦艦などはそこ経由でこちらに進軍して来ていたのだが、なにせ稼働させるのに莫大なエネルギーが必要なため、戦後はこの旧王都郊外の小型ゲートだけが運用され、戦艦が通れる大型のものは運用が停止されているのだ。

 幸い、王国占領後には、夜逃げした王族達の残したこちらの兵器や装備が多数あったため、それを再利用して占領用のこちらの軍備を整えたと聞いている。

 

 確かに、これでは大型の兵器は通れない。もし戦争が再開するとなると、また北の大ゲートに火が入る事になるのか……。

 そう思ってパルミラはちょっと背筋がゾクっとした。


 自分が、このゲートをくぐって来たのには訳がある。

 そう、私は左遷されたのだ。


 自分の主張が聞き入れられないと、怒って女王様の横っ面をひっぱたいた事になっている。そしてそれは、女王様が私をこちらの世界に送る為の計略だったのだ。

 

 結局私は、亡きトルネリア公の後をついで、モンデルマの町の新領主として赴任する為にここに来た。

 もともとこちらの世界では、領主たる貴族達の権力は絶大で、軍と言えどもその行動にとやかく口は挟めない。それに私の家は、トルネリア公などと比較にならない程の上級貴族なのだ。

 またトルネリア公とモンデルマの一件は、例のアンドロイド事件にも深くかかわっている。新領主が多少口出ししても、軍も文句を言わないはずだ。


 まったく、こうした悪知恵が働くのも女王様の魅力の一つだなと、パルミラはしみじみ感じ入っていた。


 ◇◇◇


「新たな本部長に敬礼!」


 旧王都内のエルフ進駐軍本部に、新しい本部長が赴任した。

 前任者は、対レジスタンス包囲戦で多数の人的損耗を出した責任を取って辞任したのだ。


 新本部長ランダイスの気分は重かった。


 よりによって、これからレジスタンスと公式に会見して交渉だと!?

 私にどうしろと言うのだ。レジスタンスの要求を呑めば、本国の右翼連中に暗殺されかねんし、逆に突っぱねて戦火が拡大したり捕虜が処刑されたりしたら、それはそれで私も処刑されかねん。


 だが……やはり、捕虜の開放が第一優先か。


 そうなると、ほぼ一緒にこちらにモンデルマ領主として赴任してきたパルミラ公を上手く使うのが良いかも知れん。あの方は、婚約者のサルワニ少佐を助ける為に無理やりこちらに来たのではないかとの風評もある。交渉に協力していただき、責任の一端を背負っていただく方がよいではないか。

 問題が生じてもあの方なら、直接女王様と談判出来る……。


 こうして、新進駐軍本部長とパルミラの利害がくしくも合致し、二人は協力してレジスタンスとの交渉にあたる事となった。


 ◇◇◇


 同じ頃、エルフ国軍務省。

 エルフの作戦参謀達が、頭を寄せ合っている。


「とにかく、サルワニ少佐以下のエルフ兵を無事に返してもらわねば、戦争続行の許可が陛下から戴けません」

「まあ、人間達を適当にあしらっておいて、人質を返還してもらってから殲滅戦をすればよかろう」

「しかし、キャンセラーが効かない状況で、サルワニは対アンドロイドのこちら側の切り札です。そうやすやすと返してくれるとは……」

 方針の決まらなさそうな堂々巡りが繰り返されていた。


 その様子を、部屋の隅でじっと目をつぶって聞いていた士官が口を開いた。

「もう、いっそ大ゲートを開いて、飛行戦艦投入したらどうですか?」


「ザカール、無茶を言うな。またエルフの森で計画停電を実施する気か? 

 女王様はお許しにはならんぞ!」

「はっ。そんな事で戦力小出しにしてるから、埒があかないんですよ!

 だが……そうだな。いっそサルワニはあてにしないというのは?

 レジスタンスが怒って彼を処刑してくれれば、こっちは何の遠慮もいらない」

「だが、それではアンドロイド対策が……」


「そうですね。アンドロイドには……アンドロイドっていうのはどうです?」

「なんだと!? ふざけた事を言うな。

 王国のアンドロイドは、戦後の武装解除時にすべて始末したはずだ!」

「でも、それが残ってて、今大変な事になってる。

 それに終戦後、研究用の鹵獲品として、数体こっちに持って来ていると記憶しています」


「……使えるのか?」

「それは……ちょっと時間を下さい。調べてみます。ですがわが技術工廠なら、そんなに時間をかけずに何とか出来るとは思いますがね」


 ザカールと呼ばれたエルフは、参謀本部付き技術将校の少尉だ。

 彼は、大戦後から王国側の兵器の解析、研究を進めていた。そして……


(そう……あの機体。愚か者のどこかの伯爵が女王様に献上しようとしてお怒りを買い不敬罪で逮捕された曰く付きの一品が、わがラボにある。


 性交可能と思われる立派なモノを装備した男性型アンドロイド。

 

 まったく、なんだってあんなキワモノをよりによって女王様に献上しようと考えたのか、そいつの脳内を見てみたい気もするが、あの女王様がそんなもの相手にする訳がないではないか。

 だが、今回出て来た奴が女型との事だし、何か因果関係があるのかも知れない。


 今は人格データがなくて只のロボットだが、あれを自由に操縦できれば、くだんの女アンドロイドに対抗出来るのではないか。

 いや、技術者としては是非とも試してみたい。


 そう考えながら、ザカールはラボに向かう足を速めた。


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