第2-4話 積極的な女の子
ダルトン小隊では1A要塞内の探索は二人一組で行う事としており、JJはタルサとペアを組んだ。いや、組んだというよりタルサが無理やりねじ込んで来た。
JJにしてみれば、タルサは何かと距離が近くグイグイと迫ってくるが、別に悪い気はしないし相棒として大事にしないといけないとは思っていて、それなりにいなしながらも、うまくやれている様な気がしている。
1A探索中のある時、人が一人通れる位の縦穴、というより岩の裂け目があり、ロープで降りると人工の構造物のような壁が見える一角に出た。
もともとはちゃんとした通路があったのだろうが、エルフの破壊工作で落盤してふさがったものの様だ。
「ありゃ、ここで行き止まりか。おーいタルサ。そのまま戻れるか?」
「えー。この体勢でバックは無理―。一度JJの上に乗っかっていい?」
「えーっ、仕方ねえな。さっさと頼むぜ」
そしてタルサが、体育座りしているJJのお腹の部分に入り込んで来て、コアラの様にお互いに抱っこし合う形になった。
「おい、タルサ。近いって。向き替えたら、早い所上に戻ってくれ」
「えー。もう少しこのままがいい」
「ふざけんなよ。重いだろ。
それにお前の胸がおれの顔に当たるし、股だって……」
「ふふっ、意識しちゃう? そんじゃあ。ほれほれー」
「うわっ。ふざけんなって……あっ、馬鹿野郎! そんなとこ触るな!!」
「うわー。JJのエッチ。私で感じて大きくなってるー!!」
「あほーーーー!」
JJが思い切りタルサを突っぱねたら、ボコっと床が緩んで崩れ落ち、二人ともそのまま下に落下した。
ズゴン!!
凄い音がしたが、JJが背中から落ちて受け身を取った感じになった。
タルサはJJのお腹の上にいて無事だったが、思い切り腹に乗られて、JJはのたうち回った。
「ぐゎっはっ。くっそー、痛ってーーーー」
「ああ、ごめんJJ。大丈夫?」
「だからふざけんなって言ってんじゃん! こういう所は危ねえんだよ!!」
ようやく痛みも落ち着いて来て周りを見ると立って歩ける程の広さがあり、JJはタルサの手を握って慎重に前に進んだ。
そして、眼の前にかなり広い部屋の様な構造物を発見した。
「よし。入って見るぞ」
「ちょっと待って。まず確認しなきゃ。
酸素濃度、正常。二酸化炭素濃度、正常。空気圧、正常……ガス検知なし。
オールグリーン!」
女の子としてはちょっとめんどくさい部類のタルサだが、こうした細かい作業は得意の様で、大雑把なJJとしては大変助かっているところではある。
部屋に入ると……棚がたくさん並んでいて、崩れてしまってはいるが書類やら本やらが積まれたり散乱したりしている。
「これって……図書館?」タルサがそう言った。
「としょかん? なんだそれ」
「もう、JJは……そっか。スラムには無いか、図書館。
私は小さいころ、お兄ちゃんに一度連れて行ってもらった事があるよ。
ここにはね。本とかがいっぱい蓄えられているんだよ」
その後、なんとか元来た道を戻り図書館の存在を報告した所、要塞内が騒然となった。指揮官達は敵や戦闘に関する資料などがないか期待し、兵士達は推理小説やラブコメなどがないかと期待した。
数日後に別の調査団が入り確認したところ、どうやら王宮の昔の公文書を疎開させたものらしい事が判明した。
いまさら国民を裏切った王室の資料など……誰もが期待を寄せた事を後悔した。
◇◇◇
「おーい、JJ。元気かい?」
今日も1A細部の調査任務を終えたダルトン小隊が、身体を洗おうと要塞近くの川に降りて行った時、JJは遠くから声をかけられた。
メランタリの小隊が、周辺の定期偵察から戻って来た様だ。
「やあ、メランタリ。お陰様で変わりないよ。毎日モグラみたいだ。
そっちはどうだ?」
「うん。あたしは外部の偵察とかがあってるかも。あんたみたいな穴蔵調査だと気がめいっちゃうわ多分。そんでJJ。今度非番いつ? たまには一緒に話をしたいよね。出来ればスフィーラも入れてさ」
「ああ、そうだな。でもあいつ動くのがまだ大変そうだからな。
メンテスタッフが来てから、俺もこのところあまり会ってないし」
「そっか。でも……まああたしと二人だけでもいいけど、どう?」
「えっ?」
JJはちょっとびっくりした。メランタリまさかまた……。
そんな妄想をしていたら、脇からグイっと手を引っ張られた。
「ほら、JJ行くよ。集団行動を乱すな!」
そういってタルサがグイグイJJを引っ張っていく。
「あっ、ああ。それじゃ、メランタリ。またな」
そしてメランタリと離れた所で、タルサがボソッと呟いた。
「あの猫女。私のダーリンに手を出すなっちゅうの……」
「えっ? タルサ。何か誤解してないか? 俺とメランタリはそんな仲じゃ……」
「ほんと!?」
「あっ、いや……」
「あー。怪しい! でもいいわ。
JJがあの猫とヤッてても私、別に気にしないし。
だいたいあの猫女。
しょっちゅう男とっかえひっかえしてて、前から気にいらないのよね!」
「いや、メランタリはそんな人じゃ……」
「そうだもん! 私、4Jでずっと見てたけど、あいつがおんなじ男と寝てる所なんて見た事ないもん!」
パンッ!!
JJが、タルサの頬を平手打ちした音だった。
タルサが驚いた様な顔でJJをみつめ、やがて頬を一筋の涙が伝わった。
「あっ、すまん。でも……メランタリはそんなんじゃないんだ……」
そしてJJは、自分とメランタリに起こった出来事をタルサに話してやった。
「そうか。JJが妹さんを失ったのは小隊長に聞いてたけど……猫……メランタリもおんなじ時に妹さんを……それで……寂しかったんだね」
「ああ。多分そうだよ。俺だってあの日の事を思い出すと胸が苦しくなる。
寝る時一人だと怖くて、誰かにすがりたくなる気持ちも分かるんだ」
「そっか……でも、それは私も同じかな。お兄ちゃんがいなくなっちゃってから、私の胸にもポッカリ穴が開いちゃってるのかな。
だからJJ……私、あんたの事、本気だよ!」
そう言いながらタルサがJJの首に抱き着いて、唇を近づけて来た。
「あー、JJ。久しぶりー……って、あれ? お取込み中だった?」
「えっ? スフィーラ? お前もう一人で歩けるんだ?」
見ると、スフィーラとメリッサがタオルを持ってそこに立っており、JJとタルサの顔を見比べながら訳知り顔でニヤニヤしていた。
「いや、別に何でもない。目にゴミ入ったのを見てもらっただけだ!
なんだ、お前も水浴びか?」
「そうだよ。私は完全防水だから、ちゃんと水浴び出来るのよ。
それでそちらの可愛らしい方は? 小隊のお仲間?」
「ああ。こいつは同じダルトン小隊のタルサ。一つ下だ」
「ああ、タルサさん。私はスフィーラ。それでこっちが私の保護者のメリッサ。
JJが迷惑かけてるかもだけど、よろしくね」
「迷惑なんか、かけてねーし……」
何よこいつ。こいつが例のアンドロイド……。
なんでそんなにJJに馴れ馴れしいのよ!
「はい」と返事はしたものの、タルサは精一杯の虚勢をはって、アリーナにガンを飛ばした。
「さあタルサさん。あなたも水浴びでしょ? 一緒に行きましょう。
JJが小隊でどんだけ偉ぶっているか、私に教えて頂戴!」
そう言ってアリーナはタルサの手を引っ張って川に向かった。
◇◇◇
もう秋の気配はしているがまだまだ残暑厳しく、夜になっても気温はそれほど下がっていない。川の一角に男女別で囲いが立てられていて、1Aの兵士達は、そこで行水をする。
本当はお湯がいいのだが、ここではそんな贅沢は言っていられない。
なので、あとひと月もすると、寒くなってきてここも使えないだろう。
川の流れは比較的ゆっくりで、深さが膝位ある。
タルサはそこで川底に座って、流れる水にまかせながら身体を拭いている。
そして拭きながらチラチラとスフィーラを見るが……。
あいつ、なんてナイスバディなの!?
それにモデルと見間違う位の美少女で……あの人、アンドロイドよね!?
なのに見た目は、継ぎ目とかネジどころか普通の人間の少女と何も変わらない。
そう胸もお尻も……あそこの作りだって、まったく人間と違いが分からない。
あれではJJでなくとも、男だったらイチコロなのではないか。
それに引き換え、自分は身体も貧相で胸もあるかどうかで、ソバカスはみっともないし……そんな事を考えて暗くなっていたら、スフィーラが近寄って話しかけてきた。
「タルサさん。さっきはゴメンね。JJと二人の所を邪魔知っちゃったみたいで」
「えっ? あっ、はい。もうちょっとでキス出来た……」
「……JJの事情は知ってるのかな?」
「はい。本人や小隊長から聞いてます」
「そっか。それじゃ、よろしく頼むわ。
あいつ素直じゃないけど、いい奴だから……」
「あの。スフィーラさん? それって……」
「私じゃ、人の心に開いた穴は埋められないから……」
「あっ……」
そう言って、スフィーラは川から上がって脱衣所の方に歩いていった。
(スフィーラさん。自分がアンドロイドだから……。
それで私を応援してくれたの?)
タルサはちょっと複雑な心境になったが、スフィーラに肩を押された様な気がして、ちょっぴりうれしくなった。
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