第2-2話 陰キャオタクエンジニア

「ああ、スフィーラ。ここにいたのね。調子はどう?」


 1A要塞に入って一週間程経過した時、メリッサが合流してきた。

 アルマンが早々に手配してくれた様だ。

 これで膝の機能が直せる算段が付けばいいのだが。

 

 見ると、メリッサの脇に男の子が立っている。

 JJと同じかちょっと年下位に見えるのだが……。


「ああ、この子はね。メトラック。私の弟子よ」

「ああ、そうなんだ。初めましてメトラック。私がスフィーラよ」

 スフィーラが握手しようを右手を差し出したが、メトラックは気が弱いのか、メリッサの後ろに隠れてしまった。


「ほらー、メトラック。しっかりしなさいよ。あんたはこのS-F10RAスフィーラのメンテナンス主任にならなきゃいけないんだから! ちゃんとなじみなさい」

 メリッサが、後ろに引っ込んだメトラックを、スフィーラの前に押し出す。


「メンテナンス主任? この子が?」

「そう。私ももう若くないからねー。

 図面やモニタの文字もルーペじゃないと見えないし。

 今後もあなたと作戦続けるなら、長期的に若いエンジニアを育てないとね。

 それでこの子。性格はこんな感じの陰キャオタク少年なんだけど……才能は大したものなのよ! 

 スラムで廃品・スクラップを再組立てしたりして生活してたらしいんだけど」


「へー。それじゃメトラック。改めて宜しく……で、陰キャオタクって何?」

 スフィーラにそう言われて、メトラックは顔を真っ赤にして、またメリッサの後ろに隠れてしまった。


 ◇◇◇


「それじゃ、スフィーラ。太腿から下をパージするから、モルツにそう伝えて」

 1A要塞内に、医務室兼作業場として設けられた一室のベッド(といっても一枚岩のテーブルだが)にスフィーラが横たえられている。今からメリッサが、サルワニの特殊徹甲弾で撃ち抜かれた両膝を診断し、修理方針の検討をするのだ。


【それでは……下半身の感覚遮断。制御遮断。両下肢スキンパージプロセス開始】

 アリーナは、両足の感覚がなくなったのを感じた。はは、麻酔の替わりね。

 プチプチと輪ゴムがちぎれる様な音がして、ぐるりと両の太腿の付け根に近い部分を伝う様に線が入っていく。まったく痛くはないが、見ていると不思議な感じだ。


「それじゃ、メトラック。スフィーラの足のスキンをはずして」

 メリッサが、メトラックに作業を指示する。

「あ。でも……」

 逡巡するメトラックを前に、メリッサが近づて来て、スフィーラのボディに掛かっているシーツを思いっきり胸の方にはね上げて、メトラックにここに指を突っ込めと、太腿に出来たすき間を指示した。


「あの……メリッサ。感覚はまったくないのですが、これじゃぱんつが丸見えで恥ずかしいです」アリーナが小声でそう呟いた。


「えっ? あー。ごめんごめん。

 私が若い頃は、人格入ってなかったから何にも気にしてなくって……」

 そう言いながらメリッサは、ギリギリぱんつが隠れる位の所までシーツの位置を戻してくれたが、あまりに際どくてこれはこれで恥ずかしい……。

 

「あ。それじゃ……ごめんなさい!」

 そう言ってメトラックが、右足のスキンに手をかけて思い切り引っ張ると、足の表皮がズボっとはずれて、スフィーラの骨格ともいうべき特殊合金のフレームが露わになった。

 はー。中はこんな風になってるんだ……。


「ねえこれ。肉と皮を剥いじゃって、後で元に戻せるの?」

「大丈夫よ。スキン部分は柔らかいから、ナノマシンが一週間くらいで全部元通りにつないでくれるの」

「ふーん」


 ちょっと待て! もしかして処女膜パーツとか膣ユニット交換とかも、こうして肉と皮をはがすのかしら? 

 実施するつもりはないけど、ちょっとグロいわね……。


 左足のスキンもメトラックに外され、損傷の状況をメリッサが確認している。

 ややしばらくして、その確認作業をメトラックにもやらせている。

 OJTも平行して実施されているのだろう。


「どう思う?」メリッサがメトラックに問う。

「精度の高い測定器がないと分かりませんが、弾が貫通したパーツ自体が全体に歪んでいると思います。本来ならそのパーツ全とっかえがセオリーだと思いますが、そんなの有りませんので……ここと……ここを削って関節が稼働できる様にして、空いた穴はとりあえず充填剤か何かで埋めるしかないのでは? 強度は以前より落ちますが、稼働に支障は出なくなります」

「OK。正解よ。それで行きましょう。充填剤は何を使う?」

「ただ硬いだけではなく柔軟性も必要でしょうから、樹脂系のものがいいかと……」


 ほー。何言ってるのか全く分かんないけど、この子、ちゃんとメリッサと会話出来てるわ。アリーナは、メトラックをちょっと見直した。


 半日ほどで二人の修繕作業が終わり、最初にはずした足の肉皮部分を元に戻す段取りに移った。


「それで……スフィーラ、ごめんね。これ被せて元に戻す方が大変なのよ……」

 そういいながら、メリッサは、またシーツをスフィーラの胸までまくり上げる。

 いやこれ、先に謝られても……。


「それじゃ、これ被せるのはコツがいるから、最初は私が手本見せるね。

 メトラックは太腿の付け根部分をしっかり抱きかかえて抑えて!」


 えっ? メリッサ。それって?

「スフィーラ……ごめんなさい……」

 メトラックが顔を耳まで真っ赤にして、スフィーラの右太もも付け根付近に手をまわして、がっちり抑え込んだ。

 いや。ちょっと待って。メトラックの顔が近い……あそこに近い!


「ほら、メトラック。しっかり押さえて! 動いたらやりずらいの!!」

 メリッサの言葉に、メトラックも必死で力を籠めるが、彼の身体が徐々にスフィーラの上に寄りかかってきて、顔が股間にうずまらんばかりに接近している。


 ふひゃー!! これで感覚あったら、私、また魔法が使えちゃうよーー!!


 三十分ほどで、両足の肉皮とも元の位置に戻った。

 メトラックは、もう全然アリーナと目線を合わせてくれない。

 アリーナも恥ずかしくて半泣きであったが、その顔を見てメリッサが言った。


「ああ、ごめんねスフィーラ。でも、この位の事は慣れてもらわないと。

 いざとなったら、あなた。お尻の穴もメトラックにほじってもらわないといけないのよ」

 ああ……メリッサがこんなセクハラおばさんだったとは……。

 でも……はずかしいのはメトラックもおんなじ様だし……少なくとも便秘には気を付けようと、アリーナは本気で思った。



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