第22話 家事全般は0点かも

 スフィーラがアンドロイドである事がメリッサから改めてアルマンに報告されたが、その人格がアリーナ姫であり、実態がセクサロイドである事はアルマンにも伝えなかった。

 アリーナとメリッサで話合い、レジスタンス組織内に予期せぬ動揺を起こさぬ様にと考えての事であったが、アルマンもまた、スフィーラがアンドロイドである事をギリギリまでメンバーに隠しておくことを決意した。組織内にいらぬ甘えや混乱が起きる事を危惧しての事だった。


「そんじゃ、スフィーラ。お前も釈放だ。

 とりあえず今まで通りみんなと接してくれ。

 お前がアンドロイドだっていう事は、当面みんなにも秘密にしておくからな。

 だが、服はみんなと同じ迷彩戦闘服にしろよな。

 その痴女服のまんまで居られちゃ、ベース内がイカ臭くなっていけねえ……」

「言われなくても迷彩服にしますって。

 でもこのボンテージ、そんな変な臭いしてないから!」

「いや、そういう事じゃねえんだが……」


 メリッサは、アリーナとまた後日の面会を約束して自分のブランチに戻っていった。 


 ◇◇◇


「それじゃ、メランタリ。頑張ってね!」

「ええ、私は大丈夫。

 あなた達と別れるのはちょっと寂しいけど、そんなに距離離れちゃいないし。

 私は、エルフに踏みにじられている獣人に手を差し伸べる事が出来る様精進するから、スフィーラもJJも頑張ってね。人間の尊厳の為に!」


 メランタリは、このブランチから北東に三十kmばかり離れた、獣人チームがある4Jブランチに合流する事になった。でもここと密接な交流はあるらしいので、ちょくちょく顔を合わせる事もあると説明をうけ、お互いの目標に向かって精進する事を優先しようと話し合った。


 アリーナとJJは、そのままアルマンの元で、軍事教練とレジスタンス組織の下働きの日々を送った。


【どうやらここの兵装はほとんどが、自作ないし既成品を分解して再構成したものの様です。どうりで本機の兵装データに無い訳です】

「そうなんだ。どっから手に入れてんだろ?

 でもモルツ。あなたエルフ側の兵器とかも分かるの?」

【すでに王国側がデータとして持っていたものなら分かります。ですが、今までエルフの兵装は、キャンセラー位しか確認出来ていません。あとはほとんど旧王国の装備品をそのまま使用していますね】

「そうなんだ。これからもそうだったら分かりやすいんだけど、エルフの新兵器とかが出てきたらヤバイかもね」

【肯定】


 そんな会話をしながら、アリーナは銃や爆弾などの構造を学んでいった。


 ◇◇◇


「もうこれ、男物のぱんつじゃないのよー。だいたい、私は洗濯なんて……」

「何、文句言ってんだよ! お姫様でもあるまいし。

 あー、スフィーラそんな絞り方じゃダメだって! 

 ちゃんと絞れてなくて、びしゃびしゃじゃねえか」

 

 実際、アリーナは自分で洗濯などした事はない。

 いや洗濯だけではなく、その他の家事一切が初体験だった。

 あんまりJJが、絞り方をうるさく言うので思い切り絞ったら、バリバリっと音がして、男物のぱんつがバラバラになった。


「あー、何やってんだよ。この怪力女!」

「違うわよー。布がもう擦れて薄くなってたのー」


「くっ、はははは……お前ら、ほんと仲いいのな。もうヤッたのか?」

 声のする方を見たら、アリーナとJJにいつも軍事教練を付けてくれる、ダルトンという二十代前半の先輩兵士だった。


「あっ、あっ……そんな、ヤッたとか……別に仲よくねーし……」

 JJが顔を真っ赤にして否定する。

「ほー、そんじゃあ、スフィーラちゃん。

 おれとヤラねえ? 俺、結構テクニシャンだぜ?」


 この先輩のセクハラは今に始まった事ではなく、これまでの付き合いで実際は心根の優しい人だと分かっている事もあって、アリーナもあまり気にしない様にしていたのだが、JJが突然叫んだ。

「……だめだダルトン先輩! スフィーラは俺の女だ!!」


 あらっ!? うれしい事言ってくれるじゃないの。アリーナはちょっとそう思ったが、そんな事を言ってしまって自分でもびっくりした様で、JJは耳まで真っ赤にしながらうろたえている。

「あっ、いや。俺の女ってのは、別に好きとかそう言う訳じゃなくて……いろいろ世話になってるんで、守ってやらなきゃいけねえというか……」

 何よ、ヘタレちゃって……。


「ほらそこ! サボるんじゃないよ! 

 ダルトンも新入りからかってないで、さっさと自分の持ち場につきな!」


 声を上げたのは、生活班の班長をしているコールネンおばさんだった。

 五十近いと思われるが、背も高く恰幅のいいご婦人で、このブランチの生活部分の責任者をしていて、若い兵士達も彼女には頭が上がらない。


「はは……それじゃ退散するわ。まあJJ。しっかり頑張れよ!」

 そう言ってJJの肩をバンバン叩き、ダルトンは奥に引っ込んで行った


「まったく……ああ、スフィーラ。破けた洗濯モンは気にしなくていいから。

 どうせ、元々擦り切れる寸前だったんだろうさ。でもJJ。

 あんたがしっかりしないから、ダルトンなんかにからかわれるんだよ!」

 このおばさん。女性には優しいが、男性にはいたく厳しいと評判だ。


 そこへ、アリーナ達が牢にいた時、日々食事を持ってきてくれていた少女が駆け寄って来た。


「生活班長。野菜のストックが少なくなってる。山菜採りに行っていい?」

「ああ、ココア。そうだね。もう雪も大分溶けて来てるし、丁度いい時期かもね。

 それじゃあJJとスフィーラ。採取なんて新入りに丁度いいクエストだ。

 ココアについて行って、山菜採りをしてきな」


「ああ。この子、ココアちゃんて言うんだ。

 わかった、俺に任せろ! この子は絶対俺が守る!」

 JJが意気込んでそう言った。


「何言ってんだい。ココアが採取班のリーダーだよ。

 この子についていって、しっかり学んできな!」

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