第21話 ばれちゃった!

 アリーナ達が、アルマンの拠点の牢に入れられてから十日ほど過ぎ、モンデルマの状況を確認していたアルマンが、牢の前にやって来て言った。


「オマエらの話は嘘じゃなかった様だな。

 モンデルマの領主トルネリア邸が夜間に火災となり、領主と側近のメイド二十五名全員焼死とされていた。出火原因は、火の不始末だそうだ。

 まあ、オマエらに聞いた話とは結構違うけどな」


「ちょっと待ってよ! 二十五人って……。部屋には、まひるちゃんとコイマリちゃん含めても、十人も倒れていなかったわよ!」アリーナが大声で叫ぶ。


「オマエらの話を信じるなら……他の部屋で死んでたか、あるいは口封じされたか」

「そんな……」


「まあ、俺もエルフ側の公式発表を鵜呑みにする程、お目出たくはねえけどな……。

 それでボウズ……JJだっけか? 

 お前は釈放だ。紛れもねえ、正真正銘のスラムの孤児だと確認出来た。

 ようこそ、レジスタンスへ」

 アルマンがそう言い、JJが牢から出された。


「何だよ正真正銘って…‥で、おい、おっさん。姉ちゃん達は?」

 そういうJJを無視して、アルマンがメランタリに語りかける。


「おい。猫のねーちゃん。お前は獣人だ。

 エルフ側のスパイでないという確たる証拠はあるか?」

「……そんなもの有る訳ないでしょ! でも……今、エルフの領主を私の目の前に連れて来られたなら、その場で首をかき切って見せるわよ!!」


「そうか……メランタリ・ブルーベイム。オメエの事も調べさせてもらった。

 異世界でどうだったかまでは知らねえが、こっちに移民で来てからは、あんまりロク目に合っていない様だな。そんでもって今回の一件だ……いいだろう。

 オメエも信用してやる。ただし、レジスタンスの獣人チームに入ってもらうぞ」


「他にもいるんだ……獣人」

「ああ、エルフにひどい目にあった獣人はオメエだけじゃねえって事だよ」


 メランタリも牢から出されたが、アルマンはJJと共に別室に移るよう彼女に指示した。

「でも、まだスフィーラが……」不満そうなメランタリとJJは、アルマンの部下達といっしょに、彼らに引きずられて牢の前を去った。


「さーって、痴女の姉ちゃん。残りはオメエだけだし、こっちも俺一人だ。

 そろそろあんたの秘密をバラしちゃくれねえかな?」

「…………」

「はは。相変わらず黙秘権かい……そうかい、そうかい。

 ところでオメエ、人間か?」


「何よ、突然!! こんな美少女つかまえて、なんの言いがかり!?」

「いや……無理やり身体検査してもいいんだが……まあいいや。

 おーい! 入って来てくれ!!」


 アルマンに呼ばれて、一人の中年女性が牢の前に現れた。

「このおばさんは、メリッサ・バークレー。

 急遽、南のブランチから来てもらったんだが……」


 その女性は、なにか恐ろしいものでも見ているかのような形相で、アリーナを睨み続けている。何よ、この人。

 アリーナが訝し気にその女性をにらみ返していたら、その女性が口を開いた。


S-F10RAエスエフワンオーアールエー……」

「えっ!?」

 

「間違いないわ! 私が見間違えるはずないもの。

 あなた……S-F10RAよね?」

「ち、ちょっと、おばさん。いったい何の事やら……」


【メリッサ・バークレー。

 S-F10RAの開発チームに在籍。年齢・容姿の特徴から本人と推定】

「えっ!? それじゃあ、この人って……スフィーラを知ってるの?」

 

「いやな。その年齢で軍用ヘリ飛ばせるとか、どこかで軍事教練でも受けてなきゃ無理だと思って、レジスタンスの他のブランチにオメエの名前と特徴を流して情報を募ったんだ。そうしたら、このメリッサさんから連絡があってな。

 まさかとは思ったんだが……まあ、こっそりアンタの排泄物を確認させてもらったら、食ったもん全く消化しちゃいなかった。それで……」

「ちょっと!? 何よ、あなた。乙女のアレを勝手に調べたの!?」

「ああ。悪い、悪い。でも何か調べようったって協力しちゃくれなかったろ?」


「ああ。S-F10RA……まさかこの目であなたが稼働しているところを見られる日がくるなんて。でもあなた。その人格データ……いつリリースされていたの?

 それに二十年以上どうやって稼働を続けていたの? どこかに支援ベースでも?

 終戦直前。ボディーは完成していたけれど人格データが間に合わず、結局、正式稼働出来なかったはずなのに」


【アリーナ。メリッサにあなたと本機の事情を説明する事を推奨。

 彼女との連携は本機にもメリットがあります】


「あの……メリッサさんと二人だけにしていただけませんか?」

 アリーナはアルマンにそう告げた。


 ◇◇◇

 

 別室で、アリーナはメリッサに自分に起きた今までの事をすべて語った。


「S-F10RA……念のため、確認させてもらえる?」

 そういいながらメリッサが、アリーナにグイっと顔を近づけてくる。

「ひゃっ!」

 アリーナが顔をそらそうとするが、それに手を添えながらメリッサが言った。

「動かないで目を開いて。

 右目の虹彩のところにパーツ番号とシリアル番号の刻印があるはずなの」

 メリッサが、ペンライトでスフィーラの瞳孔を観察する。


「P/N:S-FA10RA-996、S/N:KHS0518ー0001。

 確かに最終リビジョンの一号機ね。でも、よくぞ御無事で……アリーナ姫」


「あの……スフィーラと呼んでいただいていいですか? 

 私の正体は、いっしょにここに来た仲間にもまだ秘密なの」


「分かりました……スフィーラ。それにしても、本当に感慨深いわ。

 若い頃私は、あなたのボディ部分の設計チームで……そう、乳房サイズ変更機能とか…………でも、今考えると何であんな機能が必要だったのかしら」

「えっ? それはちょっと……引くんですけど」

「はは、ウソウソ。あなたの機能にはみんな意味があるのよ」

「あのー、それは?」

「あー、それは話すと長くなっちゃうから、おいおいね。

 それにしてもこんな偶然があるなんて……神様って本当にいるのね」

「そうですよね。まさかスフィーラに私の人格が入って動き出しちゃうとか……」


「それもそうなんだけど……。

 スフィーラの容姿には、元になったモデルがあってね。

 今は空爆で見る影もないと思うけど、旧王都の中央公園の真ん中にあった銅像がそうだったの。

 の像がね」

「あっ!」


【ジョシュア・エルリード・フランネル王は、娘の三回忌に中央公園に銅像を建立したと記録にありますが、それは成長したアリーナの姿を模したものだったのですね】


「父上……」スフィーラの眼から、大粒の涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。





 






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