第20話 エルフの女王様
アリーナ達がレジスタンスのアルマンと合流して数日後。
異世界のエルフ女王ヨーシュアの元に、トルネリア公死去の詳細が届いた。
ヨーシュアは、もう五百年以上エルフの女王として君臨しているが、見た目は十代半ば位で、実際の所、何歳になるのか知る者は少ない。
「それで……この事件が、旧王国のアンドロイドによるテロという事で、間違いはないのですね?」
「はっ陛下。いくつかの物的証拠も揃っており、そのアンドロイドは今だ逃亡中との事ですが、軍が必死に捜索を行っておりますので、間もなく逮捕出来るものと存じます」
「なぜ、今になってそんな物騒なものが……。
ですが、それは軍にお任せしましょう。
それで、トルネリア公は……なんと……首を折られたのか……」
「申し訳ございません、陛下。
そのようなむごいご報告はお耳に入れない方が……」
「いえ。いつも申している通り、王たるもの。
事実から目を背けてはいけないのです。それで、この……。
公の部屋に多数の少女の遺体があったとありますが、これは一体?」
「それもアンドロイドの仕業です。トルネリア公は、病気の獣人や人間の貧しい少女達を憐れみ、ご自宅で療養させていたのです。
それがテロの巻き添えになったのかと思われます」
「なんとむごい……一刻も早く、その狂暴なアンドロイドを捕まえる様、軍によくよく申し付けて下さい。そしてこの少女達の身内にも手厚い補償をお願いします」
「御意」
◇◇◇
「という事で諸君。女王様より直々に、例のアンドロイド破壊の勅命が下された。
我が軍の威信にかけても、やつを抹殺せねばならん」
エルフ進駐軍最高司令部の会議で、最高司令官自ら将軍達を叱咤激励した。
「それにしても、どこに隠れたものか……最後に確認されたのが、ヘリを奪われた場所で、そのヘリはソンメルソンの北西二百km位の所で我が軍の戦闘機に撃墜されましたが、その後の消息はつかめておりません。
まさかアンドロイドがレジスタンスと共謀するとは考えにくいのですが……」
「そうだな。だが女王様の肝いりだ。あらゆる可能性を検討せねば……それよりも問題なのは、キャンセラーが効かなかったというではないのか?
一体どういう事だ。新型なのか?」
「わかりません。当時小隊が使用していたキャンセラーは、アンドロイドに破壊されており、もともと不具合があったのかも不明です。
ですが、生き残った兵士達は、口々に女だったと……」
「女とは……やはり、キャンセラー対策された新型なのではないか?。
王国はどこにそんなものを隠していたんだ!
というより、なんで今更出て来た! もう守るべき王国など無いではないか!」
「落ち着いて下さい、将軍。
ともあれ、キャンセラーが効かなくては打つ手が限られます。
それで私は、元対機械歩兵師団のサルワニ少佐をこちらの世界に招聘しました」
「サルワニ……どこかで聞いた事が……ああ、あのサルワニか?
我が軍がキャンセラーの開発に成功する前、敵のアンドロイド歩兵の前面を一手に引き受けていた『鉄槌のサルワニ』」
「そうです。キャンセラー全盛になって直接前線に出る必要が無くなりましたので、指導者的な立ち位置でエルフの国で軍事教官をやっておられたのですが、キャンセラーが効かないとなると、彼が一番適任かと思い、声をかけたのです」
「そうか。それは心強いな。すぐに彼にも手持ちの兵を編成してやれ」
「
◇◇◇
「まさか、この後に及んで私に声がかかるとはな……」
エルフ王城近くの軍の官舎の一室で、一見三十代半ばと思われる風貌の、エルフ男性がコーヒーを飲んでいる。
エルフ軍のサルワニ少佐は、軍歴二百年超のベテラン兵士だ。
開戦後しばらくして、旧王国がアンドロイド歩兵を前線に投入して来たとき、エルフ軍は大きな混乱に叩きこまれた。
相手は何の感情も持たない機械で、非情であり恐ろしい力を持っていた。
しかし、所詮は機械。力には力だ! そう考えて私は、とにかく奴らに効率良く物理ダメージをたたき込む戦法を研究し続けた。そしてそれは徐々に効果を発揮し、まあ一気に勝てないまでも、直ぐには負けない程度に反撃出来る様になった。
だがその後すぐキャンセラーが開発され、俺の出番は無くなった。
そう……無くなったはずだったのだが……。
ふっ。所詮戦争の兵器開発なんて、イタチごっごなんだな。
キャンセラーが作られ、それが効かない兵器が作られ、またそれに対抗して……
あの聡明な女王様が、それに気づかないはずはないとも思うのだが……。
◇◇◇
再び、エルフ進駐軍本部
「それでは、この際、東部方面のレジスタンスも一掃するという事でいいかね」
「問題ありません。やつらは小隊規模で各地に散在していますが……こう、四個師団くらいで周辺から追い立てて、最終的にこのフラボイ山地に全員追い込みます。
そして密集して揃ったところを空爆でドカンと……」
将軍達の会議の席で、作戦参謀が地図で作戦概要を説明している。
「うむ。それでいいだろう。作戦準備に入ってくれ」
司令官が、その作戦にGoをかけた。
「おいおい。それじゃ、私はどうすればいいんですかな?」
声を発したのはサルワニ少佐だ。
「いや……少佐にただのレジスタンスを追い立てていただく必要はありません。
今回は、面で作戦を展開しますので、当該領域に例のアンドロイドがいた場合、必ず引っかかります。その時念のため、キャンセラーを持った部隊の後詰をお願いします」
「ふー。それじゃ、キャンセラーが効かないというのが誤報だった場合、私の出番は無しですか。せっかく中佐に昇進するチャンスだと思って、勇んで出て来たのですが」
ははははははは。周りの将軍達が笑った。
「まあまあ、少佐。戦わずして勝つなら、上の上策ではないですか」
ちっ。好きに言ってやがれ。
せっかく、あっちの世界から久方ぶりにこっちに出て来たんだ。
少しは楽しませてほしいものだ。
それにしても、女のアンドロイドか……。
王国は、なんてゲテモノを作りやがったんだ。
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