第7話 もしかしてペット?
メランタリにくっついて、噴水から街のはずれの方に歩いて行くと、さっきより街並みが雑然としてきた。
「ここだよ、私の家。遠慮なくどうぞ」
アリーナは、何の変哲もない普通のアパートの一室に通された。
「お姉ちゃん、お帰り!」
そう言って、メランタリによく似た、目がクリクリした大層可愛い猫型獣人の女の子が迎えてくれた。メランタリの妹さんかな。
「ああ、これは妹のコイマリ。狭いけど、遠慮しなくていいから」
「えー、お姉ちゃん。この人だれー? なんかすっごくエッチな恰好してるね」
「ああ、この人はスフィーラちゃん。人間の夜逃げ人だってさ」
「あー、お姉ちゃん。また人間拾ってきたんだ」
「いいじゃん。人間って、獣人より絶対可愛いし」
「うん。私も人間好き。
肌もすべすべで毛深くないし……でもうち、貧乏だから飼えないよ」
ありゃ。なんかペット感覚?
それにしても私、子供からもエッチに見えるんだ……。
それから三人で夕食を取り、その後、この町の事を二人に教えてもらった。
まず区画の件だが、これは身分によって明確に居住区が分けられていて、第一区画はエルフ。第二区画は獣人と一部魔族。第三区画は人間と線引きされていて、用がなければ、上位区画への入場は禁止されているとの事だった。
そして人間は第三区画でその日暮らしをしている者が多く、第三区画の特定の通りは花街になっていて街娼も多く立っているとの事で、彼女達のお客は主に獣人だが、稀に、エルフもお忍びで第三区画に来る事があるらしい。
また、第三区画にはスラムもあって、スリや窃盗だけでなく、強盗や殺人なども日常茶飯事との事だった。
「うわー。その話聞いちゃったら、第三区画には行きたくないわよね」
アリーナはちょっと引き気味だ。
「でも、人間は第三区画しか住むところないわよ。
エルフや獣人に雇われれば、上位区画でも居住許可下りるけど。
この家もギリギリ第二区画内なんだけど、筋一本向こうは第三だから……行ったら分かるけど、あっちはもっと雑然としてるわよ。
それで、どうするの? 第三で住むところ探して……やっぱり娼婦でもするの?
お金ないと何も出来ないわよ」
「もう! 見た目の第一印象から離れて下さい!
私、娼婦とかやらないから!
それに、ほら! お金だって……」
【いけません! アリーナ!】
あっ! しまった。勢いでつい……。
「何これ? こんなお金見た事ないわよ。外国のお金?
……やっぱりあんた……もしかして亡命してきた外国のやん事なき姫君?」
「いや、そんな……そうだったら、いいんだけどなー」
「ふっ、そうよね。そうだったら、とっくに軍に捕まってるわよね」
「お姉ちゃん。私、スフィーラとお風呂入っていい?」
コイマリが眠そうな顔でメランタリに聞いてきた。
「ああ。もう風呂沸いた頃だろ。ちゃんと隅々まで洗ってやんなよ」
「うん……ねえスフィーラ。あなた、シャンプー大丈夫?」
ああ、やっぱりペット扱いだわ……。
アリーナは、風呂の鏡で初めてスフィーラの身体をよく見る事が出来た。
腰までの長いストレートな黒髪。切れ長な眼と大きなとび色の瞳。
顔の輪郭は小振りで、左目の下に泣きホクロがある。
健康そうな肌色で、女性らしい柔らかいラインのボディ。
少女のあどけなさと大人の女性の色香を併せ持つ、女の私から見てもホレボレするような美少女だ。
髪は自分と同じブロンドがよかったかな……でも最後の方は、抗がん剤の副作用でほとんどなくなっちゃってたから、あれに比べたら、髪が有るだけでありがたい。
髪型を変えてもいいのかモルツに聞いたら、熱で縮めたり延ばしたりは出来るが、カットには特殊鋼のハサミが必要で、切ったら二度と伸びないと言われた。
とにかく、待望のお風呂だったので喜んで入り、コイマリといろんな話をした。
コイマリは十二歳、メランタリは十九歳との事で、大戦後、あちらの異世界から家族で移民して来たらしいが、こちらの感染症が原因で、両親を五年前に無くしたらしい。その後、メランタリが必死に働いて、なんとか今の生活が出来ているとの事だった。
「学校には行っているの? お友達はいる?」アリーナがコイマリに問う。
「ううん。お姉ちゃんに学費の負担がかかるから……読み書きと計算は、お姉ちゃんが教えてくれるの。お友達は、近所に何人かいるよ」
そうか。獣人でさえ、この有り様では、今の人間などはほとんど教育も受けられていないんだろうな。
お風呂から出たら……あれ、専用装備がない?
「ああ、あんたの服、なんか血なまぐさかったんで洗濯しておいたから。
朝までに乾くとは思うけど、今夜はあんたが持ってた下着で寝なよ」
ああ。下着ってあのロッカールームで拾ったブラとパンツか。
ありゃ、結構ブカブカだわ。
薄い毛布を貸してもらって、三人で川の字で床に転がった。
ああ、なんか疲れたなー。でも屋根があるところで寝られてよかった。
明日からどうしよう? とにかく、第三区画に行ってみるしかないか……。
「お姉ちゃん。なんか寒い」
「ああ、ごめんねコイマリ。もう火は落としちゃったから。
お姉ちゃんにくっつくかい?」
「えー、やだよー。寝ずらいよー」
「コイマリちゃん。私の毛布、使っていいよ」
アリーナはそう言って自分に掛かっていた毛布をコイマリに掛けてあげた。
「いや、幾らなんでも悪いよ。あんた一応お客さんだし……あんたも寒いだろ?」
「はは。私、北国育ちなもんで、寒さにはめっぽう強いの。だから気にしないで」
「そうなのか……ありがとうねスフィーラ。
そんじゃーさー。あんたがあたしにくっつくかい?」
「ええっ? そんな……悪いよ」
「あー、お姉ちゃんずるい。私がスフィーラ抱っこするのー」
ああ、やっぱりペットかな、私。
結局、姉妹の間に寝る事になって、アリーナは数百年ぶりに、ケモミミのモフモフを堪能する事が出来た。
◇◇◇
「それじゃ、お世話になりました。落ち着いたら、また顔見に来ていいかな?」
「ああ、もちろんだよ。コイマリも喜ぶよ。
あとね、スフィーラ。あんたほどの器量があれば、もしかして領主様に気にいられるかもしれないとちょっと思ったんだ。
だから食うに困ってやっぱり街娼とか考えるんだったら、それもありかなって」
「えー……ここの御領主様って、エルフでしょ? 人間でも愛人になれるの?」
「いやいや、なれるどころか……しょっちゅう第三に人をやって、人間の美少女をスカウトしてるって話だよ」
「それって怪しくない? なんか性的虐待とかされそう」
「かもね。まあ私もうわさで聞きかじった程度だし、話半分という事でね」
「うん。それ絶対ないから」
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