第3話 S-F10RA-996
私、アリーナ・エルリード・フラミスは、ジョシュア・エルリード・フランネル国王の第一王女だった。
母は、私を生んですぐに亡くなってしまったとの事で、その記憶はない。
十三歳のお誕生日の直前、私は学校で突然意識を失い、救急病院に搬送され精密検査を受けたが、結果は悪性の脳腫瘍と診断された。そして脳だけでなく全身への転移もひどく、すでに施しようがない状態との事だった。
「ああ……神よ。どうして、私の大切な一人娘を奪おうとなされるのか……。
この子が助かるのなら、わが命は惜しくありません……」
国王である父の嘆きは大きく、ありとあらゆる医術、魔法、祈祷が試されたが、どれも結果は芳しくなかった。
そしていよいよ余命あと一年以内と宣告された日の夜。
父が枕元に来て、私に話掛けた。
「アリーナよ。お前が目の前からいなくなってしまうと思うと恐ろしくて夜も眠れない。時間を作って極力そばにいる様にするからね」
「ありがとう、お父様。私もそのほうがうれしいです。
ああ、でも学校のお友達にも会いたいなー。それに、もう少しで土魔法の上級認定が取れる所だったのに、こんな事になってしまって……」
「それで、アリーナよ。予めお前の了解を取っておきたいのだが……その……お前が死んだ後の話で大変恐縮なのだが……。
お前がこの世に生きていた証を私の手元に残させてはくれないか?」
「写真やビデオはたくさんあるじゃない。それとも、肖像画か銅像でも用意する?
あー、はく製ってのはやめてよね……」
「いや。最新の科学技術で、まだ一般には公開されていないのだが、一人の人間の人格を丸々、機械に保存する事が出来るらしいのだ。今はまだ保存だけで、それを再生するところまではいかないらしいのだが……時がたてば、お前の人格を再現する技術も完成するに違いないと思うのだ。こうして話をする事は当分出来ないかもしれないが、お前が側にいるというだけで、私は心強く生きられる様な気がしているのだ」
「……お父様がそれを望まれるのであれば……」
正直、その時は自分自身の未来に絶望しかなく、自分の事というより、お父様がそれで喜ばれるのならよいという気持ちで御受けした。
そして十五歳の誕生日。私はその機械と繋がった。
その後の事はあまりよく覚えていないが、ひどい頭痛や全身の痛みが続く日々で、緩和ケアという治療を受けていたと思う。
そして、死の間際まで私のデータはその機械に転送され続け……病室の窓の外に虹がかかっていたのが、多分、私が最後に見た光景だ。
◇◇◇
「モルツさん……でしたよね? 私の人格データは、父上がどこかに保管してあったのだと思うのだけれど、なぜ今になってこんな所に、出て来られたの?」
【モルツと呼び捨てで良いです。
先刻の兵装チャージユニット再起動後の人格アップロード時、ミサイル攻撃の衝撃で人格メモリバンクのアクセスに誤動作が生じ、兵装用AI人格に替わって、ラボの特権メモリーバンクにあったアリーナの人格がロードされたものと推定】
「まったく何を言っているのか、さっぱり分からないわ。
モルツ、分かる範囲でいいから、今の状況を順序立てて説明して下さらない?
ゆっくりでいいから」
そして、モルツは自身のメモリバンクにある情報を、順次アリーナに説明していき、その情報はクラナレーン陸軍ラボが沈黙する日の分まで保管されていた。
「なるほどね……とはいっても多分半分も理解出来ていないかも。
ともかく……私達の国は異世界のエルフとの戦争に負けて、王族達は他の惑星に逃げたと……。
それで、私はラボが落雷で誤動作した拍子に、アンドロイドの兵士にインストールされちゃったと……。
アンドロイドっていうのは、たしかゴーレムみたいなやつですよね?
でもこれ、魔法行使しなくても動くのね。それでAIって何ですの?」
【本機は超小型リアクター装備であり、ナノマシンによる微細修復機能があるので、魔法によらず、起動後三年はメンテナンスフリーです。
AIは、アリーナの時代だと人工知能という名称で研究が始まったばかりかと。
それに本機はセクサロイドであり、通常のアンドロイドとは一線を画します】
「ああ、人工知能か。それなら聞いた事あるわ。
魔法の先生が、将来ゴーレムに組み込めたら面白いとか言ってたような……。
で、セクサロイドってアンドロイドとは何が違うの? 鏡が無いのであまりよくわかりませんがこの身体、確かにすごくきれいで、大人の女性って感じですよね」
【セクサロイドは、アンドロイドに性交能力を付与した機体です。
S-F10RA-996は、兵士用アンドロイドをベースに、最前線で士官の慰安も行える様に設計された、王国最新・最終のセクサロイドです。
設計想定年齢は十七歳】
「ふーん。私も十七歳になったら、こんなナイスバディになったのかしら?
それにしても成功ねー。何を成功させるの? 軍事作戦?」
【いえ、
「へーっ…………って、何ですってぇーーーーーー!?」
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