第2話 復活の日

 残された王国民が異世界のエルフに隷属して、二十年程経過した。


 すでに王国支配時の面影は払拭され、多くの都市がエルフ様式で再開発され、 旧王国の人間は、エルフを支配層にいただき、やはり異世界から移民してきた獣人らと、社会生活を共にしていた。


 しかし当然、その身分ヒエラルキーは最下層だ。


 そんな状況で、多くの人間はその日食べるのに精いっぱいな生活を強いられていた。そして自分たちを見捨てた王族と支配階級への恨みは今だ根強かった。


 そんなある日の夕方。


 王国北方の、とある山深い所にある、朽ちた鉄塔に偶然落雷があった。

 

## Pi・・・・・エネルギー供給を確認

## 再起動シーケンスを実行します


 その鉄塔の遥か地下に埋まっていた、とある装置が落雷のショックで再起動し、崩れかけた室内で、一つのモニタが明るく点灯した。


## システム損害状況確認・・・・・・クリア

## 修復プロセスチャージ・・・・・・クリア

## 演算ユニット 2/5動作確認

## システム起動・・・・・・クリア

 

 まったくの偶然ではあったのだが、旧王国府のラボの一部が落雷でシステム再起動を始めた。


## 王国府 兵装チャージユニット。プロセス開始

## 補充ターゲット……AI歩兵……

###エラー……ストック筐体なし。代替パーツ検索

## ヒット……パーツ番号:S-F10RA-996。初期チェック完了

###エラー……AI歩兵用標準人格。メモリバンク破損。代替パーツ検索


 その時だった。ものすごい衝撃が発生して、ラボの屋根と壁が損壊した。

 兵装チャージユニットの稼働をキャッチしたエルフ軍が、遠距離でミサイルを撃ち込んできたのだった。


## ・・・・%‘#?*・・・・・メモリバンク アルファ2アクセス権限OK

## ヒット……メモリバンク アルファ2-アリーナ

## 人格ロード開始……%&)-/+ 電圧低下を検知。予備電源に切り替え

## ………##)¥~……ロード完…………


 プシューっという音がして、そこでモニタの灯りが切れた。

 

 ◇◇◇


「おい、今の何だったんだ? 

 いきなり地対地ミサイルSSMが飛んでったが……」

 旧王国府近くに展開中の、エルフ駐屯軍ミサイルレーダーサイトに詰めていた士官がぼやいている。


「どうやら落雷か何かで、旧王国軍の設備が一部通電状態になったのを監視衛星が検知した様です。AIの自動監視範囲内でしたから……。

 もうSSMで沈黙しています。一応、上に報告上げときますね。

 現地の調査はどうしましょ?」


「うちのSSMは百発百中だって……。

 て、これも王国さんが置いてった技術だけどな!

 でもまあ、万一レジスタンスの仕業だったりしたら厄介だ。

 一個小隊位で偵察に向かわせろ」


「ラジャー!」


 ◇◇◇


 ふたたび山奥の地下ラボ。

 すでに通電は切れ、崩れかけた部屋の中は真っ暗だ。

 

 しかし部屋の中央にいつの間にか二mほどの高さの立方体が出て来ている。

 そして、それは次の瞬間、カチリと音を立てて、左右に分かれた。


 中から出て来たのは……さっきの工程で偶然完成されたアンドロイドだった。


「……ふわー。なんか頭がぼーっとするわね。でも、すっごくよく寝た気分だわ。

 それにしてもここはどこ? 真っ暗で何にも見えやしないじゃない……」

 手探りで歩くが、ガレキが足の先に当たって痛い気がする。


「あれ。靴も履いてないのか……でもこれじゃ何にも出来ないよ。

 あー、あれは非常灯かな。あれに沿って行けば、どこかに出られるかも!」

 そう言いながら生まれたてのアンドロイドは、緑色の光を追って慎重に歩き始めた。


 しばらく進むと、頑丈そうな扉があり、どうやら鍵がかかっている様だ。

 しかも、電力の供給が心もとないのか、足下の非常灯も明滅しだしている。


「あーん。これじゃ万事休すだわ……えーい、こんちくしょう!」

 思いきりドアを蹴ったら、ドアが吹っ飛んだ。


「ありゃ? もしかして腐ってた? でも通れてよかったわ」

 しかし細い廊下をしばらく進むうち、やがて非常灯がまったく光らなくなってしまった。予備電力も尽きたのだろうか。


「うわー、真っ暗だわ。どうしましょう……」

赤外線IRモードを起動します】


 えっ、今の何? 誰がしゃべったの?

 周りを見回すが誰もいない……というか、あれっ、周りの様子が見えるわ。


「ねえ、誰なの? 出て来てよ。お話しましょうよ」


【私は支援AIのモルツです。

 あなたの人格は、本機との標準インターフェースに準拠していません。

 そのため、対話モードで起動しています】


「AI? 対話モード?」

【はい。ですが詳しい事は後程のほうが良いでしょう。

 まもなくこの回廊は崩れ始めます】


「えっ! そうなの? じゃ、さっさと逃げないと……」

【移動方向を指示します】


 モルツの指示に従い、なんとか地上に出られたが、ほどなくいま来たあたり一帯が、地響きとともに大きく陥没した。いやー、危なかったわ。


 あたりを見渡すと、月の光でそれなりに様子が分かり、かなり山深い所の様で積雪もかなりある。しかしあんまり寒くないなーと、自分の身体を改めて見てみると……。


 えー!? 裸!!

 ち、ちょっと待ってよ。年頃の乙女がこんな野外ですっぽんぽんなんて……。


【慌てないで下さい。本機は耐熱耐寒構造です。

 このくらいの気温は問題ありません】

「もー。そう言う事じゃなくて!」


 だが落ち着いて見回すと、他に人はいない様だし、確かにモルツの言う通り、全く寒く感じない。ふーっと深呼吸して、改めてモルツに話掛けた。


「ねえ。あなたはどこから話しているの?」

【本機のブレインデバイス内のROMにプリセットされています。

 通常のAI人格なら標準インターフェースで連結出来るので会話は不要ですが、あなたはそれに準拠していません。

 ですので、まず使用者登録をお願いします】


「使用者登録?」

【はい。あなたは本機:S-F10RA-996にインストールされた人格ですが、当方のメモリバンクにその認証がありません。

 認証を完了させる事で、本機のすべての機能を使用出来る権限が付与されます】

「何の事を言っているのか、さっぱり分からないわ。私は、どうすればいいの?」

【自己紹介をお願いします】


「私の名前は、アリーナ・エルリード・フラミス。

 王国歴 848年3月3日生まれ。

 ジョシュア・エルリード・フランネル王の第一王女よ」


【アリーナ・エルリード・フラミス。

 認証を確認。本機の全ての権限を付与しました。

 ようこそ、セクサロイド:S-F10RA-996へ】


「セクサロイド? それじゃ、今度はあなたが私の質問に答える番よ。

 ここはどこなの? 

 今は一体何年何月何日なの? 

 それで、父上や侍女たちはどこにいるの?」


【ここは王国北部クラナレーン陸軍ラボ跡地。

 現在、王国歴 1124年12月28日。

 父上というのが、ジョシュア・エルリード公であれば、881年に逝去。

 侍女というのは情報が足りません】


「ちょっと待ってよ……1124年って、私二百歳越えてるの? 

 この間のお誕生日パーティの時は、十四歳だったと思うのだけれど……」

【王室歴を検索。

 アリーナ・エルリード・フラミス姫。863年逝去。享年15歳】


 えっ? それって……あっ!! 思い出した……。

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