第一章 エッチをしないセクサロイド?

第1話 プロローグ

 私達の世界とはちょっと異なる次元の、とある惑星のとある王国でのお話。


 王国歴 1025年。


「来月打ち上げ予定の外宇宙探査ロケット、ブリリアント16はすでに……」

 TVでは、王国科学院の誇る最新型ロケットの特番が流れている。


 それを観ていた少女が、母親に問いかける。


「ねえママ。今はこんなに科学全盛だけど、昔は魔法もあったって本当?」

「ええ、本当らしいわ。私も実際に見た事はないけどね」

「へー、そうなんだ。でも何で魔法はなくなっちゃったの?」

「うーん。どうしてだろ。でも、多分使える人がもういないんじゃないかな? 

 ここ百年位で、宇宙開発が飛躍的に進歩したんだけれど、魔法はこの星でしか使えなかったと聞いてるわ。

 だから全宇宙で万能な、科学を学ぶ人が増えたんじゃないかな?」


「でも……自分で魔法使えたら、なんか面白そう」

「はは。でも、もう大抵の事はこれで出来ちゃうしね」

 そういいながら、母親は、手帳大の自分のセルフデバイスを掲げてみせた。


「ピンポーン・ピンポーン」

 その時、TVから緊急速報のチャイムが鳴り響き、画面がロケットの特番から、スタジオのアナウンサーに切り替わった。


「緊急速報です。先ほど、未確認の浮遊型戦闘艦が複数、王都上空に現れ、我が国指導部に対し降伏勧告をした模様です。

 現在、王国府で事実確認と対応の検討が行われていますが、王国民の皆さんは、セルフデバイスを各自保持して、次の連絡・指示に備えて下さい。

 万一の避難先もセルフデバイスの指示に従って下さい。

 皆さん、くれぐれも落ち着いて行動して下さい」


「ママ……これって……」

 母娘は、不安そうに自分のセルフデバイスを握りしめた。


 ◇◇◇


「状況はどうなっている!?」

「はっ! 今しがた敵方より入電。明朝までに返答を求むと……」

「朝までだと……それまでに議会も含めた同意を得られる訳がない!」


 王国府の危機管理室で、現宰相が怒鳴っている。

 朝までとは……やつらが持ってきているのは飛行戦艦だ。

 返答しなければ即、攻撃開始という事か……だが……。


 そう。やつらはいきなり何の前触れもなくやってきた訳ではない。

 すでに一年前から、水面下で接触があったのだ。

 それを、たかが異世界のエルフと舐め切った議会の多数派が、のらりくらりと議論を先送りしやがって……挙句の果てがこの様だ!


「議会からは何と言ってきている!?」

「……うち滅ぼせと。そのために準備もしているはずだと……」

「馬鹿野郎! それじゃ戦争だろ!」


 そう。確かに一年前に奴らと接触して以来、秘密裏に準備は進めてある。

 だからといって、話合いの機会を放棄して武力衝突しろと……。


 ふうーっ。宰相と言っても所詮、任命権を持つ議会にはかなわない。

 よーし。やってやろうじゃないか。

 ただし、責任は俺だけでなく、議会にも取ってもらうぞ。


 宰相は、秘話通信のマイクを手に取って言い放った。


「全軍、攻撃開始!」


 ◇◇◇


 最初に来た異世界の戦艦部隊は、王国軍の奇襲でなんとか撃退出来た。


 しかし、それで終わる訳もなく、次々と双方の戦力が投入され、戦争は長期戦の様相を呈した。

 果てしない消耗戦が五十年位続き、異世界側が王国の通信網をマヒさせる兵器の開発に成功してから、戦況は年々王国に芳しくなくなってきた。


 そして王国歴 1091年。

 開戦時から年月も経ち、王国側の指導者たちも代替わりしていた。


「国王陛下。報告致します。

 今回も、こちらからの停戦・和平交渉は、全く相手にされませんでした。

 そもそも、話合いの機会を捨てたのは君たちだと、敵側は申しております」

「そうか……こちらとしては、先代、先々代の過ちなので、なんとか赦してほしいものなのだが」国王スリーメイス・エスリード二世は、力なくそう言った。


「あっちは長命ゆえ、いまだ開戦当初の連中が指導者ですから、最初に戦艦を奇襲され、多大なる犠牲を出した事を、まだ根に持っているのでしょう。

 こうなっては、降伏したとしても、我々の助命は難しいかも知れません。ですからもはやZ計画しか……」


「宰相。世にこの星を捨てろというのか……」


「陛下。幸い、ここ二百年来の宇宙開発で、移住できそうな惑星候補もいくつか上がっております。全ての王国民をという訳には参りませんが、王族並びに指導者階級の者たちだけでも、例のロケットで脱出する算段をすべきかと存じます。

 別の星で再起の爪を研ぎましょう!」


「じゃが、幾ら移民用亜光速ロケットとは言え、大人数でそんなに何十年も何百年も飛んでいられるものなのか?」

「はい。それに関しては、いささか不本意ではありますが、搭乗者はDNAデータと人格データとして、外部記憶に保存されます。肉体は長期の宇宙旅行に耐えられませんので、置いて行くしかありません」


「…………それしかないのじゃな?」

「……はい」


 こうしてZ計画は国王に承認され、国の要人は、秘密裏に外部記憶に順次保管され、国民の前には、AI製の彼らのフェイク画像が流され続けていた。


 そして王国歴 1097年。

 惑星脱出用の亜光速ロケットは、王国民に知られる事無く、この星を旅立った。


 ロケットが安全圏に去ってから、異世界のエルフ達に降伏文書が送信され、残された王国の人間は、棄民として異世界のエルフに隷属せざるを得なくなった。


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