今日は不運

山本アヒコ

今日は不運

「おうし座のあなたの運気は最悪です」

 家を出る前にテレビからそう聞こえた。

 今日は朝から足の小指をぶつけて痛かったし、スマホのアラームを設定し忘れていたから学校へ遅刻しそうだし、本当に最悪だ。

 必死で走っていると、横から自転車が飛び出してきた。

「あぶねえだろっ!」

 自転車に乗ったオッサンに怒鳴られて、さらに最悪。

 俺も自転車通学なら遅刻することもないのにと、理不尽な怒りがこみ上げる。

 息を切らしながら走り、赤信号で止まる。運動部でもなく、普段からゲームばかりしているので体力はない。膝に手をやってゼエゼエと荒い息を吐く。

 今の時刻を確認するためスマホを見ると、バッテリーがもう残っていない。充電するのを忘れていた。画面が黒くなり、自分の疲れた顔が反射して見えた。最悪だ。

 信号が青になり急いで渡るが、足がすでに疲れていた。

 歩いているのと変わらない速度でよたよた走っていると、突然大きな音が聞こえた。

 思わず足を止めてそちらを見ると、トラックと軽自動車が正面衝突していた。しかもその後トラックはこちらに向かってきた。スピードはかなり速い。

 逃げようと思うが、体が動かない。だが、急に横から体を突き飛ばされた。

 顔だけなんとか動かすと、同じクラスの男がいた。名前は鈴木。友人ではないので、あまり話をしたことは無かった。

 トラックが鈴木にぶつかる寸前、地面に光る円が現れ、そこから噴き出した眩い光に彼の体が隠された。

 トラックが俺の目の前を横切り、電柱へ衝突する。

 俺はトラックが通る一瞬前に、鈴木の姿が消えていたのを見た。


 鈴木はその日から行方不明になった。

 ただ俺だけは、鈴木が異世界へ行ったことを知っている。

 あの時、鈴木が助けてくれなければ俺が異世界へ行くことになっていただろう。危なかった。

 でも、本当にそうだろうか。もし俺が異世界へ行ったのなら、とんでもないチート能力をもらえたりしたのかもしれない。そうじゃないのかもしれない。

 なにしろあの日の自分の運勢は最悪だったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日は不運 山本アヒコ @lostoman916

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ